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2回目のリープ
13.友達になろう2
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「ごちそうさん。じゃ、俺そろそろ帰るわ」
「もう帰んの」
「ああ、だってもう十時過ぎてんだろ。ほら青少年なんちゃら法ってやつ。未成年が一人で歩いてると、補導されちまうんだって」
「あーだから俺よく声かけられんのか」
妙に納得したような顔で頷く鏑木に、何度も補導されたのに知らんかったのかと呆れた。
「鏑木、明日は学校くんの?」
「俺? あー……明日は行くかな」
「そっか」
「気が向いたらだけどなー」
「ん。そっか」
立ち上がってリュックを背負うと、鏑木もパンの空き袋を持ったまま立ち上がった。
「……そういやさ、木嶋、なんでずっと俺のこと追いかけてたんだよ」
「あー……」
布団を大股で跨ぎながら、なんと答えるべきか頭をかく。
いきなり『お前は死ぬかもしれないからそれを阻止するためだ』とは言えるはずがない。
「別に追いかけてた訳じゃ……っ! いってーな」
いきなり膝裏を蹴られ、カクンとしながら鏑木のほうを見ると、鏑木は怒った顔でこっちをみていた。
「嘘つけ! どうせ松永にでも頼まれたんだろ」
「それはない。松永とは何も話してない」
これは本当だ。前回の時間軸では仲が良かったが、今回はまったくと言っていいほど接点がない。
「じゃあ、なんで追い回すんだよ」
なんと言えばいいのか。ここで間違えば、親しくなるどころか、きっともう鏑木は俺と目を合わせることすらしないだろう。
「いや……、ちょっと、友達になりたくて……」
でも俺の口から出てきた言葉はこれだった。
俺ってマジで不器用すぎる。
「ほら、俺、友達いねーしさ、学校でも一人だし……」
しどろもどろでゴニョゴニョと言い訳をする俺。
これはもう絶対鏑木に引かれるやつだ。もうこれ以上取り繕えない。
失敗した、終わったと覚悟した。
だが意外にも鏑木は引くどころか、俺の言葉を聞いて吹き出した。
「ぶはっ! マジで? 毎日がっこ行ってるのに友達いねーの?」
ぎゃははとてっぺんが黒い金髪を揺らし、腹を抱えて笑う鏑木。
「木嶋、顔こえーもんなー。そっかーしかたねーな、俺が友達になってやんよ」
「……」
なんだかすごく腑に落ちないが、もういいこれでいこう。
友達がいないのは本当だし、嘘じゃない。
俺がはーっとため息をつくと、鏑木がガシッと肩に腕を回して凭れてきた。
「よし! じゃあ夜道が怖いっていう木嶋のために、友達の俺がそこまで送ってやんよ」
「……怖くねーって」
ヒャヒャと変な笑い声をたてながら、背の低い鏑木は俺にぶらさがるようにしながら、狭い階段を一緒に降りていく。
階段を落ちそうになって、俺があぶねーって焦るのもおかしいらしく、ゲラゲラ笑っている。
懐に入ってしまえば、人懐こくて笑い上戸で、結構いいヤツなのかも。
だがそんな鏑木も、靴を履いて店に繋がるドアを開けた瞬間、スンと素に戻った。
香水とタバコと酒が混じる空間に足を踏み出し、「やだーもう帰っちゃうの~?」という若いホステスの高い声とギラギラとしたレーザーの光を浴びながら、俺たちは外に出た。
「分かるとこまで案内してくれたら、一人で帰れっから」
「んー」
黒いズボンのポケットに手を突っ込んで、ちょっと猫背気味にゆらゆらと歩く鏑木。さっきまでの上機嫌が嘘のように、いつもと同じ無愛想な鏑木に戻ってしまった。
「……じゃあこの辺でいいから。ありがとな」
バイト先の居酒屋近くの道に出て、鏑木に別れを告げると、鏑木も「ん」と立ち止まって俺の方を向いた。
「……顔、殴られたとこ腫れるから、帰ったら冷やせよ」
だんだん朽ちて変な色になっていく鏑木の頬を指差すと、鏑木がにへっと笑った。
「ちょっと腫れるくらいがいーんだよ。じゃなー」
そう言って鏑木は、派手な色に照らされながら、もと来た道へ引き返していった。
アパートに着き、真っ暗な玄関を開けると、「ただいま」と誰もいない部屋に向かって声をかけた。狭い玄関で靴を脱いで入り、台所の電灯の紐を引っ張り、電気をつける。
時計はもう夜十一時近い。俺はふあっとあくびをした。
