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2回目のリープ
6.2度目の始まり1
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「——はい、今日の授業はここまで」
担任の授業終了を告げる声で、俺はハッと目を開けた。
すぐに顔を上げ、周囲を見回し、まさかと目を見張る。
黒板には『十月十二日』の日付。
響き渡る授業終了のチャイムの音に、暑そうに腕まくりをしたクラスメイトたちの姿のはしゃぐ声。
(——おいおいマジか……。また10月12日に戻ったってのかよ)
俺の中で今日になるはずだった3月4日の朝、教室に入るとまず、花が飾られた鏑木の机が目に飛び込んできた。愕然としていたらもうここにいた。
(クソッ! あの程度の些細な変化ではだめだということか)
とりあえず、時間が戻るきっかけは鏑木の死だということはわかった。
(もっと積極的に行動しろってか? あ~~もう! あの日、同情なんかするんじゃなかったぜ)
なんで俺なんだ。鏑木とは本当に何も接点がないのに。
クラスメイトが亡くなって、感傷的になるのは仕方がないだろーが。一体何の因果で、俺はこの五ヶ月間をループしてるんだ。
「木嶋~! 今日、俺らこれからお好み焼き食いに行くけどさー、お前も行かねー?」
この何気ないクラスメイトの言葉にゾッとした。
既視感どころか、まるで動画をリピート再生したみたいだった。
何気ない普段と同じ教室なのに、急にまるで自分だけが一人違うところにいるような感覚。
(……こんなことなら、前回もっとしっかり鏑木のことを調べて、行動にうつせばよかった)
——今更後悔しても仕方がない。
俺の人生にとって貴重なはずの五ヶ月を、無意味なものにしてしまったことになる。だがこれでやっと俺にも、鏑木の死に真剣に向き合う覚悟ができた。
「……わりぃ、俺、今日は予定あっから」
「そっかー。じゃ、しょうがねーな。また今度一緒に行こーぜ」
じゃあなと手を振り、わいわい言いながら教室を出ていくのを見届けると、俺も席を立った。
リュックを背負い、向かうのは松永と鏑木がいざこざを起こしているはずの、旧校舎だ。
〝最初の時間軸と違う選択肢〟ということならば、〝クラスメイトからの誘いに乗る〟という選択でもよかった。だが、俺が友達とお好み焼きを食べたからといって、問題解決の糸口になるとは思えない。前回の松永と同じく、せいぜいちょっとした変化が生まれる程度だ。
今回の時間軸でやるべきことは、些細な変化を起こすのではなく、鏑木と直に接触し、大きな変化を起こすことだ。——そう、鏑木の死を回避するくらいの大きな変化を。
そうでないと俺は永遠にこの時間に閉じ込められてしまう。
俺は脇目も振らず、一直線に裏門の方へ歩いた。 目的地はあの旧校舎の裏だ。 今回はこっちから喧嘩を止めてやる。
案の定彼らは旧校舎の裏にいた。俺は松永を殴る鏑木を見つけると、今度は立ち止まることなくずかずかと二人の前に行き、「いいかげんやめろ」と低い声を出した。
いきなり声をかけられて、二人とも一瞬ポカンとして俺を見た。だが鏑木はすぐに目を吊り上げ「ああ!? なんだてめぇ」と俺を下から睨みつけた。
しかしそんなことで臆する俺じゃなく、鏑木の視線を無視するように、松永の胸ぐらを掴む鏑木の手を取り上げた。
「先生はもう行ってください」
急に現れた俺に松永は驚いていたが、すぐにズレて斜めになっていたメガネをかけ直し、俺を気にするような素振りをしながら去って行った。
松永は少し口の端を怪我しているが、今日は前回より止めるのが早かったからか脳震盪も起こしていなさそうだし、俺がいなくても大丈夫だろう。それに今回俺がやるべきことは、松永と仲良くなることじゃない。
「おい! てめぇ! いい加減にしろ!」
掴んだ手を鏑木が払い除ける。
そして松永の背が遠くなったのを見て、俺に向かって「チッ」と舌打ちした。そして鬱陶しそうに俺に背を向けると、そのまま俺を無視して、鏑木は裏門のほうへ去っていった。
(もっと何か言われるかと思った)
怒鳴るか、喧嘩をふっかけてくるかしてくるかと思った。体格の違いに気後れでもしたのか、鏑木は何も言ってこなかった。
(鏑木のやつ、どこ行くんだろう)
