13 / 68
13 ノーマのいた村
しおりを挟む
アンバーは戻った翌朝、サーシャにノーマを連れてここを出たいと告げた。
「なんと。それほどあの者がお気に召したので?」
「さすがにあのように陵辱され奴隷のような扱いをされていると知れば、なんとかしてやらねばならぬだろう」
アンバーは昨日の弱々しげに杏を頬張るノーマが頭をよぎった。おそらく今日も奉仕と称し複数人の相手をさせられ、心身ともに酷い目にあっているのではと心が波立つ。
「ふむ。まあそれについては私めも異論はございませんな。あのような奉仕、ここ以外で聞いたことございませぬ。それにしてもアンバー様がそこまで執着するのも珍しい」
サーシャは嬉しげににまにまと笑ったが、大きな懸念の前にすぐに真面目な顔に戻った。
「しかし神殿はあの者を手放すまい」
「気になるのが、ノーマ神官殿を連れてきた男たちだ。彼らが最初にノーマ神官殿を陵辱し、無体を強いていると言う。ここの神殿の成り立ちとその者らの接点が知りたい。
本当にここの神殿が聖職者によって管理されているのかどうか。ノーマ神官殿を自由にできるかどうかはそこに掛かっている」
「承知した。アンバー様、ノーマ神官殿を安全にお連れできるよう万全を尽くしましょうぞ」
早速この日ノーマの忠告通り、この街を発つというフリをし、慌ただしく宿を引き払った。
宿の主人は金払いの良い二人が出ることを惜しんではいたがが、おそらく二人が宿を出たことをリニ神官へ報告していることだろう。
二人はこれより別行動を取る。
アンバーはノーマが住んでいた村の調査へ、サーシャはひとまず街で神殿の動きを見ることになった。
人の出入りや怪しい者がいないか。そして金の動きなど、諜報はサーシャが最も得意とするところだ。
二人は街外れにある古い空き家を拠点に、行動を開始した。
△△△
ノーマが言っていた西南の方角、山は広く、捜索は馬でも何日もかかった。
しかし結局ノーマが住んでいたと思われる村は発見できなかった。
いや、当該の地に人の住んでいる村がなかった、というのが正しいだろう。
かつては人が住んでいたと思われる小さな山村があるにはあった。
しかし、そこは襲撃にでもあったかのように、家は壊され、村民のものと思われる亡骸もそのままに、もう誰も訪れることのない無残な廃村と化していた。
ここはもう弔う人もおらぬのかと、放置された亡骸に、アンバーはなんとも言えぬ虚しさが残る。
だがもしここがノーマの村であったなら、ノーマはすでに故人となった家族のために、陵辱にも耐え必死に身を捧げていることになる。
この亡骸たちのどこかにノーマの家族がいるという証拠が欲しい。
アンバーは何か少しでも手がかりがないか、村内を手当たり次第探したが、もう何年も放置されたこの村に、まともに残っている物など何もない。
ましてやここがノーマの言っていた村かどうかも不明であるのに。
瓦礫をひっくり返し、廃屋を捜索し、村内あちらこちらを隅から隅まで探し尽くし、諦めかけたその時、最後放置された遺骸を埋葬する段になって、ようやくそれを見つけた。
それは一房の髪の毛。美しいシルバーの、端がやや黒くグラデーションのかかったノーマしか持ち得ない独特な色の髪。
弔うため、遺骸を動かしている際に、それは 転がり落ちてきた。
おそらく連れていかれた息子の身を案じ、母親が身に付けていたのだろう。
まるでお守りのように小さな袋に入れられ、袋には少し曲がった文字らしき縫い取りがされていた。
母親の執念か、袋も刺繍もほつれ、穴が開いていたが、それでもノーマの髪の毛に劣化は見られなかった。
外に放置されもうボロボロの袋がこれ以上破れてしまわないよう、アンバーは布に包み懐に仕舞い込む。何があってもこれはノーマに渡さなければならない。
そしてこの村がどういう経緯で襲撃にあったか。時間をかけ近隣の村々にも聞いて回ったところ、この村に起こった悲劇は6年ほど前、野盗どもらの急襲に合い、一晩で廃村になったと言う。
たった一晩のことで、一体何があったのかは誰も知る由もなく、 恐ろしいことだと皆怯えていた。
————6年前、それはノーマがあの街に連れて行かれた時期だ。
女子供を攫うわけではなく、ましてやここを根城にするわけでもない。金品を強奪するにしては、この何もない貧しい村を襲う理由もない。
恐らくこの村への襲撃には、ノーマのことが絡んでいる。
アンバーは馬を駆り、街へ急いだ。
「なんと。それほどあの者がお気に召したので?」
