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学園生活とかいて『はりのむしろ』と読む②

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「久しぶりだな」
「そうでもないですけど」

偉そうな喋り出しに思わず言葉を返していた。
ピクリと相手のこめかみがひきつるのが見え「やば」と内心呟いた。
話題を変えよう。

「えーと、王子はなぜここに?」
「きみと話がしたくてな」
「話?」
「そうだ。訪問の打診はことごとく断られたからな。わざわざ足を運んでやった」

へえ? それは初耳です。
あたしよりお怒りの公爵おとうさんがつっぱねたんだろうな。

「で、話とは」
「われわれの婚約についてだ」
「あー、え? 解消しましたよね?」

いまさらなんですか?

「ちがう! 破棄だ! この僕から言い渡したのは婚約破棄だった」
「はあ」
「いいか、婚約解消というのは双方合意の上での話だが、婚約破棄は一方的なものだ。この僕にきみはふさわしくないと判断した故のことなのだから、僕らの場合は婚約破棄だ!」
「はあ」

なんなのこの人。

「つまり何が言いたいんですか?」
「僕の側には落ち度はまったく無いということだ!」

は?

「ありますよね落ち度」
「ない!」
「いえありますって」
「ないったらない!」
「合意でない性行為の強要は婦女暴行という立派な犯罪では?」
「暴行などしていないっ。それにそもそもきみから誘ったことだろう!」

あー、それを言われると弱い。
あたしにはそんな記憶はないんだけどね。

「でも出てってって言ったのに出ていってくれなかったし、そもそも下手」
「わーーーーーわーわわ!」

突然大声を発したユージーンによってあたしのセリフは遮られた。
けれども背後のミオンが「ぶはぁっ」と盛大に吹き出し笑い始めたため、つられてあたしも顔がにやけてしまった。
さっと扇で口許を隠したけれど、王子にはばっちり見られたようだ。
顔が赤を通り越してどす黒くなっていく。

「話を勝手に作るのはよしたまえ。僕は断じて……、ではない!」
「え、なんて?」
「だから……ではない!」
「へ…なんですって?」
「もういい! きみとの婚約は破棄だ!」

「破棄だ破棄!」とわめきながら王子は馬車に乗り込み去っていった。

「なんなのあれ?」と呟くとミオンが笑いすぎてこぼれた涙を拭きながら答える。

「婚約解消ではプライドが傷つくんじゃない?」
「なんで?」
「さあ。アホだから?」
「はあ……。なんでシルビアはあんなのと婚約したの?」
「それは私たちも疑問だった。でもまぁ、復縁の線は完璧に無いってわかって安心したw」
「それはなによりw」

二人でケタケタ笑いあっていて気づかなかったけれど、この一幕はけっこう生徒たちの注意を引いたらしく。
ユージーンの「僕から言い出した婚約破棄だ!」の言葉が印象深かったのか、あたしは「なにかをやらかして王子に捨てられた悪女」のレッテルを張られたようだった。









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