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王子とかいて『勘違い野郎』と読む④

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まさに火事場の馬鹿力。

拘束されていた腕を振りほどくと、渾身の力で頬を張り飛ばした。

「修行して出直してこい! この下手くそがぁっ!」


倒れた相手の顔面をすかさず両足で蹴り押すと、あっけなくベッドの下に落ちていった。
あたしはさっと起き上がりドアに走った。
とにもかくにも距離を開けなければ!
服の乱れを直していると、ノロノロと起き上がったユージーンが両手で鼻を押さえていた。

「ジルビア……。よぐもごのぼぐをあじげにじでぐれだな……」
「……なんて?」

ユージーンがあてていた両手をはずし、おそるおそる手のひらを確認している。
やりすぎたかな、とひやりとしたが片方から少し鼻血が出ている程度だ。

「なによおおげさな……」

思わず口から出た安堵の呟き。
聞こえたらしいユージーンが目をつり上げ、ビシリと人差し指を突きつけてくる。

「きみのような女とはやっていけない! 婚約は破棄させてもらう!」
「ブラボー」
「なんだって!?」
「なんでも?」
「言っておくが泣いて許してと懇願しても無駄だぞ! ぼくに婚約を取り消されるのは不名誉なことだ。大スキャンダルなんだぞっ。きみのようなふしだらな女は嫁の貰い手もなくそのまま老い朽ち果てるのが関の山だ!」

立ち上がり大声で吠えるが局部をしまい忘れている。
ドヤ顔とポロリのギャップ姿を見ていられず、顔を背けた。
込み上げる笑いに肩を震わせていると、うちひしがれていると勘違いしたらしいユージーンがフンッと勝ち誇ったように鼻息を漏らした。

「どうした、怖じ気づいたのか? 自分のしたことを後悔しているんだろう。僕は心が広いからな、きみのおろかな過ちも一度だけなら許してやるぞ」
「いえけっこうです」
「なんだってっ?」
「どうぞ」

ドアを開けて退出をうながすと、一瞬ポカンとしたあと苦々しげな顔で部屋を出ていった。
足元にすがり付いて許しを請うとでも思ったのだろうか?
ドアに耳を押し当てていると荒々しいユージーンの足音を女性の悲鳴がかき消した。

「きゃあああっ!」
「王子、なんというものを……っ」
「な、こ、これはちがう! 違うんだ!」

ぶふーっと吹き出しドアの鍵をかけると、ベッドに身を横たえた。
なんだか突拍子もない夢だったなと思いながらあたしは目を閉じた。




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