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ヴァンザの新型船 (本編に収まらなかった設定資料的な御話)
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※本編にはあまり関わってこない設定資料的な内容です。船に関するお話を少し書き足そうかなと考えていたら、無暗やたらに長くなってしまいまして。ご興味のある、もしくは奇特な方だけどうぞ。以下本文、アセルスハイネの港に未開領域からの船が返ってきた頃。リーナ視点。
ーーー△ーーー△ーーー△ーーー△ーーー△ーーー
港に停泊中の新型船に興味を示していた私を見て、帰還したばかりの冒険者の皆さんが船を案内してくれると言った。もちろん船には秘密にされている部分もあって全てを見学できるわけではないけれど。
さて、こうして乗船してみると、かつてスース様に多種多様な知識を詰め込まれた頃の事を思い出す。小さな模型を見せていただいたこともあった。スース様の部屋にはアドリエルルで良く使われているタイプの船の模型がいくつか並べてあって、子供心にワクワクして眺めていたものだ。
今日こうして実物を見せていただく新型の船はガレー船の一種だ。船の左右には長大なオールがいくつも備え付けられていて、人力で漕いで船を進めることが出来るタイプの船。もちろん帆も帆柱も付いているけれど、あまり大きくはない。
ガレー船はたくさんの漕ぎ手を必要とするせいで、荷物の積載量に比べて運用コストが高くなってしまう。だから一般的には商用よりも軍用に多く使われる。商用として使うには、風の力で船を走らせる帆船のほうが有利になると私は聞いている。
さて、そんな軍用船に乗っで行かなければならないという事は、つまり未開領域はそれだけ危険な場所だという話。そう、あのあたりは大型の魔物が日常的に出没するような危険な水域なのだ。
こういった水域では、どのみち大量の冒険者や傭兵を乗船させておいて、水中の魔物からの襲撃に備える必要がある。そして彼らのほとんどは屈強すぎるほどの肉体を持っているのだから、どうせなら船も漕いでもらったほうが合理的だということになるようだ。
新型船の漕ぎ手の数は54人。船の大きさに比べるとかなり少ない人数に抑えられていた。
この船は、初めから一流の冒険者たちが乗り込むことを前提として建造されている。一流の冒険者というのは半ば人間の領域を超えた超人たちだ。常人が2人1組で扱うような長大なオールを1人で軽々と取り扱ってしまうし、それでいて速度も遥かに早い。
この船は初めから、特殊な冒険者たちが運用することを想定して建造されているから漕ぎ手は少人数。そのための空間も節約した造りになっている。
冒険者たちは状況に応じて戦闘員になったり漕ぎ手になったりしながら、危険な湖を渡っていく。
さすがに1日中漕ぎっぱなしというわけにもいかないから、ちゃんと帆もついてはいるけれど、風が吹かないときや水の魔物との戦いの時の操船、さらには全速で逃げ出すときなんかにもオールは活躍するのだそうだ。
ただし優秀な冒険者を大勢乗せたこの手の大型ガレー船自体はこれまでにも存在はしていた。それをもってしても、これまでは未開領域への船旅は大きな危険を伴うものだった。
シーサーペントにクラーケン。超大型の水棲魔物というのは、大型船を丸ごと水中に引きずりこむ程度には大きい。
この非常事態に活躍するのが新型船の魔導炉である。魔導炉といっても私が家で錬金術に使っているようなタイプとは全く違い、火や水などの属性を持った結晶石を投げ入れると、そこに込められていた魔力を爆発的に解放させるという危険な装置である。
水の結晶石を使えば水そのものを操る大きな力が発生するし、火や雷を使えば水棲魔物に効果絶大な一撃を浴びせることも出来る。
水の結晶石をつかった魔導炉で推進力を得ている場合には、その時だけでも漕ぎ手は必要がなくなる。オールから解放された冒険者たちは剣や杖を手に取って戦うことが出来るという寸法だ。
そんな具合に、平常時には風と帆の力で船を走らせ、何かがあれば冒険者がオールを操る。それでもどうにもならないほどの非常時には、魔導炉を使うという3段構えで新型船は未開領域への水域を走っていく。
ただし、この種の魔導炉というのがまた非常に燃費の悪い代物で、めったな事では使われてこなかった歴史がある。結晶石を湯水のように消耗するだなんて、普通の船でやったら商売どころの騒ぎではない。とにかくお金がかかりすぎるし、重いし、発動だって遅い。
こんなものを。ただでさえ高コストで積載量が少ないガレー船に積み込むというのだから、普通に考えたら正気の沙汰ではない。これで船が帰ってこなかったり、碌に収穫もなく戻ってきたりしたら、大商会が1つ軽く吹き飛ぶほどの損害が出るような代物だ。
そんな恐ろしいことを平然とやってしまうのがハイラスさんという人物であり、ヴァンザ同盟の人たちだ。
裏を返せば、それだけのコストをかけても未開領域での冒険は利益が出ると判断したということにもなる。未知の新素材に希少な魔物、無理を押してでも達成するだけの価値はあるようではある。まったく、ヴァンザも未開領域も恐ろしいものだ。