「さすがにあのように陵辱され奴隷のような扱いをされていると知れば、なんとかしてやらねばならぬだろう」
アンバーは昨日の弱々しげに杏を頬張るノーマが頭をよぎった。おそらく今日も奉仕と称し複数人の相手をさせられ、心身ともに酷い目にあっているのではと心が波立つ。
「ふむ。まあそれについては私めも異論はございませんな。あのような奉仕、ここ以外で聞いたことございませぬ。それにしてもアンバー様がそこまで執着するのも珍しい」
サーシャは嬉しげににまにまと笑ったが、大きな懸念の前にすぐに真面目な顔に戻った。
「しかし神殿はあの者を手放すまい」
「気になるのが、ノーマ神官殿を連れてきた男たちだ。彼らが最初にノーマ神官殿を陵辱し、無体を強いていると言う。ここの神殿の成り立ちとその者らの接点が知りたい。
本当にここの神殿が聖職者によって管理されているのかどうか。ノーマ神官殿を自由にできるかどうかはそこに掛かっている」
「承知した。アンバー様、ノーマ神官殿を安全にお連れできるよう万全を尽くしましょうぞ」
早速この日ノーマの忠告通り、この街を発つというフリをし、慌ただしく宿を引き払った。
宿の主人は金払いの良い二人が出ることを惜しんではいたがが、おそらく二人が宿を出たことをリニ神官へ報告していることだろう。
二人はこれより別行動を取る。
アンバーはノーマが住んでいた村の調査へ、サーシャはひとまず街で神殿の動きを見ることになった。
人の出入りや怪しい者がいないか。そして金の動きなど、諜報はサーシャが最も得意とするところだ。
二人は街外れにある古い空き家を拠点に、行動を開始した。
△△△
ノーマが言っていた西南の方角、山は広く、捜索は馬でも何日もかかった。
しかし結局ノーマが住んでいたと思われる村は発見できなかった。
いや、当該の地に人の住んでいる村がなかった、というのが正しいだろう。
かつては人が住んでいたと思われる小さな山村があるにはあった。
しかし、そこは襲撃にでもあったかのように、家は壊され、村民のものと思われる亡骸もそのままに、もう誰も訪れることのない無残な廃村と化していた。
ここはもう弔う人もおらぬのかと、放置された亡骸に、アンバーはなんとも言えぬ虚しさが残る。
だがもしここがノーマの村であったなら、ノーマはすでに故人となった家族のために、陵辱にも耐え必死に身を捧げていることになる。
この亡骸たちのどこかにノーマの家族がいるという証拠が欲しい。
アンバーは何か少しでも手がかりがないか、村内を手当たり次第探したが、もう何年も放置されたこの村に、まともに残っている物など何もない。
ましてやここがノーマの言っていた村かどうかも不明であるのに。
瓦礫をひっくり返し、廃屋を捜索し、村内あちらこちらを隅から隅まで探し尽くし、諦めかけたその時、最後放置された遺骸を埋葬する段になって、ようやくそれを見つけた。
それは一房の髪の毛。美しいシルバーの、端がやや黒くグラデーションのかかったノーマしか持ち得ない独特な色の髪。
弔うため、遺骸を動かしている際に、それは 転がり落ちてきた。
おそらく連れていかれた息子の身を案じ、母親が身に付けていたのだろう。
まるでお守りのように小さな袋に入れられ、袋には少し曲がった文字らしき縫い取りがされていた。
母親の執念か、袋も刺繍もほつれ、穴が開いていたが、それでもノーマの髪の毛に劣化は見られなかった。
外に放置されもうボロボロの袋がこれ以上破れてしまわないよう、アンバーは布に包み懐に仕舞い込む。何があってもこれはノーマに渡さなければならない。
そしてこの村がどういう経緯で襲撃にあったか。時間をかけ近隣の村々にも聞いて回ったところ、この村に起こった悲劇は6年ほど前、野盗どもらの急襲に合い、一晩で廃村になったと言う。
たった一晩のことで、一体何があったのかは誰も知る由もなく、 恐ろしいことだと皆怯えていた。
————6年前、それはノーマがあの街に連れて行かれた時期だ。
女子供を攫うわけではなく、ましてやここを根城にするわけでもない。金品を強奪するにしては、この何もない貧しい村を襲う理由もない。
恐らくこの村への襲撃には、ノーマのことが絡んでいる。
アンバーは馬を駆り、街へ急いだ。
10
※現在、コウとセイドリックの話『失恋した神兵はノンケに恋をする』を新作として公開しています。閑話コウの受難の続きでセイドリック視点で始まります。コウの受難の続きが気になっていた方がいればぜひ。
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる