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折れない心
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天月悠はこの世界の人間ではない。
暖かな日差しが差し込む廊下を1人で歩きながら、私が異世界から連れてきた男、天月悠のことを考えていた。
私が受けた勅命は、“最強の人間を連れてくる”ということだった。 そして異世界に転移した私が見た、『魔力空間投影機』、向こうの世界では『テレビ』とか言う物で『ブレードバトル』の存在を知り、彼の右に出る者はいない最強の剣士と謳われていた『天月悠』を知ることになった。
早速、ブレードバトルの大会に参加した私は、すぐに、この〝剣の闘い〟というものが、この世界では遊びや娯楽に成り下がっていると感じた。
何故ならこの世界は、遥か昔に国と国が手を取り合い共存していくという道を選び、戦争のない平和な世界が実現していたからだ。
そんな平和な世界に、剣を取り、お互いを殴り合うブレードバトルは野蛮な遊び、ただの娯楽に過ぎないのも頷ける。
私の世界とは全くかけ離れた時代の歩みをしている世界。
こんな世界に果たして最強の人間がいるのだろうか? いたとしても、戦いとは切り離された科学とハイテクノロジーな世界での最強の人間など、たかが知れていると思っていた、彼、『天月悠』と出逢うまでは…
彼と対峙し、彼の一撃をこの身に受けた瞬間、私は自分の考えが誤っていたことを思い知らされた。
そして、魔法のない世界で私は天月悠を相手に第3階級魔法『アイシクルレイン』を放ってしまった。
正直、私は彼を殺すつもりで魔法を放った。しかし、その全てを彼は魔法を使わずに防ぎきった。
魔法に物理的な攻撃は意味をなさない。だから魔法をただの剣で斬るということは出来ないし、ありえないはずだった。
ブレードバトルで使用されているソードデバイスという物、スイッチ1つで内蔵されているエネルギーを放出し、剣が出現する。
その構成が魔法に近いものなのだとすれば、ソードデバイスは少ないながら魔力を備蓄した兵器なのだろう。
現に天月悠のソードデバイスは、私の『アイシクルレイン』を防ぎきった後、エネルギーを使い切り大破していた。
しかし、仮にソードデバイスが一種の魔力兵器だったとしても、私のアイシクルレインを全て防ぎきれるとは思えない…
なぜなら彼は魔力を持たないのだから…
少しの狂いもないはずの学園長による魔力量診断でも天月悠の魔力はゼロと診断された。
では一体、アイシクルレインを退ける程の天月悠の力の源は何なの?
知りたい… 魔力以外にも強くなれる方法があるのなら、知りたい!
そして、父と母、弟の仇を… 私は…
「おい聞いたか?」
「ああ、あの『炎鬼姫(えんきひめ)』が魔法決闘するんだってな!」
「マジか! 相手は?」
「何でも今日転入した生徒らしい」
「面白そうだな、早く見に行こうぜ!」
廊下の反対側で男子生徒たちが何やら大声で騒いでいる。
『炎鬼姫』って、たしか第5階級魔導士の『ティア・ルーナ・エンドール』のあだ名…
この学園で第5階級のティアにちょっかい出す生徒がまだいたとは驚きね。
入学当初に、上級生たちが生意気な新入生の出鼻を挫こうと、ティアに散々決闘を挑んで痛い目にあったのにまだ懲りないとは…
ん? 〝今日転入した生徒〟って、まさか!?
