神官の特別な奉仕

Bee

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13 ノーマのいた村

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 アンバーは戻った翌朝、サーシャにノーマを連れてここを出たいと告げた。


「なんと。それほどあの者がお気に召したので?」
「さすがにあのように陵辱され奴隷のような扱いをされていると知れば、なんとかしてやらねばならぬだろう」


 アンバーは昨日の弱々しげに杏を頬張るノーマが頭をよぎった。おそらく今日も奉仕と称し複数人の相手をさせられ、心身ともに酷い目にあっているのではと心が波立つ。


「ふむ。まあそれについては私めも異論はございませんな。あのような奉仕、ここ以外で聞いたことございませぬ。それにしてもアンバー様がそこまで執着するのも珍しい」


 サーシャは嬉しげににまにまと笑ったが、大きな懸念の前にすぐに真面目な顔に戻った。


「しかし神殿はあの者を手放すまい」

「気になるのが、ノーマ神官殿を連れてきた男たちだ。彼らが最初にノーマ神官殿を陵辱し、無体を強いていると言う。ここの神殿の成り立ちとその者らの接点が知りたい。
本当にここの神殿が聖職者によって管理されているのかどうか。ノーマ神官殿を自由にできるかどうかはそこに掛かっている」

「承知した。アンバー様、ノーマ神官殿を安全にお連れできるよう万全を尽くしましょうぞ」


 早速この日ノーマの忠告通り、この街を発つというフリをし、慌ただしく宿を引き払った。
 宿の主人は金払いの良い二人が出ることを惜しんではいたがが、おそらく二人が宿を出たことをリニ神官へ報告していることだろう。


 二人はこれより別行動を取る。

 アンバーはノーマが住んでいた村の調査へ、サーシャはひとまず街で神殿の動きを見ることになった。
 人の出入りや怪しい者がいないか。そして金の動きなど、諜報はサーシャが最も得意とするところだ。

 二人は街外れにある古い空き家を拠点に、行動を開始した。




   △△△




 ノーマが言っていた西南の方角、山は広く、捜索は馬でも何日もかかった。
 しかし結局ノーマが住んでいたと思われる村は発見できなかった。
 いや、当該の地に人の住んでいる村がなかった、というのが正しいだろう。


 かつては人が住んでいたと思われる小さな山村があるにはあった。

 しかし、そこは襲撃にでもあったかのように、家は壊され、村民のものと思われる亡骸もそのままに、もう誰も訪れることのない無残な廃村と化していた。

 ここはもう弔う人もおらぬのかと、放置された亡骸に、アンバーはなんとも言えぬ虚しさが残る。

 だがもしここがノーマの村であったなら、ノーマはすでに故人となった家族のために、陵辱にも耐え必死に身を捧げていることになる。

 この亡骸たちのどこかにノーマの家族がいるという証拠が欲しい。

 アンバーは何か少しでも手がかりがないか、村内を手当たり次第探したが、もう何年も放置されたこの村に、まともに残っている物など何もない。

 ましてやここがノーマの言っていた村かどうかも不明であるのに。






 瓦礫をひっくり返し、廃屋を捜索し、村内あちらこちらを隅から隅まで探し尽くし、諦めかけたその時、最後放置された遺骸を埋葬する段になって、ようやくそれを見つけた。


 それは一房の髪の毛。美しいシルバーの、端がやや黒くグラデーションのかかったノーマしか持ち得ない独特な色の髪。

 弔うため、遺骸を動かしている際に、それは 転がり落ちてきた。

 おそらく連れていかれた息子の身を案じ、母親が身に付けていたのだろう。

 まるでお守りのように小さな袋に入れられ、袋には少し曲がった文字らしき縫い取りがされていた。

 母親の執念か、袋も刺繍もほつれ、穴が開いていたが、それでもノーマの髪の毛に劣化は見られなかった。

 外に放置されもうボロボロの袋がこれ以上破れてしまわないよう、アンバーは布に包み懐に仕舞い込む。何があってもこれはノーマに渡さなければならない。

 そしてこの村がどういう経緯で襲撃にあったか。時間をかけ近隣の村々にも聞いて回ったところ、この村に起こった悲劇は6年ほど前、野盗どもらの急襲に合い、一晩で廃村になったと言う。

 たった一晩のことで、一体何があったのかは誰も知る由もなく、 恐ろしいことだと皆怯えていた。

————6年前、それはノーマがあの街に連れて行かれた時期だ。


 女子供を攫うわけではなく、ましてやここを根城にするわけでもない。金品を強奪するにしては、この何もない貧しい村を襲う理由もない。

 恐らくこの村への襲撃には、ノーマのことが絡んでいる。

 アンバーは馬を駆り、街へ急いだ。
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