ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

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 数日後、騎士団長は王宮内で聖女が保管していた一部の道具を極秘裏に押収することに成功した。
 これは聖女の侍女や下働きの者たちの協力によって成し遂げられたもので、彼らの証言によれば「祈りの儀式にはいつも怪しげな道具が持ち込まれている」とのことだった。
 そして、緻密な鑑定の結果、それらの道具には毒や麻薬成分が含まれていることが判明したのだ。

「これで、聖女の奇跡がただの偽物――危険な薬物を使ったインチキである可能性が高いと証明できる」
 騎士団長が私とレオポルド殿下にそう告げたとき、私たちは思わず顔を見合わせた。
 嬉しさよりも先に、あまりに信じがたい現実を突きつけられた驚きが込み上げる。
 まさか、こんな毒物を扱っていたとは……。

 しかし、騎士団長は慎重だ。
「だが、これだけでは国王陛下を完全に納得させることは難しいかもしれん。聖女やアレクサンドル殿下が“外部から仕込まれたものだ”と言い逃れる可能性がある」
 たしかに、いくら怪しい道具が押収されたところで、「それは誰かが聖女を陥れるために用意したのだ」という口実はいくらでも作れてしまう。
 相手はここまで狡猾に嘘を重ねてきたのだ。すんなりと白状するはずがない。

「要は、彼らが実際にこれらの薬物を使っている現場や、直接的な証拠が欲しいということですね」
 私がそう確認すると、騎士団長は渋い表情で頷く。
「そうだ。今回の押収だけでは物的証拠としては十分ではない。だが、騎士団としては確信を得た。聖女は確実に偽物だとな」

 私の胸には複雑な感情が渦巻く。
 ようやくここまで来たのに、まだ決定的な場面が足りないという現実。
 とはいえ、騎士団長もレオポルド殿下も、次こそは必ず奴らの悪事を暴こうと意気込んでいる。
 私も不安を抱えながらも、協力を惜しまないつもりだった。

 そこへ、騎士団の下級兵士が慌てて駆け込んできて、私たちに耳打ちをする。
「聖女が“最後の大逆転を狙う”と噂しております。何やら次の儀式を考えているようです。今度はもっと大規模な方法で、人々を一気に支配するとか……」
 予想していたとはいえ、やはり相手は強引な手段で一気に形勢をひっくり返そうとしているらしい。

 レオポルド殿下は目を見開き、険しい表情になる。
「弟は追い詰められたからこそ、破れかぶれの計画を立てているのかもしれない。……しかし、この機を逃すわけにはいかん。大がかりな儀式をするなら、その場で証拠を抑えるチャンスが生まれる」
 騎士団長も同意見のようだ。
「そうだな。次の儀式がどんな形で行われるか不明だが、必ず警戒を強めよう。もし毒や麻薬を使って人々を操ろうとするなら、その瞬間を逃さぬよう徹底的に監視する」

 私も意を決して言葉を重ねる。
「私も動きます。伯爵家のつてや調整力を活かして、一般の貴族や庶民が危険に巻き込まれないよう注意を呼びかけます。そして、できる限り聖女の隙を突いてやりたい」
 先日の爆発で多くの負傷者を見ているだけに、これ以上無関係な人が犠牲になるのは耐えがたい。
 今度こそ、悲惨な結果を防がなくてはならない。

 こうして私たちは、次に聖女が大きな動きを見せるであろうタイミングを慎重に伺いつつ、決定的な証拠を掴む準備を始めた。
 騎士団長は秘密裏に兵を配備し、レオポルド殿下も国王陛下に対して最低限の報告をしておく。
 ただし、今はまだ踏み込んだ説明はできない。うかつに話せば、アレクサンドル殿下と聖女に先手を打たれてしまうからだ。

 ついに事態は最終局面へ向かって動き出している。
 私の胸には不安と期待が入り混じり、言いようのない鼓動の高鳴りを感じる。
 もし次の儀式で証拠を掴めなければ、またしても聖女派の謀略に惑わされるかもしれない。
 けれど、今度こそ私たちは負けるわけにはいかないのだ。
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