26 / 41
セイドリック、記憶をなくす2
しおりを挟む
「お! セイドリック!? 気がついたか。アンリ、先生を呼んでこい!」
「はいっ」
——気が付くとどこかで見たような部屋の寝台の上にいた。俺が起きた事が分かると、珍しくレイルが慌てたような顔で覗き込んできた。
「セイドリック! お前、階段から落ちて半日目を覚まさなかったんだぞ! 大丈夫か? 俺のことは分かるか?」
「——レイルか。どうしたんだ。ここは? もしかして神殿の病院か? 俺が階段から落ちたって?」
「ああっ起き上がるな! 今先生を呼ぶ。お前頭を打ってるんだから、じっとしろ!」
状況を確認するため起き上がろうとしたところを、レイルに無理矢理寝台へ押さえ込まれてしまった。
正直何が何やらわからぬままだが、レイルの言うことを聞くしかなさそうだ。
「うわーーーん! ほんと、ごめんなさい!! セイドリック殿ぉ~~~!!」
「うるさいぞ! 黙ってろアンリ!」
俺が起きたということで医者にアレコレと診察をして貰ったが、特に異常はなさそうだということで、もう少し様子をみたら部屋へ戻ってもいいということになった。
それにしても、ここは個室とはいえ、外には他の患者がいるというのに、この上なくうるさい。
「おい、レイルちょっと来い」
俺はレイルを手招きで呼んだ。
「かなりうるさいんだが」
「まあ、アンリはお前を突き落とした犯人だからな。お前の目が覚めて嬉しいんだろ」
「突き落としてません!! 声をかけたときに肩を叩いただけです!!」
「やかましいぞ!」
寝ている俺の足元でアンリ殿が半泣きで叫び、それをレイルが怒鳴る。
そんな一連のやり取りを聞いて、二人がやけに親しげであることが気になった。
「……レイル、お前やけにアンリ殿と仲がいいな。いつからそんなに親しくなったんだ」
「——は? 何言ってるんだお前」
「いやいや、だってこれまでお前がアンリ殿と話をしているのなんか見たことないぞ。どちらかといえば、俺もお前もアンリ殿のことは何となく避けていたじゃないか」
「——え、セイドリックお前、本当に大丈夫なのか?」
「何がだ」
「…………」
レイルが眉根を寄せて、不審そうな顔で俺を見ている。何だ? 変なこと言ったか?
隊長の追っかけであるアンリのことを、鼻持ちならないといつも言っていたではないか。
そんなレイルを怪訝な面持ちで見ていると、廊下を人が歩く気配がし、病室の扉が開いた。
「セイドリック! 大丈夫なのか!?」
扉から顔を出したのは、なんとコウさんだった。
「レイルさん、わざわざ連絡をありがとう。セイドリックの様子はどうなんだ? 意識が戻らないと聞いたが……」
わざわざ来てくれたのか? コウさんが? コウさんだけ?
「コウさん、ちょうど良かった。今気がついたとこだ。ほら、セイドリック! コウさんだぞ」
コウさんが来たって、そんなこと見たら分かるのるのに、なぜかレイルが大袈裟に俺を呼ぶ。
だが不思議だ。コウさんがひとりでわざわざ見舞いに来るなんて。……これはまさか、もしかして、もしかしてスーちゃんも一緒に来ているとか!?
「コウさん、わざわざ来てくれたのか? すまないな。見てのとおり俺は元気だ。——ところで、コウさんだけか? ス、スーちゃんは一緒じゃないのか?」
その瞬間、病室がシーンと静まり返った。
「少し、記憶が抜けているようですね」
「やっぱり。なんかおかしいと思ったんだ。アンリに妙に余所余所しいし、コウさんが来ても喜ぶ気配が微塵もなかった。しかも挙げ句スーちゃんとは……」
医者の言葉にレイルが頭を抱えた。
どうやら俺は頭を打ったせいで、ここ1年ほどの記憶が抜けてしまっているらしい。だが違和感などまったくないので、実感がないが。
それにしても、なんでスーちゃんがだめなんだ。
「あのな、お前は今コウさんと付き合ってんだよ」
「は? 俺が?」
何を言っているんだレイルは。俺がスーちゃんを好きなのは、お前も知っているだろうが。
コウさんだって、俺がスーちゃん好きなことを知っているし、応援してくれている。
彼には友情を感じてはいるが、恋愛感情など一切ない。彼は異性愛者だし、俺の好みのタイプでもない。
「ありえないだろうが」
その答えにレイルが呆れたように、はーっと深いため息を吐いた。
「……お前らラブラブだったんだぞ」
まさか! あの俺を観察対象としか見ていないようなコウさんと俺がラブラブとは、どう考えても想像できん。
絶対に俺を謀ってるだろ。
俺はスーちゃん一筋だというのに。
「妙なことを言うなよ。コウさんにも悪いだろうが」
「……まあいい。コウさんにはひとまず帰って貰った。利き手を傷めているから少し不自由だろうが、生活はできるだろう。本当はお前の屋敷でコウさんに面倒見てもらおうと思ったんだがな。まあ仕方がない。今日はここで休め。明日は気分が良ければ事務室へ来い。それは出来るな?」
「おいおい、事務室は覚えてるぞ」
「……また、明日。事務室で待ってるぞ」
「ああ」
レイルが何か言いたそうなツラで、こっちを見ながらため息を吐いて去って行った。
俺の中の空白の一年。
そんな穴が俺の中にあるだなんて、まったく実感がない。
でもまあスーちゃんのことは覚えてるんだし、仕事だってたいして業務内容は変わってないんだろう。多少のことなら記憶に穴があってもどうにでもなるだろう。
俺はそう高を括って、のんきに寝台へ横になった。
