神官の特別な奉仕

Bee

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番外編

番外編 ノーマの腕輪1

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「なるほど、これがその皇子の腕輪なのですね。なるほど……」


 ダイジュはノーマの腕にはまった銀細工の腕輪をしげしげと眺めた。

 使われている銀の質といい、その細工といい、非常に素晴らしいものだ。並の者が持つものにしてはかなり高価な誂えで、なるほどさすがといえるものではあるが、これをノーマに、となると皇子のノーマに対する執着は考えていた以上だと言える。こう目の当たりにするとダイジュも驚くしかない。


「こういう印の入ったものは本来あまり人には渡さないものなんですよ。紋様は自身の持ち物だと証明するために使うものなので、こうやって他人に持たせる時は、深い繋がりのある者としての強い意味合いを持ちます」


 ダイジュは腕輪に刻まれた紋様を指差しながら、ノーマに説明をする。

 ちなみに婚約者同士でこのような贈り物をすることもあるが、基本的にお互いの紋を刻んだものを贈り合うのだそう。

 今回はノーマが紋を持たないため、皇子の紋のみ。一応飾り文字でノーマの名前が刻まれてはいるが、間違いなく一方的な所有印としての意味合いだ。

 ノーマをよほど人に取られたくないのだろうと、ダイジュはその想いの強さに感動しながらも、その執心にやや呆れた表情をみせた。


「……これはいろいろと重いですね」
「アンバー様はこれを無造作に懐から出すんですよ。俺、何も考えずに受け取ってしまって……。少し後悔しています……」


 ノーマは腕にも心にもずっしりと重みのある銀の腕輪を撫でた。


「あまりむやみに人に見せるものでもないですね。神殿で腕輪をつけることくらいは構わないですが、あまりじっくり見られないようにして下さい。まだ非公認の関係ですから。見つかってしまうと面倒なことになるかもしれません。もちろん同室者にも」
「はい。気をつけます」


 ノーマは捲っていた袖を戻し、腕輪を袖の下に隠した。まあ同室者のタルは、そこまでノーマに関心がないから大丈夫だろう。それに彼は今、あの神兵に夢中だからそれどころじゃないし。




 ダイジュに報告を終え、部屋に戻ると珍しくタルが声をかけてきた。


「ね、ノーマ! 昨日の夜はどこに行ってたの? 夜に外出なんて見習いなのにズルい!」


 タルは昨晩夜遅くに帰ってきたことについて尋ねてきた。

(いつもは無関心なのに、いきなりズルいと言われても……)

 ノーマはタルに渋い顔をした。

 とはいえ、実際ありもしない用事で外出し、恋人と逢引したようなものなので、ズルはズルなのだが。しかし本当のことなど言えるはずがない。


「……昨日はダイジュ監督官の用事で、お使いに行っていただけです」
「えー! ダイジュ様ノーマを贔屓してるよね! 今もお部屋に呼ばれていたのでしょう? 僕には声なんてかけて頂けないのに!」


 ノーマよりも若いタルは、自身の愛らしさを知っているのだろう。頬を膨らませ拗ねてみせる様子は、自分をより可愛く見せる計算なのだろうとノーマは冷ややかに見た。


「ダイジュ監督官には、俺の治癒力の調整のために協力頂いているだけで、贔屓とかそういうのは……」
「ふーん、まあいいけど! ……ノーマはちょっときれいだからって、人を誑かすのよくないよ」
「……………………は?」

(たぶらかす? 俺が? ダイジュ監督官を?)

「タル、それどういう……」
「知らない!」




 ……………………。

 一体なんだというのか。

 タルは意味不明なことをノーマに投げつけておきながら、さっさと自身のスペースである仕切りの向こうへ行ってしまった。

 タルとは普段ほとんど会話もない。それだけならノーマにとってさほど気にするようなことではないが、ここ最近はこんな感じで、なんだか敵視されている気がしているようで気まずい雰囲気になっていた。

 そんな状況がしばらく続き、タルとは口をきかないままだったが、それ以外にとくに変わりはなく、逆にタルが静かなことでノーマは平穏に過ごすことができたともいえる。

 タルとかちあうこともないので、腕輪のことも、同室の者に見られぬよう必死に隠す必要もなくなったので、非常にラクだった。



 半年後の昇格試験。ノーマもタルもそれに向けて勉強せねばならず、お互いのことなど気にする余裕はない。

 不思議なことにタルはあれ以降、恋人の新兵を部屋に呼ぶこともなく、彼も真面目になったのだなと納得し、ノーマは安心して勉強に励むことができた。
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※現在、コウとセイドリックの話『失恋した神兵はノンケに恋をする』を新作として公開しています。閑話コウの受難の続きでセイドリック視点で始まります。コウの受難の続きが気になっていた方がいればぜひ。
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