私は嫌な予感を感じて、急いで魔法決闘が行われるコロシアムへ向かった。
☆
「へぇー、ここがコロシアムかー…」
この世界にもコロシアムがあるとセレスから聞いていたが、俺の世界のコロシアムと何ら変わらないな。
円形のステージを囲むように観客席が覆い、天井は吹き抜けになっている。
コロシアム自体はでっかい石を切り出して組み合わせた感じの作りだ。
客席には既に噂を聞きつけたのか、この学園の学生と思われる男女が、みな同じローブのような物を纏った制服姿でチラホラ席を埋めていた。
「早く開始位置につきなさい! 天月悠!!」
「はいはい、その前に魔法決闘とやらのルールを教えてくれないか?」
コロシアムの中央で眉間にシワをよせているティアに魔法決闘について尋ねる。
せっかく可愛い顔してんのに、そんな怖い顔してたら台無しだぞ。あー、勿体無い勿体無い。
「はあ? アンタ魔法決闘のルールも知らないの!? よくそんなんでうちの生徒やってられるわね」
「いや~、それ程でも~」
「褒めてないわよッ!!」
おお、一応、ノリツッコミは出来るんだな。異世界人のくせに大したもんだ。
「魔法決闘のルールは相手が降参するか気絶、あるいはどちらかの魔力が尽きるまで行われるわ。 相手を死亡させることは禁止、大規模魔法や範囲魔法も相手を死なさなければ、どんな魔法を使用しても構わないわ」
「すいませーん先生、物理攻撃は可能ですかー?」
「もちろん相手を死亡させなければどんな物理攻撃も可能よ。 それと私、先生じゃないから!」
「オーケー、じゃあ早いとこ始めようか」
「それともう1つ」
「ん?」
ウォーミングアップがてら屈伸運動を始めた俺にティアが話を付け加える。
「聖魔導学園で行われる魔法決闘は負けた方が相手の言うことを1つ、何でも聞かなければいけないというルールがあるの」
「マジか…」
「もちろん、この魔法決闘でも負けた方が勝った方の言うことを何でも聞くの、いいわね!? アンタの頭かち割って私に関する記憶を全部消してやるんだから!!」
「それはちょっと無理じゃね?」
「さあ、始めるわよ!」
なんて余計なルールを!? 一体誰がこんな面倒くさいルールを決めたんだ?
おかげで開始早々降参しようと思ってた俺の計画が台無しじゃねぇかッ!!
「我が願いに応え、出でよ! 『魔装フェニックス』!!」
さっきの神殿の時と同じように、ティアが掌の炎を握ると拳銃が出現し、銃口を俺に向ける。
「どうでもいいけどそれ、熱くないの?」
「はあ? 自分の魔装顕現で火傷でもすると思ってるわけ!? いいから黙って丸焼きになりなさい!」
素朴な疑問を冷たくあしらい、ティアは容赦なく俺に目掛け弾丸を連射してくる。
慌てて俺も聖剣エクスカリバーとやらを構えて、飛んで来る弾を最小限の動きで斬り落としていく。
「これはちっと不味いか… 」
いくら弾丸を防いでも、ティアの拳銃からは弾が切れたり、リロードする素振りすらない。
となるとあの拳銃から発射されてるのは魔法で作った弾とか、魔力を放出してますとか、そんな感じなのかもしれない。
一応、それでも接近する手立てが無いわけではないが、観客席に被害が出るかもしれないしなー…
さあ、どうしたもんかね…
☆
天月悠が持っている剣、あれはまさか…
「聖剣エクスカリバー…」
コロシアムに着いた私は、眼下で行われている天月悠とティア・ルーナ・エンドールの魔法決闘を1番前の客席で見ている。
本来ならすぐにこんな決闘は止めるつもりだったのに、天月悠が持つ剣が聖剣エクスカリバーであることに気が付くと、身体が動かなくなってしまった。
違う、私はこの決闘の結末を見たいんだ。
「早速やってるねぇ~、彼」
「学園長!」
他の生徒たちが気を遣って私の周りには座らないようにしてできた空席に、学園長が眼下で行われている決闘からは目を離さずに私の隣の席に座った。
「しかも、ウンディーネの加護を受けている魔力泉から聖剣エクスカリバーを引き抜いて来るとは、後で元老院の爺さん方が何を言い出すか…」
「学園長、魔力泉に保管されていた聖剣エクスカリバー、あれは王級魔導士以外は抜くことができないはずでは?」
「その通り、確かにあれを制御するには王級魔導士並みの魔力量を制御する力がないと不可能だ。しかしそれは〝この世界の人間の場合には〟という話だ」
「つまり…」
「魔力を持たない人間であれば抜くことが出来るということさ」
この世界の人間は生まれつき魔力を秘めている。だから今まで聖剣エクスカリバーが抜かれることはなかった。
それなのに…
「なーに、気にすることはない。彼が持っているのは聖剣エクスカリバーの模造品(レプリカ)だ」
「レプリカですか?」
「そう、本物をこんな学園の、しかも誰にでも目のつくところに置いておいたりするわけないだろ? それに本物の聖剣は王級魔導士でも扱う事はできないと言われている」
「では何故…?」
「もちろん模造品(レプリカ)といっても元が聖剣だ、それなりの保有魔力量はある。だから炎鬼姫ティア嬢の攻撃を打ち消すことが出来ている、まあそれも時間の問題だろうが…」
先程から悠はティアの攻撃を防ぐので精一杯のようで、殆ど攻撃はしていない。
このまま攻撃を防ぎ続け、聖剣のレプリカの魔力が無くなれば、ティアの魔法を打ち消す手立てが完全になくなる。
でも何故、彼は攻撃をしないの? 受け流せばいい魔法までを全部正面から斬り伏せて、まるで背後を気にしているかのように… もしかして…
「気付いたようだね、彼は客席に座る“私たち”を気にして攻撃に移れないんだよ」
「でも、コロシアムの客席にはオートのシールド魔法が掛かっています、余程の魔法でもない限りは…」
「セレスは彼にその話をしたのかね?」
「いえ… 」
「君にとってこの世界は生まれ育った場所だが、彼にとっては異世界だ、知らないことが多すぎる。もう少し彼に親切にしてやってくれたまえ」
「……… はい」
☆
何なのコイツ? 第3階級までの魔法を攻撃に織り交ぜているのに、全部防いでくる。でも、どうして反撃してこないの?
何か策があるのか、それともやっぱりただのバカなのか…
見極めさせてもらうわ!
「なかなかやるじゃない! でも次は防ぎ切れるかしら?」
「いやもう結構です、ほんと…」
第4階級魔法『フレイムトルネード』 私の扱える魔法の中でも最強クラスの攻撃魔法よ!
私は魔法の発動に必要な魔力を魔装フェニックスに注ぎ、銃口を天に向けトリガーを引く。
「喰らいなさい! 第4階級魔法『フレイムトルネード』!!」
頭上に放たれた魔法の光が空高く上がると、そこから炎の渦が天月悠に向かって物凄いスピードで迫っていく。
「さあ、防げるものなら防いでみなさい!」
「セレスん時と同じで、どうせ避けても付いてくるんだろ? なら真っ向から斬り伏せるッ!!」
天月悠はその場で姿勢を落とし、聖剣を自分の目線に並ぶように持ち上げ、剣先をフレイムトルネードに向ける。
「ハアーッ!!」
掛け声とともに聖剣を突き出し、体ごとフレイムトルネードに突進する。
その剣はフレイムトルネード魔力の中心を寸分の狂いなく捉え、聖剣の魔力と私のフレイムトルネードの魔力がぶつかり合い拮抗する。
「嘘!? 私のフレイムトルネードが押されてるッ!?」
「貫けーッ!!」
私のフレイムトルネードの魔力が聖剣の魔力に打ち消される瞬間、バキッ!っと鈍い金属音が辺りに響き渡る。
「あ゛ーッ!! 聖剣が折れたぁああ!!??」
「えぇッ!? エクスカリバーが!?」
ちょうど真ん中くらいから2つに折れた聖剣持ったまま、強い衝撃で吹き飛ばされていく。
打ち消される筈だった私のフレイムトルネードは天月悠の聖剣が折れた事により、その反動で周囲に弾き出されてしまった。
その内の幾つかが観客席に向かって飛んでいくが、シールド魔法が問題なく作動し、まるで観客席の目の前に見えない壁があるかのように、分散したフレイムトルネードを防ぎきった。
「何だよ… そういう便利な魔法があるんなら最初に教えてくれよ…」
衝撃で吹き飛ばされ、コロシアムの端で仰向けに倒れている天月悠がよくわからないことを口にしている。
「私のフレイムトルネードを受けて、剣1本の犠牲で済んだのは褒めてあげるわ。でも、次で最後よ!」
私はもう一度、魔装フェニックスを天に向け、フレイムトルネードを天月悠に向けて撃ち出す。
「周りを気にしなくていいなら、思う存分やれるな… 」
そう言って、スッと起き上がった天月悠は、一直線に私に向かって走り出した。
しかし、私にたどり着くより先にフレイムトルネードが私と天月悠の間に割って入る。
「丸焼きになりなさいッ!!」
「よッと!」
フレイムトルネードが天月悠を完全に呑み込む。
しかし、フレイムトルネードから伝わる魔力に手応えがない…
「おかしい… 」
急いでバックステップで距離を取るが一瞬判断が遅れた。
私がバックステップをしたのと同時に炎の渦の中から半分に折れた聖剣を振るい、天月悠が飛び出してきて私に迫ってきた!