「はいっ」
——気が付くとどこかで見たような部屋の寝台の上にいた。俺が起きた事が分かると、珍しくレイルが慌てたような顔で覗き込んできた。
「セイドリック! お前、階段から落ちて半日目を覚まさなかったんだぞ! 大丈夫か? 俺のことは分かるか?」
「——レイルか。どうしたんだ。ここは? もしかして神殿の病院か? 俺が階段から落ちたって?」
「ああっ起き上がるな! 今先生を呼ぶ。お前頭を打ってるんだから、じっとしろ!」
状況を確認するため起き上がろうとしたところを、レイルに無理矢理寝台へ押さえ込まれてしまった。
正直何が何やらわからぬままだが、レイルの言うことを聞くしかなさそうだ。
「うわーーーん! ほんと、ごめんなさい!! セイドリック殿ぉ~~~!!」
「うるさいぞ! 黙ってろアンリ!」
俺が起きたということで医者にアレコレと診察をして貰ったが、特に異常はなさそうだということで、もう少し様子をみたら部屋へ戻ってもいいということになった。
それにしても、ここは個室とはいえ、外には他の患者がいるというのに、この上なくうるさい。
「おい、レイルちょっと来い」
俺はレイルを手招きで呼んだ。
「かなりうるさいんだが」
「まあ、アンリはお前を突き落とした犯人だからな。お前の目が覚めて嬉しいんだろ」
「突き落としてません!! 声をかけたときに肩を叩いただけです!!」
「やかましいぞ!」
寝ている俺の足元でアンリ殿が半泣きで叫び、それをレイルが怒鳴る。
そんな一連のやり取りを聞いて、二人がやけに親しげであることが気になった。
「……レイル、お前やけにアンリ殿と仲がいいな。いつからそんなに親しくなったんだ」
「——は? 何言ってるんだお前」
「いやいや、だってこれまでお前がアンリ殿と話をしているのなんか見たことないぞ。どちらかといえば、俺もお前もアンリ殿のことは何となく避けていたじゃないか」
「——え、セイドリックお前、本当に大丈夫なのか?」
「何がだ」
「…………」
レイルが眉根を寄せて、不審そうな顔で俺を見ている。何だ? 変なこと言ったか?
隊長の追っかけであるアンリのことを、鼻持ちならないといつも言っていたではないか。
そんなレイルを怪訝な面持ちで見ていると、廊下を人が歩く気配がし、病室の扉が開いた。
「セイドリック! 大丈夫なのか!?」
扉から顔を出したのは、なんとコウさんだった。
「レイルさん、わざわざ連絡をありがとう。セイドリックの様子はどうなんだ? 意識が戻らないと聞いたが……」
わざわざ来てくれたのか? コウさんが? コウさんだけ?
「コウさん、ちょうど良かった。今気がついたとこだ。ほら、セイドリック! コウさんだぞ」
コウさんが来たって、そんなこと見たら分かるのるのに、なぜかレイルが大袈裟に俺を呼ぶ。
だが不思議だ。コウさんがひとりでわざわざ見舞いに来るなんて。……これはまさか、もしかして、もしかしてスーちゃんも一緒に来ているとか!?
「コウさん、わざわざ来てくれたのか? すまないな。見てのとおり俺は元気だ。——ところで、コウさんだけか? ス、スーちゃんは一緒じゃないのか?」
その瞬間、病室がシーンと静まり返った。
「少し、記憶が抜けているようですね」
「やっぱり。なんかおかしいと思ったんだ。アンリに妙に余所余所しいし、コウさんが来ても喜ぶ気配が微塵もなかった。しかも挙げ句スーちゃんとは……」
医者の言葉にレイルが頭を抱えた。
どうやら俺は頭を打ったせいで、ここ1年ほどの記憶が抜けてしまっているらしい。だが違和感などまったくないので、実感がないが。
それにしても、なんでスーちゃんがだめなんだ。
「あのな、お前は今コウさんと付き合ってんだよ」
「は? 俺が?」
何を言っているんだレイルは。俺がスーちゃんを好きなのは、お前も知っているだろうが。
コウさんだって、俺がスーちゃん好きなことを知っているし、応援してくれている。
彼には友情を感じてはいるが、恋愛感情など一切ない。彼は異性愛者だし、俺の好みのタイプでもない。
「ありえないだろうが」
その答えにレイルが呆れたように、はーっと深いため息を吐いた。
「……お前らラブラブだったんだぞ」
まさか! あの俺を観察対象としか見ていないようなコウさんと俺がラブラブとは、どう考えても想像できん。
絶対に俺を謀ってるだろ。
俺はスーちゃん一筋だというのに。
「妙なことを言うなよ。コウさんにも悪いだろうが」
「……まあいい。コウさんにはひとまず帰って貰った。利き手を傷めているから少し不自由だろうが、生活はできるだろう。本当はお前の屋敷でコウさんに面倒見てもらおうと思ったんだがな。まあ仕方がない。今日はここで休め。明日は気分が良ければ事務室へ来い。それは出来るな?」
「おいおい、事務室は覚えてるぞ」
「……また、明日。事務室で待ってるぞ」
「ああ」
レイルが何か言いたそうなツラで、こっちを見ながらため息を吐いて去って行った。
俺の中の空白の一年。
そんな穴が俺の中にあるだなんて、まったく実感がない。
でもまあスーちゃんのことは覚えてるんだし、仕事だってたいして業務内容は変わってないんだろう。多少のことなら記憶に穴があってもどうにでもなるだろう。
俺はそう高を括って、のんきに寝台へ横になった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる