ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

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 大規模儀式の噂は、あっという間に王都中に広まった。
 前回の爆発騒ぎで懲りたはずの人々までが、今回はきっと本物の奇跡が見られるかもしれないと浮き足立っている。
 あまりに軽率ではないかと思いつつも、聖女が巻き起こす虚飾の力は、それほどまでに人々の心を揺さぶっているのだろう。

「前回の爆発も、誰かが邪魔をしたから失敗しただけ……と聖女は言い張っています。庶民の間にもその解釈を信じる人がいるようで困ったものです」
 私は王宮の一角で侍女たちから情報を集めながらため息をつく。
 しかし、ここで嘆いていても仕方がない。
 私とレオポルド殿下、そして騎士団長は、儀式当日に決定的な証拠を押さえる作戦を立案していた。

 作戦の要点はこうだ。
 一見、私たちは儀式の混乱を避けるために遠巻きに警戒しているだけのように見せかける。
 しかし実際には騎士団の精鋭を配置し、聖女が何らかの薬品や危険な道具を使う瞬間を抑える。
 もし再び爆発や毒が使用されるなら、その時こそ不正の現場を押さえる最大のチャンスになるのだ。

「場所は王都の中心広場ですか。前回の宮廷広場よりも、さらに多くの人が集まりそうですね」
 私は緊張を抑えようと必死に息を整える。
 王都の中心広場は市民が行き交う要所であり、まさに大規模な“奇跡”を見せつけるには格好の場所だろう。
 だが、その分だけ潜在的な被害も大きくなる。
 爆発でも起きれば、前回よりはるかに甚大な混乱に陥るに違いない。

「だからこそ、私たちが事前に危険物の搬入を確認し、儀式の終盤で聖女や取り巻きが怪しい動きを始めたら、すかさず押さえにいく必要があります」
 騎士団長は地図を広げながら指示を出す。
 広場の周囲に隠し部隊を配置し、私たちが合図を送れば一斉に囲む形だ。
 当然、アレクサンドル殿下には内緒で進めなくてはならない。
 もし事前に察知されれば、証拠を握る前に逃げられてしまう。

「ユリア……いや、伯爵令嬢。今回、あなたの役目は重大だ」
 そう声をかけてきたのはレオポルド殿下だ。
 私は思わず一瞬身が引き締まる。
 これまでの経緯からしても、私が前面に出ることは避けた方がいいと考えられていた。
 けれど、地の文書類や被害者との連絡調整など、私でなければうまくいかない部分があるのも事実だ。

「私、できる限り広場の周辺を巡回して、不審な道具を持ち込もうとする人がいないか見張るようにします。あと、万一被害が出るような事態が起こったら、早急に人々を避難させる手立ても考えておきます」
 私の言葉に、騎士団長が頼もしそうに頷く。
「ぜひお願いしたい。庶民や子どもが多く集まるはずだからな。君が冷静に指示を出してくれれば、最悪の惨事は避けられるはずだ」

 そうして、儀式当日に備えた隠し部隊の計画が着々と進んでいく。
 兵士たちは王宮内外に散り散りに潜み、聖女の関係者がどんな物資を運ぶのかを監視する。
 レオポルド殿下も自ら指揮を執り、「万が一の時は自分が先頭に立つ」と宣言していた。

 その一方で、アレクサンドル殿下と聖女は相変わらず大げさな広報を行っているらしい。
 「今度こそ真なる奇跡が起こる」「国全体を救う力を皆の前で証明する」と、まるで勝利を疑っていない様子だとか。
 私はそんな噂を耳にするたび、胸にざわつくような不安を感じた。
 果たして、今回はどんな手口を使う気なのか。

 決戦は目前。
 私たちが立てた隠し部隊の作戦が功を奏するか否かは、当日の状況次第だろう。
 もし聖女が再び危険な薬品を使おうとするなら、その瞬間こそが“偽物の聖女”を暴く最大の好機となる。
 前回の大爆発を繰り返さないためにも、私たちには一歩も退く余地はなかった。
 私は心臓の鼓動を感じつつ、王宮の裏通路を急ぎ足で進む。
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