一通り見せていただいて船をおりると、近所の子供たちがキラキラした目で船の姿を眺めている姿が見えた。
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港に停泊中の新型船に興味を示していた私を見て、帰還したばかりの冒険者の皆さんが船を案内してくれると言った。もちろん船には秘密にされている部分もあって全てを見学できるわけではないけれど。
さて、こうして乗船してみると、かつてスース様に多種多様な知識を詰め込まれた頃の事を思い出す。小さな模型を見せていただいたこともあった。スース様の部屋にはアドリエルルで良く使われているタイプの船の模型がいくつか並べてあって、子供心にワクワクして眺めていたものだ。
今日こうして実物を見せていただく新型の船はガレー船の一種だ。船の左右には長大なオールがいくつも備え付けられていて、人力で漕いで船を進めることが出来るタイプの船。もちろん帆も帆柱も付いているけれど、あまり大きくはない。
ガレー船はたくさんの漕ぎ手を必要とするせいで、荷物の積載量に比べて運用コストが高くなってしまう。だから一般的には商用よりも軍用に多く使われる。商用として使うには、風の力で船を走らせる帆船のほうが有利になると私は聞いている。
さて、そんな軍用船に乗っで行かなければならないという事は、つまり未開領域はそれだけ危険な場所だという話。そう、あのあたりは大型の魔物が日常的に出没するような危険な水域なのだ。
こういった水域では、どのみち大量の冒険者や傭兵を乗船させておいて、水中の魔物からの襲撃に備える必要がある。そして彼らのほとんどは屈強すぎるほどの肉体を持っているのだから、どうせなら船も漕いでもらったほうが合理的だということになるようだ。
新型船の漕ぎ手の数は54人。船の大きさに比べるとかなり少ない人数に抑えられていた。
この船は、初めから一流の冒険者たちが乗り込むことを前提として建造されている。一流の冒険者というのは半ば人間の領域を超えた超人たちだ。常人が2人1組で扱うような長大なオールを1人で軽々と取り扱ってしまうし、それでいて速度も遥かに早い。
この船は初めから、特殊な冒険者たちが運用することを想定して建造されているから漕ぎ手は少人数。そのための空間も節約した造りになっている。
冒険者たちは状況に応じて戦闘員になったり漕ぎ手になったりしながら、危険な湖を渡っていく。
さすがに1日中漕ぎっぱなしというわけにもいかないから、ちゃんと帆もついてはいるけれど、風が吹かないときや水の魔物との戦いの時の操船、さらには全速で逃げ出すときなんかにもオールは活躍するのだそうだ。
ただし優秀な冒険者を大勢乗せたこの手の大型ガレー船自体はこれまでにも存在はしていた。それをもってしても、これまでは未開領域への船旅は大きな危険を伴うものだった。
シーサーペントにクラーケン。超大型の水棲魔物というのは、大型船を丸ごと水中に引きずりこむ程度には大きい。
この非常事態に活躍するのが新型船の魔導炉である。魔導炉といっても私が家で錬金術に使っているようなタイプとは全く違い、火や水などの属性を持った結晶石を投げ入れると、そこに込められていた魔力を爆発的に解放させるという危険な装置である。
水の結晶石を使えば水そのものを操る大きな力が発生するし、火や雷を使えば水棲魔物に効果絶大な一撃を浴びせることも出来る。
水の結晶石をつかった魔導炉で推進力を得ている場合には、その時だけでも漕ぎ手は必要がなくなる。オールから解放された冒険者たちは剣や杖を手に取って戦うことが出来るという寸法だ。
そんな具合に、平常時には風と帆の力で船を走らせ、何かがあれば冒険者がオールを操る。それでもどうにもならないほどの非常時には、魔導炉を使うという3段構えで新型船は未開領域への水域を走っていく。
ただし、この種の魔導炉というのがまた非常に燃費の悪い代物で、めったな事では使われてこなかった歴史がある。結晶石を湯水のように消耗するだなんて、普通の船でやったら商売どころの騒ぎではない。とにかくお金がかかりすぎるし、重いし、発動だって遅い。
こんなものを。ただでさえ高コストで積載量が少ないガレー船に積み込むというのだから、普通に考えたら正気の沙汰ではない。これで船が帰ってこなかったり、碌に収穫もなく戻ってきたりしたら、大商会が1つ軽く吹き飛ぶほどの損害が出るような代物だ。
そんな恐ろしいことを平然とやってしまうのがハイラスさんという人物であり、ヴァンザ同盟の人たちだ。
裏を返せば、それだけのコストをかけても未開領域での冒険は利益が出ると判断したということにもなる。未知の新素材に希少な魔物、無理を押してでも達成するだけの価値はあるようではある。まったく、ヴァンザも未開領域も恐ろしいものだ。
一通り見せていただいて船をおりると、近所の子供たちがキラキラした目で船の姿を眺めている姿が見えた。
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