バッドエンド・タイムリープ!

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最初のリープ

2.鏑木との再会1

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「——はい、では今日の授業はここまで」 

 担任の授業終了を告げる声で、俺はハッと目を開けた。 

 天井隅のスピーカーから、授業時間終了を知らせるチャイムが鳴り響き、担任が「遅くまで残ってないで、さっさと帰れよー」と言いながら、教室のドアをくぐり抜けていく。それと同時に、クラスメイトたちは一斉に帰り支度を始め出した。 

 目を瞑ってから開けるまでは、体感的にはほんの一瞬。 
 さっき、というよりはたった今目をつむった、が正しいくらいのさっきだ。 
 しかしこの様子はどうもおかしい。まるで時間をすっ飛ばして、放課後そのもの——。 

(ちょ、ちょっと待て。さっき学校に来たばかりだぞ!? 俺は朝来てからずっと寝ていたっていうのか?) 

 驚いて辺りを見回した。 
 空気が緩んだ教室内はざわざわと騒がしく、みんなはしゃぐように次々と机の横にかけていたバッグを持って立ち上がる。 

 女子たちは、今日これからどこ行く? 暇ならカラオケ行かない? えー駅まで出てデパコス見にいこーよ、それともイオンに行く? と、賑やかに喋り、男子たちは、腹減ったなー、何か食おうぜ、ファミレス? それかお好み焼き行く? と、楽しそうに放課後の予定を決めている。 

(まさか、俺は放課後まで眠っちまってたのか?) 

 いやそれはあり得ないだろう。 
 持ってきた弁当も食べず、一度も起きることなくずっと居眠りなど考えられない。 

 ではこれはどういうことなのか。 

 しかも不可思議なのは時間だけではなかった。 
 朝は閉め切って暖房がきいていたはずの教室が、風通しをよくするため窓が開いていて、しかもそれでも蒸し暑く感じる。
 そして男子も女子も長袖シャツを暑そうにまくり上げ、ブレザーを着ている者など誰もいない。 

(……おい、待てよ。今は三月だぜ? なんでこんなに蒸し暑いんだ) 

 おかしいのは俺なのか? 

 いや、朝はみんなブレザーを着ていた。朝来たときエアコンがきいていて、教室内がムッとしていたのを覚えている。 

 何がどうなっているか分からない。 
 しかも自分までもがブレザーではなく、合服の長袖シャツ姿であると知ったときは背筋がゾッとした。 

(どういうことだ) 

 なかばパニックになった俺は、黒板の端に書かれた日付けを確認して、さらに愕然とした。 
 そこにははっきりとした白墨で 

『十月十二日』 

 と書かれていた。 

(10月!? まさか!) 

 そうだスマホを見ればいいんだと、俺は慌ててリュックに入れたスマホを取り出し、画面を開くと、10月12日という日付が目に飛び込んできた。 

「……10月12日……?」 

 すぐにブラウザアプリのアイコンをタップし、〝今年何年〟と検索をする。すると検索結果には〝2X20年10月12日〟と大きく表示された。

 2X20年!? 今年は2X21年のはず……! まさか去年の10月12日に戻ったとでも言うのか。

 振り返って鏑木の机を見る。 そこには朝あったはずの花瓶や花がどこにもない。 そして誰も鏑木の話をしていないことが、逆にが2X21年3月4日ではなく、鏑木が死ぬ前に戻ったことを確信づけた。 

「木嶋~! 今日、俺らこれからお好み焼き食いに行くけどさー、お前も行かねー?」 

 さっきお好み焼きを食べに行こうと話していたクラスメイトたちが、俺に声をかける。 

「……いや、俺金ねーからさ。悪ぃけど、また次誘ってくれ」 
「そっかー。じゃ、しょうがねーな。また今度一緒に行こーぜ」 
「ああ。……そういえば今日、鏑木は」 
「はぁ? 鏑木ぃ? さぁ……朝はいたけど、そういや午後は見てねーよな。まあいつものサボりだろ。鏑木となんかあったんか?」 
「……いや、なんでもねー。なんとなく」 
「ははっ、なんだそれ。じゃな、木嶋」 
「じゃあな」 

 おい行こーぜと、クラスメイトたちが楽しそうに笑いながら教室を出ていくのを見送る。 
 やはり鏑木は生きている。ということは、今日が去年の10月12日であることに疑いの余地はなくなったってことだ。 
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