神官の特別な奉仕

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スーシリアム神皇国

31 ノーマの神殿での生活

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「おい、ノーマ見習い殿、これを資料室に持って行っておいてくれ」

 ノーマは目の前にドンッと置かれた大量の資料を前に、肩を落とした。

 これはすべて各神殿からかき集めたサスリーム神についての研究論文用の資料で、ダイジュ監督官が使用する物だ。
 かなりの量なのでノーマが一人で一度に運ぶことは確実に無理なのは分かっている。だがここには親切に手伝ってくれる者などは誰もいない。

 仕方がない。何度か往復して運ぶしかない。
 ノーマは誰にも気づかれないくらい小さく嘆息し、諦めて資料を手に抱えられるだけ抱え、資料室へ向かった。



 神殿に来てからノーマは孤独だ。

 いろいろあったが、治癒の力が認められ神殿で修行することができるようになったことは、ノーマとしては有り難く、アンバーと離れることになっても仕方がないと思っていた。

 だがここでの暮らしは見習いとはいえ、風当たりがきつく、待遇もあまり良いものではなかった。

「よいしょっと」

 階段に差し掛かり、資料が手から落ちそうになったのをノーマは抱え直した。資料のせいで見えない足元を気遣い、一歩一歩階段を踏み外さないように慎重に上る。

「おい、資料持ってやろうか」

 やっとのことで階段を上がり切ったところで、ノーマは男に声をかけられた。
 顔を上げると事務官の制服を着た男が二人、ノーマの行く先を塞いでいた。

「お前ノーマとかいう見習いだろ。その髪確かそうだよな」
「へえー何? 資料運びさせられてんの? 一人で? かわいそ~。手伝ってやるよ」

 ノーマは俯いて男らをかわそうとしたが、男の一人がノーマの手から資料を無理矢理引ったくろうとした。

「あ!」

 ノーマが慌てて阻止しようとしたがために貴重な資料が手から落ち、バサバサッと廊下に散乱してしまった。

「あーあ。ほら素直にならないから」
「俺たちに任せなよ~。手伝ってやるって。あれ?これってダイジュ監督官の?」

 ノーマは散乱した資料をかき集めながら、次に続く男の言葉にまたかとうんざりした。

「ダイジュってお前の治癒で勃起して射精したやつだろ?」

 あの審査の日のことはもう言わないで欲しかった。ノーマの失敗でダイジュ監督官には大恥をかかせてしまい、ノーマの力のことも思わぬ方向で広がってしまった。

 しかも噂が噂を呼び、神殿中の者がみなこうなのだから、ダイジュ監督官の周囲の者がノーマに辛く当たるのも仕方がないことだった。

 廊下に散らばった資料を拾いあげノーマが立ち上がると、男らが自分たちの拾った資料を手にノーマに詰め寄った。

「なあ、ちょっと俺らにもやってくれない?」
「俺だけでもいいんだけど。ちょっとここに傷があってさ~」

 そう言って一人が腕についた小さな傷をノーマに見せた。
 こんな小さな傷なんて治癒の力など必要ないだろう。それにノーマは今力の制御訓練中で、下手に力を使ってはいけないと言われているのだ。

 訓練次第では、性的な快楽が起こる副反応を最低限に抑えつつ、その強大な治癒力を使うことができるようになるのではという大神官様の言葉をノーマは信じ、訓練を行っている。

「わ、私は力を使ってはいけないと、言われていますので……」

 俯いたままノーマは後ずさる。

「いや、でもこの資料いるんでしょ~? この様子だとまだ下に残ってるよね? それも手伝ってやるからさ」

 男が自分の手に持った資料の束を見せつけながら、ノーマを壁に追い込む。
 ノーマの背が壁にどんと当たった。もう後がない。
 早く資料を返して貰わないと、夕方の祈りの時間が来てしまう。

