ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

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 私とレオポルド殿下は十分な資料を携えて、近々開かれる公式行事にアレクサンドル殿下を呼び出す段取りを整えた。
 その行事は貴族や役人が多く集まる場でもあり、王族の発言が大いに注目される。
 つまり、公の目の前で質疑を行うには最適な舞台だ。
 アレクサンドル殿下も、これまで散々「聖女の力」を誇示してきた以上、ここで逃げるような真似はできないだろう。

 当日、王宮の広間には多くの貴族が顔をそろえている。
 私も人混みに紛れつつ、レオポルド殿下と合流する。
「準備はいいか?」
 殿下が低い声で尋ね、私は深呼吸をして心を落ち着かせる。
 この公の場で、アレクサンドル殿下を問い詰める。失敗は許されない。

 そして、予定の時間になると、アレクサンドル殿下が派手な宝石をちりばめた上着をはためかせて登場した。
 聖女も一緒だが、その表情には不敵な余裕が漂っている。
 確かに彼らには取り巻きが多いし、何より国王陛下が“聖女”をある程度信じているため、簡単に責められない状況だと思っているのだろう。

 だが、レオポルド殿下は堂々とした態度で立ち上がり、弟に向けて声を上げる。
「アレクサンドル。今ここで、留学時の資金と聖女の儀式に関わる出費について、説明をしてもらいたい」
 一気に会場がざわめき、貴族たちが息を呑む。
 アレクサンドル殿下は一瞬、驚きに目を見開いたが、すぐに憤慨したように口を開いた。

「兄上、何を言い出すのだ。これは私と聖女の活動のために必要な資金だ。国の未来を守る神聖な儀式に使っている」
 その言い分に、レオポルド殿下は冷静に返す。
「では、具体的な報告書や領収書を出してくれ。どこへ、どのように支払ったのか、正確に示す必要がある。これは王家の財産に関わる話だ」
 聖女が横から口を挟む。
「私の奇跡を広めるためには、相応の準備が必要です。神聖なる儀式が簡単に説明できるわけがありません」

 この言葉に、会場の貴族たちは一瞬うなずく気配を見せる。
 やはり、まだ聖女を信じている者は多いらしい。
 しかし、レオポルド殿下はまったく揺るがずに言葉を重ねる。
「儀式が神聖かどうかの話をしているのではない。財務記録上では、莫大な額が動いているにもかかわらず、その使途が不透明なのだ。私はそれを問うている」
 どこにお金が行ったのか、きちんと示せと言っているだけなのだから、確かに当然の要求だ。

 アレクサンドル殿下はあいまいな笑みを浮かべ、
「兄上、そんなものは聖女を信じれば必要ない話だ。それとも、私の言葉を疑うというのか?」
 会場が再びざわめく。
 しかし、これまでのレオポルド殿下の威厳ある姿に心を動かされたのか、貴族の中にはアレクサンドル殿下を冷ややかな目で見る者もちらほら出始める。

「疑うも何も、国の資金がどこへ消えたのか、誰がどのように使ったのかは記録が必要だ。君が言い逃れをする気なら、私はあらかじめ用意した証拠をここで公表することになるぞ」
 殿下がそう告げると、聖女が身を乗り出し、
「私の奇跡を否定するなど、神の怒りに触れるかもしれません。覚悟はおありですか?」
と声を張り上げる。

 その言葉にひるむ貴族たちもいるが、レオポルド殿下はまるで相手にしていない。
「神がどう言おうと、我々は国を守る義務がある。無責任に金を使い込む者を見過ごすわけにはいかないのだ」
 私も思わず胸がすく思いで彼の後ろに立つ。
 そして、貴族たちの視線を受けながら、アレクサンドル殿下がどう反応するかを見守る。

 殿下は会場の空気を感じ取ったのか、顔をこわばらせる。
「……そこまで言うなら、後日改めて書類を提出しようではないか。だが、今ここで全部を出せと言われても無理だ。聖女の活動は日々忙しいのでな」
 逃げ口上のような曖昧な答えに、貴族たちが失望の声を上げ始める。
 それでも、聖女は大仰に胸を張り、「奇跡は必ず証明されます」と断言していた。

 そんな中、レオポルド殿下が小さくため息をつき、私に向けて短く目配せをする。
 どうやら、この場では決定的な追及には至らなかったものの、周囲の空気はアレクサンドル殿下に厳しくなり始めているようだ。
 それだけでも、一歩前進と言えるかもしれない。

 しかし、ただでは済まさないという意気込みなのか、聖女の瞳には不穏な光が宿っているのが見て取れた。
 あの女性が何を企んでいるのか、今まで以上に注意する必要があるだろう。
 こうして、公の場での最初の追及は、曖昧な形で幕を閉じるものの、確実にアレクサンドル殿下と聖女を追いつめる道が見え始めていた。
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