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3 神殿での治癒
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翌日、旅の間にぼろぼろになってしまった服を新調すべく、二人は街へ繰り出した。
思ったほど品揃えは良くなかったが、まあそれなりに合う服を見繕い、着替えを済ませた。
荷を最小限にするため、道中着替えの入った荷を捨てなければならず、垢にまみれ着の身着のままだった二人は、こざっぱりとしてようやく人らしくなったと心緩んだ。
「どうされますか。傷を癒やされに神殿へ参られますかな」
サーシャが珍しく主人の傷の具合を案じてみせた。
「サーシャ、お前は街で評判の神殿の治癒が気になるだけであろうが」
普段気遣いなど全くしない従者の腹の中など、すぐに分かる。
「まさか! 私めほど主人を気遣い敬う従者もおりますまいて」
サーシャはいつもよりさらに芝居がかったような物言いをすると、にやりと笑った。
確かにそのノーマ神官の治癒というものには興味がある。
そこまで評判になるのだから相当なものだろう。
二人は神殿を目指して歩いたが、光り輝く塔のそびえる神殿は、広いサリトールの街でも案内のいらぬほど主張し、そして象徴的であった。
神殿に着くと、さらにごった返した人の多さにまず驚いた。
神殿の周囲には何をするためか人が溢れ、受付が一体どこにあるのかさえこれでは分からない。あの列ができているところがそうなのか。
アンバーは待機する列を見て、なるほど予約待ちで長逗留する理由も頷けると納得した。受付前は押し合いへし合いするほどに人が溢れている。
とりあえず列に並び、ようやっと受付に辿り着き治癒の予約を済ませようとすると、アンバーの顔を見た神官が「昨日の旅の方ですね」と声をかけてきた。
顔をあげると昨日声をかけてきたリニ神官ではなかったが、おそらくあの集団にいたのであろう。
「ああ。昨日声をかけて頂いた者だ」
「リニ神官から、あなた方が来られたら自分の所に予約を通すようにと申し付けられております。本日はちょっと難しいですが明日でも宜しいですか」
何日か待たされると覚悟をしていたが、予想よりも早く予約できるようだ。
「分かった。ご配慮に感謝する」
「お連れの方は、治癒者のご希望はありますか?」
神官は指名制なのか。アンバーはなぜか逆指名されたが。
「ではノーマ神官を」
「畏まりました。……ノーマ神官は人気なので、アンバー様のお時間より少しお待ち頂きますが宜しいですか」
「構わない」
サーシャが人気と称されるノーマ神官の予約を見事勝ち取ったらしい。
おそらく予約の隙間にサーシャを割り込ませるのだろう。
「お前はいつも俺よりもツキがあるな」
「なんの。アンバー様こそご指名ではありませんか。その立派なご容姿が、リニ神官殿に気に入られましたかな」
にやにやと嫌な笑いを主に向ける。
ムッと顔を向けるとサーシャは豪快に笑った。
アンバーは褐色の肌に、長く癖のある艷やかに波打つ黒髪を肩まで伸ばした美丈夫で、その筋肉質で逞しい体といい、目をつけられたとしてもおかしくはない。
勿論サーシャもアンバー同様に褐色の肌の美丈夫ではあるが、短く刈り込まれた赤髪の仏頂面は、いかにも武人といった風情でいかんせん近寄り難い。
この二人並ぶと、体の大きさも相まって、誰もが振り返って見るほどの存在感ではある。それは否定しない。今のように身ぎれいにしておれば、それなりに良いところの出であることもわかるだろう。
しかし昨日の二人はボロを纏いかなり薄汚く、お世辞にも金を持っているようには見えなかったはずだ。それなのになぜこの二人を優遇するのか。————答えは明日そのリニ神官に聞くしかないだろう。
予約は思わぬところで早くに済み、おかげで時間が余ってしまった。二人は暇を持て余し、街へ戻った。
