失恋した神兵はノンケに恋をする

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セイドリック、記憶をなくす2

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「お! セイドリック!? 気がついたか。アンリ、先生を呼んでこい!」
 
「はいっ」
 
 ——気が付くとどこかで見たような部屋の寝台の上にいた。俺が起きた事が分かると、珍しくレイルが慌てたような顔で覗き込んできた。
 
「セイドリック! お前、階段から落ちて半日目を覚まさなかったんだぞ! 大丈夫か? 俺のことは分かるか?」
 
「——レイルか。どうしたんだ。ここは? もしかして神殿の病院か? 俺が階段から落ちたって?」
 
「ああっ起き上がるな! 今先生を呼ぶ。お前頭を打ってるんだから、じっとしろ!」
 
 状況を確認するため起き上がろうとしたところを、レイルに無理矢理寝台へ押さえ込まれてしまった。
 正直何が何やらわからぬままだが、レイルの言うことを聞くしかなさそうだ。
 
 
 
 
 
「うわーーーん! ほんと、ごめんなさい!! セイドリック殿ぉ~~~!!」
 
「うるさいぞ! 黙ってろアンリ!」
 
 俺が起きたということで医者にアレコレと診察をして貰ったが、特に異常はなさそうだということで、もう少し様子をみたら部屋へ戻ってもいいということになった。
 
 それにしても、ここは個室とはいえ、外には他の患者がいるというのに、この上なくうるさい。
 
「おい、レイルちょっと来い」
 
 俺はレイルを手招きで呼んだ。
 
「かなりうるさいんだが」
 
「まあ、アンリはお前を突き落とした犯人だからな。お前の目が覚めて嬉しいんだろ」
 
「突き落としてません!! 声をかけたときに肩を叩いただけです!!」
 
「やかましいぞ!」
 
 寝ている俺の足元でアンリ殿が半泣きで叫び、それをレイルが怒鳴る。
 そんな一連のやり取りを聞いて、二人がやけに親しげであることが気になった。
 
「……レイル、お前やけにアンリ殿と仲がいいな。いつからそんなに親しくなったんだ」
 
「——は? 何言ってるんだお前」
 
「いやいや、だってこれまでお前がアンリ殿と話をしているのなんか見たことないぞ。どちらかといえば、俺もお前もアンリ殿のことは何となく避けていたじゃないか」
 
「——え、セイドリックお前、本当に大丈夫なのか?」
 
「何がだ」
 
「…………」
 
 レイルが眉根を寄せて、不審そうな顔で俺を見ている。何だ? 変なこと言ったか?
 隊長の追っかけであるアンリのことを、鼻持ちならないといつも言っていたではないか。
 
 そんなレイルを怪訝な面持ちで見ていると、廊下を人が歩く気配がし、病室の扉が開いた。
 
「セイドリック! 大丈夫なのか!?」
 
 扉から顔を出したのは、なんとコウさんだった。
 
「レイルさん、わざわざ連絡をありがとう。セイドリックの様子はどうなんだ? 意識が戻らないと聞いたが……」
 
 わざわざ来てくれたのか? コウさんが? コウさんだけ?
 
「コウさん、ちょうど良かった。今気がついたとこだ。ほら、セイドリック! コウさんだぞ」
 
 コウさんが来たって、そんなこと見たら分かるのるのに、なぜかレイルが大袈裟に俺を呼ぶ。
 だが不思議だ。コウさんがひとりでわざわざ見舞いに来るなんて。……これはまさか、もしかして、もしかしてスーちゃんも一緒に来ているとか!?
 
「コウさん、わざわざ来てくれたのか? すまないな。見てのとおり俺は元気だ。——ところで、コウさんだけか? ス、スーちゃんは一緒じゃないのか?」
 
 その瞬間、病室がシーンと静まり返った。
 
 
 
 
「少し、記憶が抜けているようですね」
 
「やっぱり。なんかおかしいと思ったんだ。アンリに妙に余所余所しいし、コウさんが来ても喜ぶ気配が微塵もなかった。しかも挙げ句スーちゃんとは……」
 
 医者の言葉にレイルが頭を抱えた。
 どうやら俺は頭を打ったせいで、ここ1年ほどの記憶が抜けてしまっているらしい。だが違和感などまったくないので、実感がないが。
 
 それにしても、なんでスーちゃんがだめなんだ。
 
「あのな、お前は今コウさんと付き合ってんだよ」
 
「は? 俺が?」
 
 何を言っているんだレイルは。俺がスーちゃんを好きなのは、お前も知っているだろうが。
 コウさんだって、俺がスーちゃん好きなことを知っているし、応援してくれている。
 
 彼には友情を感じてはいるが、恋愛感情など一切ない。彼は異性愛者だし、俺の好みのタイプでもない。
 
「ありえないだろうが」
 
 その答えにレイルが呆れたように、はーっと深いため息を吐いた。
 
「……お前らラブラブだったんだぞ」
 
 まさか! あの俺を観察対象としか見ていないようなコウさんと俺がラブラブとは、どう考えても想像できん。
 
 絶対に俺を謀ってるだろ。
 俺はスーちゃん一筋だというのに。
 
「妙なことを言うなよ。コウさんにも悪いだろうが」
 
「……まあいい。コウさんにはひとまず帰って貰った。利き手を傷めているから少し不自由だろうが、生活はできるだろう。本当はお前の屋敷でコウさんに面倒見てもらおうと思ったんだがな。まあ仕方がない。今日はここで休め。明日は気分が良ければ事務室へ来い。それは出来るな?」
 
「おいおい、事務室は覚えてるぞ」
 
「……また、明日。事務室で待ってるぞ」
 
「ああ」
 
 レイルが何か言いたそうなツラで、こっちを見ながらため息を吐いて去って行った。
 
 
 俺の中の空白の一年。
 そんな穴が俺の中にあるだなんて、まったく実感がない。
 
 でもまあスーちゃんのことは覚えてるんだし、仕事だってたいして業務内容は変わってないんだろう。多少のことなら記憶に穴があってもどうにでもなるだろう。
 
 俺はそう高を括って、のんきに寝台へ横になった。
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