「嘘!? 何で!?」
「これで終わりだ!」
気が付いた時には、既に私の首元には折れた剣先を突きつけられ、身動きが取れない状態になっていた。
まさか、こんな奴に私が負けるなんて…
「くッ… わかった認めるわ、私の負…」
「すいませーん!俺、降参しまーす!!」
コロシアム中に聞こえるような大きな声で天月悠は敗北を宣言する。これには観客席の生徒たちも驚きを隠せないようで、所々でどよめきが起こった。
「はぁッ!?」
「いや~、聖剣… ぶっ壊しちまった」
そう言って天月悠が私の首元から聖剣エクスカリバーの剣先を引っ込めると、剣の絵の部分だけを残して粉々に砕け散ってしまった。
「だから、俺の負けだ」
「そんな、こんな… こんな勝ち方じゃ納得できないわ!!」
私のフレイムトルネードを破り、首元に剣まで突きつけておいて、それで降参するなんて納得出来るわけない!
「いーじゃん勝ったんだから、細かいことをいちいち気にすんなよな~。 じゃ、俺帰るから」
「ちょっと待ちなさい!」
「うッ…」
どさくさに紛れて逃げようたってそうはいかないわ!
「アンタの言う通り細かいことは気にせず、負けたアンタに勝った私から1つ命令するわ!」
「ぐぬ… な、何でしょうか?」
「これから学園を卒業するまで、アンタは私の下僕よ! いいわね!?」
「うわー… 最悪だ~… 」
どう? 嬉しいでしょ? この私の下僕になれるなんて、普通なら望んでもなれないんだから!
私の魔法を打ち消した褒美として、コイツには徹底的に礼儀ってやつを教え込んでやるわ!
べッ、別に他意はないわ!
ただちょっとだけ… 私のフレイムトルネードを破ったから、ちょっと見直したってだけなんだから!
「どうしよう… 聖剣エクスカリバー粉々だぞ? 偉い人に怒られんのかなー、俺…. 」
私は何処か遠い目をした天月悠を見ながら、これからどんなことをしようかと考えて少しウキウキしている私がいた。
暖かな日差しが差し込む廊下を1人で歩きながら、私が異世界から連れてきた男、天月悠のことを考えていた。
私が受けた勅命は、“最強の人間を連れてくる”ということだった。 そして異世界に転移した私が見た、『魔力空間投影機』、向こうの世界では『テレビ』とか言う物で『ブレードバトル』の存在を知り、彼の右に出る者はいない最強の剣士と謳われていた『天月悠』を知ることになった。
早速、ブレードバトルの大会に参加した私は、すぐに、この〝剣の闘い〟というものが、この世界では遊びや娯楽に成り下がっていると感じた。
何故ならこの世界は、遥か昔に国と国が手を取り合い共存していくという道を選び、戦争のない平和な世界が実現していたからだ。
そんな平和な世界に、剣を取り、お互いを殴り合うブレードバトルは野蛮な遊び、ただの娯楽に過ぎないのも頷ける。
私の世界とは全くかけ離れた時代の歩みをしている世界。
こんな世界に果たして最強の人間がいるのだろうか? いたとしても、戦いとは切り離された科学とハイテクノロジーな世界での最強の人間など、たかが知れていると思っていた、彼、『天月悠』と出逢うまでは…
彼と対峙し、彼の一撃をこの身に受けた瞬間、私は自分の考えが誤っていたことを思い知らされた。
そして、魔法のない世界で私は天月悠を相手に第3階級魔法『アイシクルレイン』を放ってしまった。
正直、私は彼を殺すつもりで魔法を放った。しかし、その全てを彼は魔法を使わずに防ぎきった。
魔法に物理的な攻撃は意味をなさない。だから魔法をただの剣で斬るということは出来ないし、ありえないはずだった。
ブレードバトルで使用されているソードデバイスという物、スイッチ1つで内蔵されているエネルギーを放出し、剣が出現する。
その構成が魔法に近いものなのだとすれば、ソードデバイスは少ないながら魔力を備蓄した兵器なのだろう。
現に天月悠のソードデバイスは、私の『アイシクルレイン』を防ぎきった後、エネルギーを使い切り大破していた。
しかし、仮にソードデバイスが一種の魔力兵器だったとしても、私のアイシクルレインを全て防ぎきれるとは思えない…
なぜなら彼は魔力を持たないのだから…
少しの狂いもないはずの学園長による魔力量診断でも天月悠の魔力はゼロと診断された。
では一体、アイシクルレインを退ける程の天月悠の力の源は何なの?
