失恋した神兵はノンケに恋をする

Bee

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コウの腕輪※

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 昼間だというのにカーテンを閉め切った薄暗い部屋の中、俺は隣で寝息を立てる恋人を見ていた。
 
 もちろんいつも日中はカーテンを開けているのだが、今日はセイドリックが夜勤明けだから、寝やすいようにカーテンを閉めているだけだ。
 
 夜勤の日は無理して屋敷に帰って来なくてもいいと言っているのに、俺が休みなら少しでも会いたいのだと、そう言ってここに帰ってくる。
 この屋敷に戻ったとき、俺の顔を見られるのが幸せなんだと。
 そういうことを照れもせずサラッと言えるのは、一種の才能だ。愛情深いし、性格も悪くない。金も地位もあるのに、なぜこれまでモテなかったのか、不思議で仕方ない。
 まあそのおかげで、今こうして彼の隣を陣取っていられるのだが……。
 
 
 俺は彼を起こさないようそろっと寝台から降り、机の上にある小さな引き出しから、手のひらサイズの箱を取り出した。
 
 それはこの間セイドリックから貰ったもので、きれいなビロードに覆われた上質な箱の中には、見事な細工の腕輪が入っている。蓋を開けると、それはこの薄暗い部屋の中でもぼんやりと光を放ち、まるで発光しているかのようだ。
 その腕輪には細かな幾何学模様の中にセイドリックの花紋があしらわれていて、よく見ると俺の名前も刻まれている。
 
 一度はこの腕輪の意味に怖気付きセイドリックに突き返したのだが、プロポーズの返事はすぐでなくとも良い、身につけるのも覚悟が決まったらでいいと毎回会うたびに泣き縋るので、押し切られる形で受け取ったのだ。
 
 ——覚悟だって? そんなものとうに決めている。
 俺にはセイドリックが必要だ。記憶喪失騒動の際、嫌でも思い知らされた。
 
 この男に愛されているのが当たり前だと思い込んで、いざ失うとなったとき、俺は狼狽え、なりふり構わず必死で追いすがり、何としてでも側にいようとしたくらいだ。
 
 だが、いつも泥にまみれ小汚い格好の俺には不似合いに思えて、まだ身につけることが出来ないでいた。
 
 
「うー……ん」
 
 寝台でセイドリックが寝返りを打つ。ここは窓が大きく、カーテンの隙間から光がもれやすいので、眩しいのかもしれない。俺は天蓋の薄布を下ろして、彼の上に差しかかる光を遮ってやる。
 しばらくするとブピーブピーという、この男にしては可愛らしい寝息だかいびきだかが聞こえ始めた。
 
(やっと熟睡し始めたな)
 
 俺は箱の蓋を閉じると元の場所に戻した。そしてセイドリックが眠る布団の端を捲ると、その中に体を滑り込ませる。
 ピッタリと体を寄せ、目を閉じた。彼のやや汗ばんだ体から漂う男臭い体臭が俺の鼻をかすめる。
 他の男のものなら眉を顰めるところだが、セイドリックなら別だ。
 俺は彼の首筋に頭をグリグリと押し当て、匂いを吸い込む。彼の匂いを嗅ぐと腹の奥が疼き、思わず足を摺り寄せる。さっきまで散々体を重ねたのに、また勃ってしまいそうだ。
 
 
 夜勤明けのセイドリックは、疲れ知らずのように精力的だ。
 帰ってくるなり、茶も飲む時間すら惜しむように俺を抱きしめ、口づけをせがむ。
 そしてもつれあうようにして寝台に転がると、ようやく眠気がやってくるのか弄る手から力が抜け、次第に動きが緩慢になってくるのだ。
 
 それでも彼のモノは萎えることなく硬く大きく勃ち上がり、俺を求める。
 だから俺は彼の上に跨り、彼のモノを後ろに咥え込んでやるんだ。そうすると彼が腰を突き上げ始め、ゆっくりと絶頂に向かっていく。
 
 上から彼がイクところを見るのもなかなかいい。
 彼が幸せそうに喘ぐのを見ながら、俺は自分のモノを扱き、お互いの快楽を共有する。
 
 
 
 ——正直なところ、セイドリックのことをこんなに夢中になるほど好きになるとは思わなかった。
 
 最初は"厄介ごとに巻き込まれた"という気持ちが強く、彼から逃げることしか考えていなかったのに。
 俺は故郷で胸と腰の立派な女性と結婚し、子供をたくさん作るというのが昔からの夢だった。だからそのために金払いのいいこの国で金を稼ぐことにしたというのに。まさか、故郷にも帰らず、俺よりも立派で俺よりも稼ぎのいい男と所帯をもつことになろうとは。
 
「くくっ」
 
 おかしくなって笑ってしまい、声がつい口から漏れてしまった。
 だがセイドリックは寝息を立てたままだ。
 
 ……もしセイドリックと本当に結婚をすることになるのなら、親兄弟に報告しないといけないな。俺が男と結婚するなんて知ったら、みんなびっくりするだろう。だがきっとセイドリックを見たら歓迎してくれるはずだ。人好きのする柔和な笑顔の腰の低い大男に、俺の小さい下の兄弟たちもきっと懐いてくれるだろう。
 
 
 いつかその話をセイドリックにしなくてはな。
 
 俺は彼の首筋に頭を押し当てたまま、目を閉じた。
 寝息と共に上下する体が、俺を微睡に誘う。
 
 セイドリックが起きたら、腹も減っているだろうから一緒に定食屋へ行こう。
 そんなことを考えながら、俺は眠りについた。





ーーーーーーー

これでこのお話は終わりです。
これまでお読み頂いてありがとうございました!
本当はもっと短い短編になる予定でしたが、思ったよりも長くなり、途中長編に変更させて頂きました。
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※セイドリックの失恋に関しては本編にあたる『神官の特別な奉仕』に詳しいお話があります。そちらも読んで頂けたらとても嬉しいです。
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