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2回目のリープ
11.鏑木の家2
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「着いたぜ、俺んち」
「……ここ? マジで?」
「ああ」
鏑木が俺を案内した先は、誰がどう見てもザ・スナックという感じのお店だった。
そこは、俺のバイト先から少し離れた夜のお店が連なる通りにある古い建物で、年季が入り所々色の剥げた真っ赤な扉には『スナック るい』というレトロなロゴの看板が掛けられていた。
窓が一切ない、イメージとしてよくある場末のスナック特有の外観に、俺は少し気後れした。
だがそんな俺を尻目に、鏑木は躊躇なくドアを開けた。
「きゃーハルちゃーん! おかえりぃ~!」
薄暗い室内からは、キラキラしたレーザーのような照明と、おっさんが聞きそうな古い歌謡曲。そして香水とタバコと酒が入り混じったにおいが一斉に外へ溢れ出る。
そして甲高い女性の声を合図に、中にいた人々の視線が、鏑木へと集中した。
「……ただいま」
「おーハルちゃん、おかえり。今日もボロボロだねぇ。喧嘩もいいけど、ほどほどにな」
壁際の箱のような椅子に腰掛けた常連と思しき爺さんが、気安く鏑木に声をかける。だが鏑木はそれを無視し、椅子と低いテーブルの間をぬって奥へ歩いていく。
「……今日、友達いっから」
「……」
「えーやだ! ハルちゃんお友達ぃ? めっずらしい! やだ、ちょっとイケメンじゃん!」
鏑木は奥のカウンターでコップを磨いていた、黒ベストに蝶ネクタイ髭面のおっさんに声をかけた。だがおっさんは黙ってこちらをチラッと見ただけで何も言わず、代わりに隣にいた若いホステスらしき女が声を上げた。
「おいおい、若い男とみたらなんでもかっこいいのかよ~」
「え~なんだか体格いいしぃ、カッコよくない?」
「俺だって毎日現場で働いてっから、脱いだらすごいんだぜ~」
カウンターに座っていた男とホステスがギャハハと笑い声をあげた。
俺のことをネタにはしているが、言うほど関心はなさそうだった。
(はー……しかしスナックの中ってこんな感じなんだ……)
店内は狭く、ほのかに紫がかった照明は薄暗い。壁にはどこかの演歌歌手のポスターが貼られ、天井に備え付けれられたレーザー照明が、そのポスターや客たちを妙に派手な感じで回転しながら照らしていた。
カウンター横の大きなテレビにはカラオケの画面が映し出されていたが、誰も曲を入れていないのか、スピーカーからはずっと同じ曲が流れていた。
入り口ドアの前で室内をもの珍しく眺めていると、鏑木が「こっち」と手招きした。その手の示す方向へ、客にぶつからないように注意しながら奥へと進んだ。
「へえ。二階があるんだな」
カウンターの奥にはドアがあり、そこを開けるとなんと階段があった。古めかしい赤い絨毯が張られた木製の階段で、幅はかなり狭く角度も急だ。
「あ、せめーけど、そこで靴脱いで」
俺は小さく「おじゃまします」とだけ言い、鏑木にならって、階段の手前で靴を脱いで上がった。
ドンドンという足音と同時にギシギシと音を立てる階段を上がっていくと、次第に生活臭が鼻をつくようになり、そこで俺はやっと二階が居住スペースなんだなと理解した。
鏑木が上がった先にある引き戸を開けると「中きたねーけど、入って」と言いながら、奥にあるネオンが漏れる窓のカーテンをシャーッと軽快な音を立てながら閉めると、パチンと電灯の紐を引っ張った。
そこは六畳くらいの狭い部屋で、壁のあらゆるところに服がかけられていて、床にはドーナツ状に物が散らかっている。そしてひどくヤニ臭い。机の上には灰が山になった灰皿が置かれているから、そのせいかもしれない。
どこに座ればいいか分からずドアの前で立っていると、鏑木が右側の襖を開けて中に入り、俺に手招きした。
そこは電気もついていない暗い部屋で、かなり狭い。しかもここが寝室なのか布団が無造作に敷かれたままで、そしてヤニ臭さに加え、ややカビ臭く、そして男臭い。
「ほら、これ湿布」