知りたい… 魔力以外にも強くなれる方法があるのなら、知りたい!
そして、父と母、弟の仇を… 私は…
「おい聞いたか?」
「ああ、あの『炎鬼姫(えんきひめ)』が魔法決闘するんだってな!」
「マジか! 相手は?」
「何でも今日転入した生徒らしい」
「面白そうだな、早く見に行こうぜ!」
廊下の反対側で男子生徒たちが何やら大声で騒いでいる。
『炎鬼姫』って、たしか第5階級魔導士の『ティア・ルーナ・エンドール』のあだ名…
この学園で第5階級のティアにちょっかい出す生徒がまだいたとは驚きね。
入学当初に、上級生たちが生意気な新入生の出鼻を挫こうと、ティアに散々決闘を挑んで痛い目にあったのにまだ懲りないとは…
ん? 〝今日転入した生徒〟って、まさか!?
私は嫌な予感を感じて、急いで魔法決闘が行われるコロシアムへ向かった。
☆
「へぇー、ここがコロシアムかー…」
この世界にもコロシアムがあるとセレスから聞いていたが、俺の世界のコロシアムと何ら変わらないな。
円形のステージを囲むように観客席が覆い、天井は吹き抜けになっている。
コロシアム自体はでっかい石を切り出して組み合わせた感じの作りだ。
客席には既に噂を聞きつけたのか、この学園の学生と思われる男女が、みな同じローブのような物を纏った制服姿でチラホラ席を埋めていた。
「早く開始位置につきなさい! 天月悠!!」
「はいはい、その前に魔法決闘とやらのルールを教えてくれないか?」
コロシアムの中央で眉間にシワをよせているティアに魔法決闘について尋ねる。
せっかく可愛い顔してんのに、そんな怖い顔してたら台無しだぞ。あー、勿体無い勿体無い。
「はあ? アンタ魔法決闘のルールも知らないの!? よくそんなんでうちの生徒やってられるわね」
「いや~、それ程でも~」
「褒めてないわよッ!!」
おお、一応、ノリツッコミは出来るんだな。異世界人のくせに大したもんだ。
「魔法決闘のルールは相手が降参するか気絶、あるいはどちらかの魔力が尽きるまで行われるわ。 相手を死亡させることは禁止、大規模魔法や範囲魔法も相手を死なさなければ、どんな魔法を使用しても構わないわ」
「すいませーん先生、物理攻撃は可能ですかー?」
「もちろん相手を死亡させなければどんな物理攻撃も可能よ。 それと私、先生じゃないから!」
「オーケー、じゃあ早いとこ始めようか」
「それともう1つ」
「ん?」
ウォーミングアップがてら屈伸運動を始めた俺にティアが話を付け加える。
「聖魔導学園で行われる魔法決闘は負けた方が相手の言うことを1つ、何でも聞かなければいけないというルールがあるの」
「マジか…」
「もちろん、この魔法決闘でも負けた方が勝った方の言うことを何でも聞くの、いいわね!? アンタの頭かち割って私に関する記憶を全部消してやるんだから!!」
「それはちょっと無理じゃね?」
「さあ、始めるわよ!」
なんて余計なルールを!? 一体誰がこんな面倒くさいルールを決めたんだ?
おかげで開始早々降参しようと思ってた俺の計画が台無しじゃねぇかッ!!