 どうしようと思っていると、腕に傷のある方の男が資料を支えているノーマの手を上から握ってきた。

「なあ、ほらちょっとでいいから」
「…………」

 もうすぐにでもこの状況を脱したいノーマは、やけくそになって言われるがままに力を注いだ。

「……… ッ!」
「な、おいどうだ?そんなに気持ちいいのか?」

 ノーマは力を注いだ後、チラッと男の顔を見た。男は目を見開いたまま固まっている。そしてゆっくりとノーマを見ると、もう一人の男の声など無視をして、ノーマを資料室に引きずり込んだ。

「ちょ、ちょっと!」
「……お前結構かわいい顔してるよな。なあ、アンブリーテス皇子とできてるってほんとか? お前そのせいでみんなに無視されてるらしいじゃねーか。俺が守ってやろうか? 神官でも恋人を作ってもいいんだぜ? どうせもう皇子とは会えないんだろ?」
「……!」

 ノーマの手に持っていた資料が、資料室の床に散乱する。

 男がノーマを壁に押し付け、両手を壁に縫いとめると、足を割り開き自身の足を滑り込ませた。
股間が押し付けられたことで、ノーマには男が勃起していることがはっきりと分かった。

(また失敗したんだ)

 ノーマは自身の失敗に涙が出そうになった。
 もっとちゃんとお願いしてやめて貰えば良かった。そうしたらこんなことにはならなかった筈だと、自身を責めた。
 もう一人の男が止めに入ってくれたらいいが、廊下が静かなところを見るとそれは望めそうにない。

「なあ、いいだろ?」

 男の顔がノーマに迫り、ノーマが避けるように思いっきり顔を背けたところで、資料室のドアがとつぜん開いた。

「おい、そこで何している」
「……ダイジュ監督官っ!」

 ノーマを力ずくで押さえていた男がギョッとした顔で入ってきた人物を見た。

 なんだかんだ言っても男はただの事務官であり、神官の監督官であるダイジュには立場的に敵うはずがない。
 ダイジュが男をじろっと見遣ると、男は慌ててノーマから離れ、支えがなくなったノーマはその場に崩れるように座り込んだ。

「こんなところで油を売っていないで、仕事に戻れ」
「は、はい!」

 男はその場にノーマを放り慌てて出ていった。

「ノーマ殿、何があった」
「……なんでもありません。でも助かりました」

 ノーマがダイジュの顔も見ずに、そのまま散らばった資料を拾い集める。
 その様子を見たダイジュが溜息を吐くと、その場に屈み、ノーマと共に資料を拾いだした。

「ダ、ダイジュ監督官!これは私がやったので、私が拾います!」

 そう言うと、ダイジュは手を止めノーマを見た。

「ノーマ殿、ここに資料を運ぶのは他の者に頼んだはずだ。なぜあなたが運んでいる。他の者はどうした」

 そうなのだ。この資料運びの仕事はノーマの仕事ではなく、押し付けられたものだった。でもそんなことは言えないノーマは、押し黙ったまま俯いた。

「……まだ残っている資料は私も運ぼう。ノーマ殿、君も手伝ってくれ」

 なぜかダイジュはそうノーマにお願いした。
 ノーマはてっきりこの手の嫌がらせはダイジュ監督官の意にそって行われているものだとばかり思っていた。しかしこうやって手伝いを頼むということは、実は違うのだろうか。

「なんだその顔は? ……ああ、君も私が君を嫌っていると思っているのか? 確かにあの日のことは衝撃的で傷ついていないと言えば嘘になるが……まあそのことは後で話そう。さあ祈りの時間までに資料を運ぶぞ」

 ダイジュはノーマと共に資料を運び始めた。
 ノーマに仕事を押し付けた神官はそれを驚愕の眼差しで見ていたが、ダイジュはとくに咎めることもなく、またノーマとダイジュが一緒にいるところを見て騒いでいる者なども、ダイジュは全て無視してノーマと黙々と資料を運んだ。
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※現在、コウとセイドリックの話『失恋した神兵はノンケに恋をする』を新作として公開しています。閑話コウの受難の続きでセイドリック視点で始まります。コウの受難の続きが気になっていた方がいればぜひ。
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