一日の疲れは風呂で流すのが習慣の俺は、風呂の掃除をしながら、一日の出来事を反芻し、ゆっくりと湯につかって鏑木とやっと接触できたことに安堵していた。
「もう帰んの」
「ああ、だってもう十時過ぎてんだろ。ほら青少年なんちゃら法ってやつ。未成年が一人で歩いてると、補導されちまうんだって」
「あーだから俺よく声かけられんのか」
妙に納得したような顔で頷く鏑木に、何度も補導されたのに知らんかったのかと呆れた。
「鏑木、明日は学校くんの?」
「俺? あー……明日は行くかな」
「そっか」
「気が向いたらだけどなー」
「ん。そっか」
立ち上がってリュックを背負うと、鏑木もパンの空き袋を持ったまま立ち上がった。
「……そういやさ、木嶋、なんでずっと俺のこと追いかけてたんだよ」
「あー……」
布団を大股で跨ぎながら、なんと答えるべきか頭をかく。
いきなり『お前は死ぬかもしれないからそれを阻止するためだ』とは言えるはずがない。
「別に追いかけてた訳じゃ……っ! いってーな」
いきなり膝裏を蹴られ、カクンとしながら鏑木のほうを見ると、鏑木は怒った顔でこっちをみていた。
「嘘つけ! どうせ松永にでも頼まれたんだろ」
「それはない。松永とは何も話してない」
これは本当だ。前回の時間軸では仲が良かったが、今回はまったくと言っていいほど接点がない。
「じゃあ、なんで追い回すんだよ」
なんと言えばいいのか。ここで間違えば、親しくなるどころか、きっともう鏑木は俺と目を合わせることすらしないだろう。
「いや……、ちょっと、友達になりたくて……」
でも俺の口から出てきた言葉はこれだった。
俺ってマジで不器用すぎる。
「ほら、俺、友達いねーしさ、学校でも一人だし……」
しどろもどろでゴニョゴニョと言い訳をする俺。
これはもう絶対鏑木に引かれるやつだ。もうこれ以上取り繕えない。
失敗した、終わったと覚悟した。
だが意外にも鏑木は引くどころか、俺の言葉を聞いて吹き出した。
「ぶはっ! マジで? 毎日がっこ行ってるのに友達いねーの?」
ぎゃははとてっぺんが黒い金髪を揺らし、腹を抱えて笑う鏑木。
「木嶋、顔こえーもんなー。そっかーしかたねーな、俺が友達になってやんよ」
「……」
なんだかすごく腑に落ちないが、もういいこれでいこう。
友達がいないのは本当だし、嘘じゃない。
俺がはーっとため息をつくと、鏑木がガシッと肩に腕を回して凭れてきた。
「よし! じゃあ夜道が怖いっていう木嶋のために、友達の俺がそこまで送ってやんよ」
「……怖くねーって」
ヒャヒャと変な笑い声をたてながら、背の低い鏑木は俺にぶらさがるようにしながら、狭い階段を一緒に降りていく。
階段を落ちそうになって、俺があぶねーって焦るのもおかしいらしく、ゲラゲラ笑っている。
懐に入ってしまえば、人懐こくて笑い上戸で、結構いいヤツなのかも。
だがそんな鏑木も、靴を履いて店に繋がるドアを開けた瞬間、スンと素に戻った。
香水とタバコと酒が混じる空間に足を踏み出し、「やだーもう帰っちゃうの~?」という若いホステスの高い声とギラギラとしたレーザーの光を浴びながら、俺たちは外に出た。
「分かるとこまで案内してくれたら、一人で帰れっから」
「んー」
黒いズボンのポケットに手を突っ込んで、ちょっと猫背気味にゆらゆらと歩く鏑木。さっきまでの上機嫌が嘘のように、いつもと同じ無愛想な鏑木に戻ってしまった。
「……じゃあこの辺でいいから。ありがとな」
バイト先の居酒屋近くの道に出て、鏑木に別れを告げると、鏑木も「ん」と立ち止まって俺の方を向いた。
「……顔、殴られたとこ腫れるから、帰ったら冷やせよ」
だんだん朽ちて変な色になっていく鏑木の頬を指差すと、鏑木がにへっと笑った。
「ちょっと腫れるくらいがいーんだよ。じゃなー」
そう言って鏑木は、派手な色に照らされながら、もと来た道へ引き返していった。
アパートに着き、真っ暗な玄関を開けると、「ただいま」と誰もいない部屋に向かって声をかけた。狭い玄関で靴を脱いで入り、台所の電灯の紐を引っ張り、電気をつける。
時計はもう夜十一時近い。俺はふあっとあくびをした。
一日の疲れは風呂で流すのが習慣の俺は、風呂の掃除をしながら、一日の出来事を反芻し、ゆっくりと湯につかって鏑木とやっと接触できたことに安堵していた。
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