「我が願いに応え、出でよ! 『魔装フェニックス』!!」
さっきの神殿の時と同じように、ティアが掌の炎を握ると拳銃が出現し、銃口を俺に向ける。
「どうでもいいけどそれ、熱くないの?」
「はあ? 自分の魔装顕現で火傷でもすると思ってるわけ!? いいから黙って丸焼きになりなさい!」
素朴な疑問を冷たくあしらい、ティアは容赦なく俺に目掛け弾丸を連射してくる。
慌てて俺も聖剣エクスカリバーとやらを構えて、飛んで来る弾を最小限の動きで斬り落としていく。
「これはちっと不味いか… 」
いくら弾丸を防いでも、ティアの拳銃からは弾が切れたり、リロードする素振りすらない。
となるとあの拳銃から発射されてるのは魔法で作った弾とか、魔力を放出してますとか、そんな感じなのかもしれない。
一応、それでも接近する手立てが無いわけではないが、観客席に被害が出るかもしれないしなー…
さあ、どうしたもんかね…
☆
天月悠が持っている剣、あれはまさか…
「聖剣エクスカリバー…」
コロシアムに着いた私は、眼下で行われている天月悠とティア・ルーナ・エンドールの魔法決闘を1番前の客席で見ている。
本来ならすぐにこんな決闘は止めるつもりだったのに、天月悠が持つ剣が聖剣エクスカリバーであることに気が付くと、身体が動かなくなってしまった。
違う、私はこの決闘の結末を見たいんだ。
「早速やってるねぇ~、彼」
「学園長!」
他の生徒たちが気を遣って私の周りには座らないようにしてできた空席に、学園長が眼下で行われている決闘からは目を離さずに私の隣の席に座った。
「しかも、ウンディーネの加護を受けている魔力泉から聖剣エクスカリバーを引き抜いて来るとは、後で元老院の爺さん方が何を言い出すか…」
「学園長、魔力泉に保管されていた聖剣エクスカリバー、あれは王級魔導士以外は抜くことができないはずでは?」
「その通り、確かにあれを制御するには王級魔導士並みの魔力量を制御する力がないと不可能だ。しかしそれは〝この世界の人間の場合には〟という話だ」
「つまり…」
「魔力を持たない人間であれば抜くことが出来るということさ」
この世界の人間は生まれつき魔力を秘めている。だから今まで聖剣エクスカリバーが抜かれることはなかった。
それなのに…
「なーに、気にすることはない。彼が持っているのは聖剣エクスカリバーの模造品(レプリカ)だ」
「レプリカですか?」
「そう、本物をこんな学園の、しかも誰にでも目のつくところに置いておいたりするわけないだろ? それに本物の聖剣は王級魔導士でも扱う事はできないと言われている」
「では何故…?」
「もちろん模造品(レプリカ)といっても元が聖剣だ、それなりの保有魔力量はある。だから炎鬼姫ティア嬢の攻撃を打ち消すことが出来ている、まあそれも時間の問題だろうが…」
先程から悠はティアの攻撃を防ぐので精一杯のようで、殆ど攻撃はしていない。
このまま攻撃を防ぎ続け、聖剣のレプリカの魔力が無くなれば、ティアの魔法を打ち消す手立てが完全になくなる。
でも何故、彼は攻撃をしないの? 受け流せばいい魔法までを全部正面から斬り伏せて、まるで背後を気にしているかのように… もしかして…
「気付いたようだね、彼は客席に座る“私たち”を気にして攻撃に移れないんだよ」
「でも、コロシアムの客席にはオートのシールド魔法が掛かっています、余程の魔法でもない限りは…」
「セレスは彼にその話をしたのかね?」
「いえ… 」
「君にとってこの世界は生まれ育った場所だが、彼にとっては異世界だ、知らないことが多すぎる。もう少し彼に親切にしてやってくれたまえ」
「……… はい」
☆
何なのコイツ? 第3階級までの魔法を攻撃に織り交ぜているのに、全部防いでくる。でも、どうして反撃してこないの?
何か策があるのか、それともやっぱりただのバカなのか…
見極めさせてもらうわ!
「なかなかやるじゃない! でも次は防ぎ切れるかしら?」
「いやもう結構です、ほんと…」
第4階級魔法『フレイムトルネード』 私の扱える魔法の中でも最強クラスの攻撃魔法よ!