街で何か美味いものでもと思ったが、この街には名産名物と言えるものは何もなく、せっかく美味いものにありつけると楽しみにしていたサーシャは、すっかり拍子抜けしてしまった。
結局どこにでもありそうな食堂で昼飯を食べ、街の全体像を把握するため街中を見て回り、宿に戻った。
△△△
「サーシャ、起きろ。もう日が高い」
アンバーは、隣で自身の腕を枕に横向きで眠るサーシャの体を揺さぶった。
昨夜は早くから暇になり、街で買ってきた好みの酒を二人してかっくらって雑魚寝の如くそのまま寝てしまった。
起きた時にはすでに日は高く昇り、神殿の予約時刻間近だった。
二人は大急ぎで衣服を整え、神殿へ向かった。
この日も神殿は人だかりができていたが、受付で名を告げると二人はすぐにそれぞれの神官の場所へ案内された。
治癒を受ける部屋は神官によって異なるらしいが、全て個室で、扉の前にはさらに数人が待っていた。
だがアンバーを案内してきた神官は、先に待っている人を横目に扉の中へアンバーを導いた。
「お待ちしておりました。アンバー様」
部屋の中には、街に着いたときに声をかけてきたリニ神官と思しき者が椅子から立ち上がり、笑顔で迎えてくれた。
正直アンバーは顔を覚えていなかったが、この様子だと声をかけてきたリニ神官で間違いはずだ。
「なにやら融通していただいたようで申し訳ない」
「いえ、お声をおかけしたのは私の方ですのでお気になさらず」
リニ神官はそう微笑んだ。
リニ神官は、神官らしく長く伸ばした髪を後ろで一つに括り背中に垂らしていた。髪の色は薄く、それは治癒能力を持った神官特有の色味で、彼も例に漏れずほぼ白に近いブラウンカラーだった。
顔は白く女子のようにきめ細やかで、比較的きれいな顔ではないかとアンバーは思う。
体型は、だぶついた神官服ではよく分からないが、アンバーのような筋肉質でないことは確かだ。
「さ、そこにお座りになってください」
リニ神官の座っている対面の椅子を勧められ、腰を下ろした。
手を差し出すように促されると、利き手とは反対の腕をリニ神官へ差し出す。
「逞しい腕ですね。今日はお疲れを癒しに?」
細く白い指でアンバーの腕を撫でさすりながら、うっとりとした表情で訪れた目的を聞いてくる。
「実は腹に傷があってな。時折痛みがある。できればそちらも治癒していただきたいが……」
「おや、それはいけない。見せていただいても?」
盗賊にやられた傷はほぼ完治しているのだが、内臓をやられたのか内側が時折引き攣れたように痛むのだ。
アンバーはそのことを伝えつつ、上着をめくりあげ腹を見せた。
固く割れた腹筋の周囲には、複数の古い傷痕と比較的新しい打撲痕が見える。リニ神官はそこに指を添えるとつつーとなぞった。
「こちらはいけませんね。しかし今日の治癒では疲れをお取りする程度しかできません。小さな傷であれば快癒しましたが、このような傷は『特別な治癒』でしか癒せません」
眉尻を下げ、さも申し訳なさそうな顔でリニ神官がアンバーを見やった。
「特別な治癒?」
問い返すとリニ神官がニコリとした。
「ええ、そちらならもっと強い治癒を施すことが可能です。ただ誰にでもという訳にはいかないのですが……」
「そうか。それならば仕方があるまい」
さっと服を直すと椅子に座り直すと、リニ神官がすかさずアンバーの腕を取り、治癒を始める。
「……アンバー様、もしよろしければ『特別な治癒』をお受けになりませんか? 本来は多額の寄付をしていただいた信者様のみの特権ではございますが、私を指名していただけたら融通を利かせていただきますゆえ」
リニ神官はアンバーの顔を見上げつつ、にっこりと美しく微笑んでみせた。
リニ神官の触る箇所から温かな治癒の力が流れ込む。じんわりと、そして体内を巡るようにアンバーの体を温める。
徐々に体から生気が漲り、体が軽くなるのを感じた。これはなんとも気持ちが良い。眠りを誘う心地よさだ。
体が完全に温まり、手が腕から離されたところで、アンバーは自分が目を瞑っていたことに気がついた。
