神官の特別な奉仕

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スーシリアム神皇国

32 ノーマとダイジュ監督官

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「ノーマ殿、まあ、そこに座りなさい」

 部屋を訪ねてきたノーマを、ダイジュは嫌な顔ひとつせずに部屋へ招き入れると、部屋の中央にある簡素な木のテーブルセットにノーマを案内し、座るよう促した。

 ダイジュは監督官という神官統括の官位で、ノーマよりもずっと立場は上だ。
 しかし彼の部屋はノーマの使っている部屋と同じくらいの広さで、室内も質素そのもの。

 ただ机の周辺だけは、治癒についての研究資料が堆く積まれ、足の踏み場もないほどだ。運び込まれた大量の資料といい、ダイジュの研究熱心なところが窺える。

 そんなダイジュの部屋でも、一番目立つところにはサスリーム神の像が恭しく安置され、花や蝋燭などがきれいに周囲を飾っていた。

「あ、あのダイジュ監督官。その節は本当に申し訳ありませんでした」

 ノーマは部屋に入るなり、すぐにダイジュに謝罪した。
 いつか謝りたいと思っていたのに、なかなかその機会に恵まれなかった。しかも嫌われていると思っていたので、余計に気まずくてこちらから挨拶もできなかった。

「いや、気にしていないと言ったら嘘になるが、それでもまあ、あのときのことは成り行き上仕方がなかったことだ。実際に君の力を体験しないと、君の治癒の能力が本物かどうかなどわからないからね。それに良い体験になった。研究のやりがいがある。君みたいな力は珍しいからな」

 ダイジュは意外なことに、あの日の体験を前向きに捉えていた。

「ノーマ殿、君のような力は珍しいが、似たような力の発現をする者はたまにいるのだよ」

 ダイジュは研究者らしく、ノーマにその力についての持論を展開させた。

 専門用語などがあってノーマはよく分からなかったが、眠気を誘うものや痒みを起こすものなど、治癒の力の副効果は様々あるとダイジュは言う。
 確かにサリトールの神殿でのリニ神官の治癒は、眠たくなるような心地よさだと定評があった。あれもそうなのだなと、ノーマははじめて納得した。

 そしてダイジュは、うまく訓練さえすればノーマの力を効率的に使うことができるようになるし、副効果の心配なく大きな治癒力を発現させることも可能であると。それについては自分も協力するから頑張りなさいと、そう言ってくれた。

 実をいえばダイジュはあの日、ノーマの力に半信半疑だったそうだ。
 よくそうやって治癒の力があると謀る者もいて、しかも今回は相手が皇子ということもあり、しっかり審査鑑定する必要があったそうだ。

 治癒研究で正通した自分が審査員となることが適任であったし、そうやって自身が身をもって体験することで、今後の研究の材料にでもなれば良いなと考えてのことだったという。

 だからノーマのことを決して軽んじていたわけではなく、研究者として必要だったから審査員に立候補したのだと。
 ただその力が大きすぎたのは予想外だったと、ちょっとはにかんだ。

 ダイジュがなぜあんなことになったかと言うと、現実的な話、性的な経験がダイジュには不足していたこと。そして治癒の力に影響されやすい体質であると、ダイジュはノーマに語り、気にすることはないとまで言ってくれた。

「ところで、今日の出来事だが」
「仕事のことですか? 私は気にしていませんので……」
「いや、それではなく資料室で事務官に絡まれていた話だ。ああいったことはここでも頻繁にあるのか?」
「…………」

 ノーマはどう答えようか迷った。さすがに今日のような貞操の危機は珍しいが、似たようなことなら何度かあったからだ。

 そのノーマの様子に、ダイジュは何となく悟ったのだろう、少し考えて「それも私のせいだろうな」と呟いた。

「え?」

 ノーマは驚いてダイジュを見た。今回のことは自分が蒔いた種であってダイジュの責任ではない。

「いや、あの審査の日、私が粗相さえしなかったらこんな事にはならなかったはずだ。面白がって騒ぐやつも、君に変な感情を寄せるやつも、全てあの日の様子が噂になっているからだろう。私のほうこそ申し訳なかった」

 頭を下げるダイジュに、まさか上官からそのようなことで謝られるとは思っていなかったノーマは心底驚いた。

「え、いや、そんな! ダイジュ監督官!」
「私も今後は君の周囲に目を光らせよう。何かあれば私を頼りなさい」

 その日から、ノーマの周囲でダイジュに関連する嫌がらせは次第に減っていった。

そして二人が仲良く神殿を歩く様子を目撃されてからは、ダイジュとノーマに関する噂話も鳴りを潜め、ノーマの神殿での生活はだいぶ過ごしやすく改善されていき、訓練も順調に進むようになった。
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※現在、コウとセイドリックの話『失恋した神兵はノンケに恋をする』を新作として公開しています。閑話コウの受難の続きでセイドリック視点で始まります。コウの受難の続きが気になっていた方がいればぜひ。
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