私は魔法の発動に必要な魔力を魔装フェニックスに注ぎ、銃口を天に向けトリガーを引く。
「喰らいなさい! 第4階級魔法『フレイムトルネード』!!」
頭上に放たれた魔法の光が空高く上がると、そこから炎の渦が天月悠に向かって物凄いスピードで迫っていく。
「さあ、防げるものなら防いでみなさい!」
「セレスん時と同じで、どうせ避けても付いてくるんだろ? なら真っ向から斬り伏せるッ!!」
天月悠はその場で姿勢を落とし、聖剣を自分の目線に並ぶように持ち上げ、剣先をフレイムトルネードに向ける。
「ハアーッ!!」
掛け声とともに聖剣を突き出し、体ごとフレイムトルネードに突進する。
その剣はフレイムトルネード魔力の中心を寸分の狂いなく捉え、聖剣の魔力と私のフレイムトルネードの魔力がぶつかり合い拮抗する。
「嘘!? 私のフレイムトルネードが押されてるッ!?」
「貫けーッ!!」
私のフレイムトルネードの魔力が聖剣の魔力に打ち消される瞬間、バキッ!っと鈍い金属音が辺りに響き渡る。
「あ゛ーッ!! 聖剣が折れたぁああ!!??」
「えぇッ!? エクスカリバーが!?」
ちょうど真ん中くらいから2つに折れた聖剣持ったまま、強い衝撃で吹き飛ばされていく。
打ち消される筈だった私のフレイムトルネードは天月悠の聖剣が折れた事により、その反動で周囲に弾き出されてしまった。
その内の幾つかが観客席に向かって飛んでいくが、シールド魔法が問題なく作動し、まるで観客席の目の前に見えない壁があるかのように、分散したフレイムトルネードを防ぎきった。
「何だよ… そういう便利な魔法があるんなら最初に教えてくれよ…」
衝撃で吹き飛ばされ、コロシアムの端で仰向けに倒れている天月悠がよくわからないことを口にしている。
「私のフレイムトルネードを受けて、剣1本の犠牲で済んだのは褒めてあげるわ。でも、次で最後よ!」
私はもう一度、魔装フェニックスを天に向け、フレイムトルネードを天月悠に向けて撃ち出す。
「周りを気にしなくていいなら、思う存分やれるな… 」
そう言って、スッと起き上がった天月悠は、一直線に私に向かって走り出した。
しかし、私にたどり着くより先にフレイムトルネードが私と天月悠の間に割って入る。
「丸焼きになりなさいッ!!」
「よッと!」
フレイムトルネードが天月悠を完全に呑み込む。
しかし、フレイムトルネードから伝わる魔力に手応えがない…
「おかしい… 」
急いでバックステップで距離を取るが一瞬判断が遅れた。
私がバックステップをしたのと同時に炎の渦の中から半分に折れた聖剣を振るい、天月悠が飛び出してきて私に迫ってきた!
「嘘!? 何で!?」
「これで終わりだ!」
気が付いた時には、既に私の首元には折れた剣先を突きつけられ、身動きが取れない状態になっていた。
まさか、こんな奴に私が負けるなんて…
「くッ… わかった認めるわ、私の負…」
「すいませーん!俺、降参しまーす!!」
コロシアム中に聞こえるような大きな声で天月悠は敗北を宣言する。これには観客席の生徒たちも驚きを隠せないようで、所々でどよめきが起こった。
「はぁッ!?」
「いや~、聖剣… ぶっ壊しちまった」
そう言って天月悠が私の首元から聖剣エクスカリバーの剣先を引っ込めると、剣の絵の部分だけを残して粉々に砕け散ってしまった。
「だから、俺の負けだ」
「そんな、こんな… こんな勝ち方じゃ納得できないわ!!」
私のフレイムトルネードを破り、首元に剣まで突きつけておいて、それで降参するなんて納得出来るわけない!
「いーじゃん勝ったんだから、細かいことをいちいち気にすんなよな~。 じゃ、俺帰るから」
「ちょっと待ちなさい!」
「うッ…」
どさくさに紛れて逃げようたってそうはいかないわ!
「アンタの言う通り細かいことは気にせず、負けたアンタに勝った私から1つ命令するわ!」
「ぐぬ… な、何でしょうか?」
「これから学園を卒業するまで、アンタは私の下僕よ! いいわね!?」
「うわー… 最悪だ~… 」
どう? 嬉しいでしょ? この私の下僕になれるなんて、普通なら望んでもなれないんだから!
私の魔法を打ち消した褒美として、コイツには徹底的に礼儀ってやつを教え込んでやるわ!
べッ、別に他意はないわ!
ただちょっとだけ… 私のフレイムトルネードを破ったから、ちょっと見直したってだけなんだから!
「どうしよう… 聖剣エクスカリバー粉々だぞ? 偉い人に怒られんのかなー、俺…. 」
私は何処か遠い目をした天月悠を見ながら、これからどんなことをしようかと考えて少しウキウキしている私がいた。
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そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
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【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの
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