鏑木が暗い部屋の中で、隣の部屋の明かりを頼りに壁際置かれた棚の引き出しを探り、箱に入った湿布薬を見つけると、それを取り出して、俺に手渡した。
「……ここ? マジで?」
「ああ」
鏑木が俺を案内した先は、誰がどう見てもザ・スナックという感じのお店だった。
そこは、俺のバイト先から少し離れた夜のお店が連なる通りにある古い建物で、年季が入り所々色の剥げた真っ赤な扉には『スナック るい』というレトロなロゴの看板が掛けられていた。
窓が一切ない、イメージとしてよくある場末のスナック特有の外観に、俺は少し気後れした。
だがそんな俺を尻目に、鏑木は躊躇なくドアを開けた。
「きゃーハルちゃーん! おかえりぃ~!」
薄暗い室内からは、キラキラしたレーザーのような照明と、おっさんが聞きそうな古い歌謡曲。そして香水とタバコと酒が入り混じったにおいが一斉に外へ溢れ出る。
そして甲高い女性の声を合図に、中にいた人々の視線が、鏑木へと集中した。
「……ただいま」
「おーハルちゃん、おかえり。今日もボロボロだねぇ。喧嘩もいいけど、ほどほどにな」
壁際の箱のような椅子に腰掛けた常連と思しき爺さんが、気安く鏑木に声をかける。だが鏑木はそれを無視し、椅子と低いテーブルの間をぬって奥へ歩いていく。
「……今日、友達いっから」
「……」
「えーやだ! ハルちゃんお友達ぃ? めっずらしい! やだ、ちょっとイケメンじゃん!」
鏑木は奥のカウンターでコップを磨いていた、黒ベストに蝶ネクタイ髭面のおっさんに声をかけた。だがおっさんは黙ってこちらをチラッと見ただけで何も言わず、代わりに隣にいた若いホステスらしき女が声を上げた。
「おいおい、若い男とみたらなんでもかっこいいのかよ~」
「え~なんだか体格いいしぃ、カッコよくない?」
「俺だって毎日現場で働いてっから、脱いだらすごいんだぜ~」
カウンターに座っていた男とホステスがギャハハと笑い声をあげた。
俺のことをネタにはしているが、言うほど関心はなさそうだった。
(はー……しかしスナックの中ってこんな感じなんだ……)
店内は狭く、ほのかに紫がかった照明は薄暗い。壁にはどこかの演歌歌手のポスターが貼られ、天井に備え付けれられたレーザー照明が、そのポスターや客たちを妙に派手な感じで回転しながら照らしていた。
カウンター横の大きなテレビにはカラオケの画面が映し出されていたが、誰も曲を入れていないのか、スピーカーからはずっと同じ曲が流れていた。
入り口ドアの前で室内をもの珍しく眺めていると、鏑木が「こっち」と手招きした。その手の示す方向へ、客にぶつからないように注意しながら奥へと進んだ。
「へえ。二階があるんだな」
カウンターの奥にはドアがあり、そこを開けるとなんと階段があった。古めかしい赤い絨毯が張られた木製の階段で、幅はかなり狭く角度も急だ。
「あ、せめーけど、そこで靴脱いで」
俺は小さく「おじゃまします」とだけ言い、鏑木にならって、階段の手前で靴を脱いで上がった。
ドンドンという足音と同時にギシギシと音を立てる階段を上がっていくと、次第に生活臭が鼻をつくようになり、そこで俺はやっと二階が居住スペースなんだなと理解した。
鏑木が上がった先にある引き戸を開けると「中きたねーけど、入って」と言いながら、奥にあるネオンが漏れる窓のカーテンをシャーッと軽快な音を立てながら閉めると、パチンと電灯の紐を引っ張った。
そこは六畳くらいの狭い部屋で、壁のあらゆるところに服がかけられていて、床にはドーナツ状に物が散らかっている。そしてひどくヤニ臭い。机の上には灰が山になった灰皿が置かれているから、そのせいかもしれない。
どこに座ればいいか分からずドアの前で立っていると、鏑木が右側の襖を開けて中に入り、俺に手招きした。
そこは電気もついていない暗い部屋で、かなり狭い。しかもここが寝室なのか布団が無造作に敷かれたままで、そしてヤニ臭さに加え、ややカビ臭く、そして男臭い。
「ほら、これ湿布」
鏑木が暗い部屋の中で、隣の部屋の明かりを頼りに壁際置かれた棚の引き出しを探り、箱に入った湿布薬を見つけると、それを取り出して、俺に手渡した。
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