「はい。本日はここまででございます。今日はアンバー様にお越しいただき嬉しゅうございました」
アンバーは治癒に集中しすぎて、何一つ聞きたいことが聞けていないことを思い出した。
「そういえば何故我らに融通をきかせてくれたのだ?」
リニ神官は少し頬を赤らめ躊躇いつつも「あなたのことを気に入ったからですよ」と微笑んだ。
「是非『特別な治癒』で私を指名してくださいませね」
その『特別な治癒』とやらについてももっと詳しく聞きたかったが、先ほどの神官がアンバーを呼びに来たため、仕方なく部屋を出た。
「おう、サーシャ。ノーマ神官はどうだったか」
しばらく神殿の外で暇を潰し、待合いで座っていると、やっとサーシャが戻ってきた。
「お待ちいただき感謝いたしまする。ノーマ神官殿は大変な人気でしてな」
にやにやと顔を緩ませるサーシャが気になり、何がどうだったのかを詳しく問い詰める。
「いやはや、治癒の力がお強いのでしょうな。流れる力がもうすごいのなんのって、こう力が滾るようでしたな」
「そんなにか」
「はは、それが人気の理由なのでしょうな。特に下半身がいけませぬ」
「下半身?」
「こう、男が昂るともうしましょうか」
「……それは治癒のせいなのか」
「そうでしょうな。終わったあとからかなり元気になっておりますな」
サーシャは恥ずかしげもなく、股間をさすってみせる。
なるほど。傍目から見てもサーシャの股間の膨らみがわかるほどだ。
さきほどのリニ神官の時は、温かな力が全身を巡るような感じだったが、ノーマ神官は全く違うようだ。
ふむとアンバーは唸った。
「今日はこのまま娼館へ行ってもよろしいか」
「なんだそんなにか」
「うむ。今行けばかなり快楽を得られるでしょうからな」
そういえば娼館が並んでいる地区があったな。もしやそのための娼館か?
サーシャがすぐにでも行きたそうな顔をしているのを見遣り、アンバーは許可を出した。
「行っても良いが、色々と情報を探ってくれ。なんだかこの神殿は他とは違う」
「そのようですな。良い情報を得られるよう努力してみせましょうぞ」
サーシャの努力とは、立派な逸物で睦言の如く情報を仕入れるんだろうとアンバーは苦笑いしつつ、サーシャを送り出した。
思ったほど品揃えは良くなかったが、まあそれなりに合う服を見繕い、着替えを済ませた。
荷を最小限にするため、道中着替えの入った荷を捨てなければならず、垢にまみれ着の身着のままだった二人は、こざっぱりとしてようやく人らしくなったと心緩んだ。
「どうされますか。傷を癒やされに神殿へ参られますかな」
サーシャが珍しく主人の傷の具合を案じてみせた。
「サーシャ、お前は街で評判の神殿の治癒が気になるだけであろうが」
普段気遣いなど全くしない従者の腹の中など、すぐに分かる。
「まさか! 私めほど主人を気遣い敬う従者もおりますまいて」
サーシャはいつもよりさらに芝居がかったような物言いをすると、にやりと笑った。
確かにそのノーマ神官の治癒というものには興味がある。
そこまで評判になるのだから相当なものだろう。
二人は神殿を目指して歩いたが、光り輝く塔のそびえる神殿は、広いサリトールの街でも案内のいらぬほど主張し、そして象徴的であった。
神殿に着くと、さらにごった返した人の多さにまず驚いた。
神殿の周囲には何をするためか人が溢れ、受付が一体どこにあるのかさえこれでは分からない。あの列ができているところがそうなのか。
アンバーは待機する列を見て、なるほど予約待ちで長逗留する理由も頷けると納得した。受付前は押し合いへし合いするほどに人が溢れている。
とりあえず列に並び、ようやっと受付に辿り着き治癒の予約を済ませようとすると、アンバーの顔を見た神官が「昨日の旅の方ですね」と声をかけてきた。
顔をあげると昨日声をかけてきたリニ神官ではなかったが、おそらくあの集団にいたのであろう。
「ああ。昨日声をかけて頂いた者だ」
「リニ神官から、あなた方が来られたら自分の所に予約を通すようにと申し付けられております。本日はちょっと難しいですが明日でも宜しいですか」