もしかして、これはいいチャンスなのでは。後をつければ、何か情報を得られるかもしれない。運が良ければ、家の場所もわかるだろう。 俺は鏑木の秘密を探るために、尾行することにした。
担任の授業終了を告げる声で、俺はハッと目を開けた。
すぐに顔を上げ、周囲を見回し、まさかと目を見張る。
黒板には『十月十二日』の日付。
響き渡る授業終了のチャイムの音に、暑そうに腕まくりをしたクラスメイトたちの姿のはしゃぐ声。
(——おいおいマジか……。また10月12日に戻ったってのかよ)
俺の中で今日になるはずだった3月4日の朝、教室に入るとまず、花が飾られた鏑木の机が目に飛び込んできた。愕然としていたらもうここにいた。
(クソッ! あの程度の些細な変化ではだめだということか)
とりあえず、時間が戻るきっかけは鏑木の死だということはわかった。
(もっと積極的に行動しろってか? あ~~もう! あの日、同情なんかするんじゃなかったぜ)
なんで俺なんだ。鏑木とは本当に何も接点がないのに。
クラスメイトが亡くなって、感傷的になるのは仕方がないだろーが。一体何の因果で、俺はこの五ヶ月間をループしてるんだ。
「木嶋~! 今日、俺らこれからお好み焼き食いに行くけどさー、お前も行かねー?」
この何気ないクラスメイトの言葉にゾッとした。
既視感どころか、まるで動画をリピート再生したみたいだった。
何気ない普段と同じ教室なのに、急にまるで自分だけが一人違うところにいるような感覚。
(……こんなことなら、前回もっとしっかり鏑木のことを調べて、行動にうつせばよかった)
——今更後悔しても仕方がない。
俺の人生にとって貴重なはずの五ヶ月を、無意味なものにしてしまったことになる。だがこれでやっと俺にも、鏑木の死に真剣に向き合う覚悟ができた。
「……わりぃ、俺、今日は予定あっから」
「そっかー。じゃ、しょうがねーな。また今度一緒に行こーぜ」
じゃあなと手を振り、わいわい言いながら教室を出ていくのを見届けると、俺も席を立った。
リュックを背負い、向かうのは松永と鏑木がいざこざを起こしているはずの、旧校舎だ。
〝最初の時間軸と違う選択肢〟ということならば、〝クラスメイトからの誘いに乗る〟という選択でもよかった。だが、俺が友達とお好み焼きを食べたからといって、問題解決の糸口になるとは思えない。前回の松永と同じく、せいぜいちょっとした変化が生まれる程度だ。
今回の時間軸でやるべきことは、些細な変化を起こすのではなく、鏑木と直に接触し、大きな変化を起こすことだ。——そう、鏑木の死を回避するくらいの大きな変化を。
そうでないと俺は永遠にこの時間に閉じ込められてしまう。
俺は脇目も振らず、一直線に裏門の方へ歩いた。 目的地はあの旧校舎の裏だ。 今回はこっちから喧嘩を止めてやる。
案の定彼らは旧校舎の裏にいた。俺は松永を殴る鏑木を見つけると、今度は立ち止まることなくずかずかと二人の前に行き、「いいかげんやめろ」と低い声を出した。
いきなり声をかけられて、二人とも一瞬ポカンとして俺を見た。だが鏑木はすぐに目を吊り上げ「ああ!? なんだてめぇ」と俺を下から睨みつけた。
しかしそんなことで臆する俺じゃなく、鏑木の視線を無視するように、松永の胸ぐらを掴む鏑木の手を取り上げた。
「先生はもう行ってください」
急に現れた俺に松永は驚いていたが、すぐにズレて斜めになっていたメガネをかけ直し、俺を気にするような素振りをしながら去って行った。
松永は少し口の端を怪我しているが、今日は前回より止めるのが早かったからか脳震盪も起こしていなさそうだし、俺がいなくても大丈夫だろう。それに今回俺がやるべきことは、松永と仲良くなることじゃない。
「おい! てめぇ! いい加減にしろ!」
掴んだ手を鏑木が払い除ける。
そして松永の背が遠くなったのを見て、俺に向かって「チッ」と舌打ちした。そして鬱陶しそうに俺に背を向けると、そのまま俺を無視して、鏑木は裏門のほうへ去っていった。
(もっと何か言われるかと思った)
怒鳴るか、喧嘩をふっかけてくるかしてくるかと思った。体格の違いに気後れでもしたのか、鏑木は何も言ってこなかった。
(鏑木のやつ、どこ行くんだろう)
もしかして、これはいいチャンスなのでは。後をつければ、何か情報を得られるかもしれない。運が良ければ、家の場所もわかるだろう。 俺は鏑木の秘密を探るために、尾行することにした。
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