失恋した神兵はノンケに恋をする

Bee

文字の大きさ
上 下
37 / 41

コウの腕輪※

しおりを挟む
 昼間だというのにカーテンを閉め切った薄暗い部屋の中、俺は隣で寝息を立てる恋人を見ていた。
 
 もちろんいつも日中はカーテンを開けているのだが、今日はセイドリックが夜勤明けだから、寝やすいようにカーテンを閉めているだけだ。
 
 夜勤の日は無理して屋敷に帰って来なくてもいいと言っているのに、俺が休みなら少しでも会いたいのだと、そう言ってここに帰ってくる。
 この屋敷に戻ったとき、俺の顔を見られるのが幸せなんだと。
 そういうことを照れもせずサラッと言えるのは、一種の才能だ。愛情深いし、性格も悪くない。金も地位もあるのに、なぜこれまでモテなかったのか、不思議で仕方ない。
 まあそのおかげで、今こうして彼の隣を陣取っていられるのだが……。
 
 
 俺は彼を起こさないようそろっと寝台から降り、机の上にある小さな引き出しから、手のひらサイズの箱を取り出した。
 
 それはこの間セイドリックから貰ったもので、きれいなビロードに覆われた上質な箱の中には、見事な細工の腕輪が入っている。蓋を開けると、それはこの薄暗い部屋の中でもぼんやりと光を放ち、まるで発光しているかのようだ。
 その腕輪には細かな幾何学模様の中にセイドリックの花紋があしらわれていて、よく見ると俺の名前も刻まれている。
 
 一度はこの腕輪の意味に怖気付きセイドリックに突き返したのだが、プロポーズの返事はすぐでなくとも良い、身につけるのも覚悟が決まったらでいいと毎回会うたびに泣き縋るので、押し切られる形で受け取ったのだ。
 
 ——覚悟だって? そんなものとうに決めている。
 俺にはセイドリックが必要だ。記憶喪失騒動の際、嫌でも思い知らされた。
 
 この男に愛されているのが当たり前だと思い込んで、いざ失うとなったとき、俺は狼狽え、なりふり構わず必死で追いすがり、何としてでも側にいようとしたくらいだ。
 
 だが、いつも泥にまみれ小汚い格好の俺には不似合いに思えて、まだ身につけることが出来ないでいた。
 
 
「うー……ん」
 
 寝台でセイドリックが寝返りを打つ。ここは窓が大きく、カーテンの隙間から光がもれやすいので、眩しいのかもしれない。俺は天蓋の薄布を下ろして、彼の上に差しかかる光を遮ってやる。
 しばらくするとブピーブピーという、この男にしては可愛らしい寝息だかいびきだかが聞こえ始めた。
 
(やっと熟睡し始めたな)
 
 俺は箱の蓋を閉じると元の場所に戻した。そしてセイドリックが眠る布団の端を捲ると、その中に体を滑り込ませる。
 ピッタリと体を寄せ、目を閉じた。彼のやや汗ばんだ体から漂う男臭い体臭が俺の鼻をかすめる。
 他の男のものなら眉を顰めるところだが、セイドリックなら別だ。
 俺は彼の首筋に頭をグリグリと押し当て、匂いを吸い込む。彼の匂いを嗅ぐと腹の奥が疼き、思わず足を摺り寄せる。さっきまで散々体を重ねたのに、また勃ってしまいそうだ。
 
 
 夜勤明けのセイドリックは、疲れ知らずのように精力的だ。
 帰ってくるなり、茶も飲む時間すら惜しむように俺を抱きしめ、口づけをせがむ。
 そしてもつれあうようにして寝台に転がると、ようやく眠気がやってくるのか弄る手から力が抜け、次第に動きが緩慢になってくるのだ。
 
 それでも彼のモノは萎えることなく硬く大きく勃ち上がり、俺を求める。
 だから俺は彼の上に跨り、彼のモノを後ろに咥え込んでやるんだ。そうすると彼が腰を突き上げ始め、ゆっくりと絶頂に向かっていく。
 
 上から彼がイクところを見るのもなかなかいい。
 彼が幸せそうに喘ぐのを見ながら、俺は自分のモノを扱き、お互いの快楽を共有する。
 
 
 
 ——正直なところ、セイドリックのことをこんなに夢中になるほど好きになるとは思わなかった。
 
 最初は"厄介ごとに巻き込まれた"という気持ちが強く、彼から逃げることしか考えていなかったのに。
 俺は故郷で胸と腰の立派な女性と結婚し、子供をたくさん作るというのが昔からの夢だった。だからそのために金払いのいいこの国で金を稼ぐことにしたというのに。まさか、故郷にも帰らず、俺よりも立派で俺よりも稼ぎのいい男と所帯をもつことになろうとは。
 
「くくっ」
 
 おかしくなって笑ってしまい、声がつい口から漏れてしまった。
 だがセイドリックは寝息を立てたままだ。
 
 ……もしセイドリックと本当に結婚をすることになるのなら、親兄弟に報告しないといけないな。俺が男と結婚するなんて知ったら、みんなびっくりするだろう。だがきっとセイドリックを見たら歓迎してくれるはずだ。人好きのする柔和な笑顔の腰の低い大男に、俺の小さい下の兄弟たちもきっと懐いてくれるだろう。
 
 
 いつかその話をセイドリックにしなくてはな。
 
 俺は彼の首筋に頭を押し当てたまま、目を閉じた。
 寝息と共に上下する体が、俺を微睡に誘う。
 
 セイドリックが起きたら、腹も減っているだろうから一緒に定食屋へ行こう。
 そんなことを考えながら、俺は眠りについた。





ーーーーーーー

これでこのお話は終わりです。
これまでお読み頂いてありがとうございました!
本当はもっと短い短編になる予定でしたが、思ったよりも長くなり、途中長編に変更させて頂きました。
お気に入り登録やしおりが励みになりました。感謝致します。

※セイドリックの失恋に関しては本編にあたる『神官の特別な奉仕』に詳しいお話があります。そちらも読んで頂けたらとても嬉しいです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ダメリーマンにダメにされちゃう高校生

タタミ
BL
高校3年生の古賀栄智は、同じシェアハウスに住む会社員・宮城旭に恋している。 ギャンブル好きで特定の恋人を作らないダメ男の旭に、栄智は実らない想いを募らせていくが── ダメリーマンにダメにされる男子高校生の話。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...