何日か待たされると覚悟をしていたが、予想よりも早く予約できるようだ。
「分かった。ご配慮に感謝する」
「お連れの方は、治癒者のご希望はありますか?」
神官は指名制なのか。アンバーはなぜか逆指名されたが。
「ではノーマ神官を」
「畏まりました。……ノーマ神官は人気なので、アンバー様のお時間より少しお待ち頂きますが宜しいですか」
「構わない」
サーシャが人気と称されるノーマ神官の予約を見事勝ち取ったらしい。
おそらく予約の隙間にサーシャを割り込ませるのだろう。
「お前はいつも俺よりもツキがあるな」
「なんの。アンバー様こそご指名ではありませんか。その立派なご容姿が、リニ神官殿に気に入られましたかな」
にやにやと嫌な笑いを主に向ける。
ムッと顔を向けるとサーシャは豪快に笑った。
アンバーは褐色の肌に、長く癖のある艷やかに波打つ黒髪を肩まで伸ばした美丈夫で、その筋肉質で逞しい体といい、目をつけられたとしてもおかしくはない。
勿論サーシャもアンバー同様に褐色の肌の美丈夫ではあるが、短く刈り込まれた赤髪の仏頂面は、いかにも武人といった風情でいかんせん近寄り難い。
この二人並ぶと、体の大きさも相まって、誰もが振り返って見るほどの存在感ではある。それは否定しない。今のように身ぎれいにしておれば、それなりに良いところの出であることもわかるだろう。
しかし昨日の二人はボロを纏いかなり薄汚く、お世辞にも金を持っているようには見えなかったはずだ。それなのになぜこの二人を優遇するのか。————答えは明日そのリニ神官に聞くしかないだろう。
予約は思わぬところで早くに済み、おかげで時間が余ってしまった。二人は暇を持て余し、街へ戻った。
街で何か美味いものでもと思ったが、この街には名産名物と言えるものは何もなく、せっかく美味いものにありつけると楽しみにしていたサーシャは、すっかり拍子抜けしてしまった。
結局どこにでもありそうな食堂で昼飯を食べ、街の全体像を把握するため街中を見て回り、宿に戻った。
△△△
「サーシャ、起きろ。もう日が高い」
アンバーは、隣で自身の腕を枕に横向きで眠るサーシャの体を揺さぶった。
昨夜は早くから暇になり、街で買ってきた好みの酒を二人してかっくらって雑魚寝の如くそのまま寝てしまった。
起きた時にはすでに日は高く昇り、神殿の予約時刻間近だった。
二人は大急ぎで衣服を整え、神殿へ向かった。
この日も神殿は人だかりができていたが、受付で名を告げると二人はすぐにそれぞれの神官の場所へ案内された。
治癒を受ける部屋は神官によって異なるらしいが、全て個室で、扉の前にはさらに数人が待っていた。
だがアンバーを案内してきた神官は、先に待っている人を横目に扉の中へアンバーを導いた。
「お待ちしておりました。アンバー様」
部屋の中には、街に着いたときに声をかけてきたリニ神官と思しき者が椅子から立ち上がり、笑顔で迎えてくれた。
正直アンバーは顔を覚えていなかったが、この様子だと声をかけてきたリニ神官で間違いはずだ。
「なにやら融通していただいたようで申し訳ない」
「いえ、お声をおかけしたのは私の方ですのでお気になさらず」
リニ神官はそう微笑んだ。
リニ神官は、神官らしく長く伸ばした髪を後ろで一つに括り背中に垂らしていた。髪の色は薄く、それは治癒能力を持った神官特有の色味で、彼も例に漏れずほぼ白に近いブラウンカラーだった。
顔は白く女子のようにきめ細やかで、比較的きれいな顔ではないかとアンバーは思う。
体型は、だぶついた神官服ではよく分からないが、アンバーのような筋肉質でないことは確かだ。
「さ、そこにお座りになってください」
リニ神官の座っている対面の椅子を勧められ、腰を下ろした。
手を差し出すように促されると、利き手とは反対の腕をリニ神官へ差し出す。
「逞しい腕ですね。今日はお疲れを癒しに?」
細く白い指でアンバーの腕を撫でさすりながら、うっとりとした表情で訪れた目的を聞いてくる。
「実は腹に傷があってな。時折痛みがある。できればそちらも治癒していただきたいが……」
「おや、それはいけない。見せていただいても?」
盗賊にやられた傷はほぼ完治しているのだが、内臓をやられたのか内側が時折引き攣れたように痛むのだ。
アンバーはそのことを伝えつつ、上着をめくりあげ腹を見せた。
固く割れた腹筋の周囲には、複数の古い傷痕と比較的新しい打撲痕が見える。リニ神官はそこに指を添えるとつつーとなぞった。
「こちらはいけませんね。しかし今日の治癒では疲れをお取りする程度しかできません。小さな傷であれば快癒しましたが、このような傷は『特別な治癒』でしか癒せません」
眉尻を下げ、さも申し訳なさそうな顔でリニ神官がアンバーを見やった。
「特別な治癒?」
問い返すとリニ神官がニコリとした。
「ええ、そちらならもっと強い治癒を施すことが可能です。ただ誰にでもという訳にはいかないのですが……」
「そうか。それならば仕方があるまい」
さっと服を直すと椅子に座り直すと、リニ神官がすかさずアンバーの腕を取り、治癒を始める。
「……アンバー様、もしよろしければ『特別な治癒』をお受けになりませんか? 本来は多額の寄付をしていただいた信者様のみの特権ではございますが、私を指名していただけたら融通を利かせていただきますゆえ」
リニ神官はアンバーの顔を見上げつつ、にっこりと美しく微笑んでみせた。
リニ神官の触る箇所から温かな治癒の力が流れ込む。じんわりと、そして体内を巡るようにアンバーの体を温める。
徐々に体から生気が漲り、体が軽くなるのを感じた。これはなんとも気持ちが良い。眠りを誘う心地よさだ。
体が完全に温まり、手が腕から離されたところで、アンバーは自分が目を瞑っていたことに気がついた。
「はい。本日はここまででございます。今日はアンバー様にお越しいただき嬉しゅうございました」
アンバーは治癒に集中しすぎて、何一つ聞きたいことが聞けていないことを思い出した。
「そういえば何故我らに融通をきかせてくれたのだ?」
リニ神官は少し頬を赤らめ躊躇いつつも「あなたのことを気に入ったからですよ」と微笑んだ。
「是非『特別な治癒』で私を指名してくださいませね」
その『特別な治癒』とやらについてももっと詳しく聞きたかったが、先ほどの神官がアンバーを呼びに来たため、仕方なく部屋を出た。
「おう、サーシャ。ノーマ神官はどうだったか」
しばらく神殿の外で暇を潰し、待合いで座っていると、やっとサーシャが戻ってきた。
「お待ちいただき感謝いたしまする。ノーマ神官殿は大変な人気でしてな」
にやにやと顔を緩ませるサーシャが気になり、何がどうだったのかを詳しく問い詰める。
「いやはや、治癒の力がお強いのでしょうな。流れる力がもうすごいのなんのって、こう力が滾るようでしたな」
「そんなにか」
「はは、それが人気の理由なのでしょうな。特に下半身がいけませぬ」
「下半身?」
「こう、男が昂るともうしましょうか」
「……それは治癒のせいなのか」
「そうでしょうな。終わったあとからかなり元気になっておりますな」
サーシャは恥ずかしげもなく、股間をさすってみせる。
なるほど。傍目から見てもサーシャの股間の膨らみがわかるほどだ。
さきほどのリニ神官の時は、温かな力が全身を巡るような感じだったが、ノーマ神官は全く違うようだ。
ふむとアンバーは唸った。
「今日はこのまま娼館へ行ってもよろしいか」
「なんだそんなにか」
「うむ。今行けばかなり快楽を得られるでしょうからな」
そういえば娼館が並んでいる地区があったな。もしやそのための娼館か?
サーシャがすぐにでも行きたそうな顔をしているのを見遣り、アンバーは許可を出した。
「行っても良いが、色々と情報を探ってくれ。なんだかこの神殿は他とは違う」
「そのようですな。良い情報を得られるよう努力してみせましょうぞ」
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