ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

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 翌日、私が王宮で雑務をこなしていると、突然アレクサンドル殿下からの召喚が伝えられた。
「また殿下に呼ばれるなんて……何の用事かしら」
 正直、気が進まないが、これ以上変に抵抗しても危険が増すだけかもしれない。
 私は気持ちを整え、指定された部屋へと向かった。

 そこには、まばゆいほどの宝石を散りばめた服を着たアレクサンドル殿下が立っていた。
 緑色の瞳は相変わらず強欲な光を宿し、その隣には噂の“聖女”が静かに微笑んでいる。
 銀髪の聖女は確かに美しく、透き通るような肌が印象的だが、どこか冷たい雰囲気が漂っていた。

「君はいったい、何をしているんだ。婚約破棄も済んだのだから、いい加減王宮から出て行けばいいものを」
 アレクサンドル殿下は私を見下すように言い放つ。
 私はドレスの裾を整え、落ち着いた声で返した。
「伯爵家に関わる事務連絡が残っておりますので。急に退去するわけには参りません」
 もちろん、これだけが理由ではないが。

「ふん。大方、何か逆恨みでもしているのだろう。とにかく、君の存在は目障りなんだよ」
 殿下の言葉は侮蔑に満ちている。
 その時、聖女がまるで人形のような薄い笑みを浮かべながら、私へ視線を向けた。
「婚約者だったのに、ご自分から破棄を申し出るなんて、お可哀想に。私であれば、殿下を絶対に離しませんわ」
 まるで挑発するような口ぶりに、私は胸の奥がざわめく。

「聖女様のお力は尊い。君のような凡俗には理解できないだろう?」
 アレクサンドル殿下が嘲笑を浮かべる。
 私は敢えて笑みを浮かべず、表情を変えないように努めた。
「ええ、私には理解が及びません。でも、あなたがたが素晴らしい道を歩まれるよう祈っております」
 内心、怒りに震えながらも、あくまで丁寧な言葉を崩さないのが私のやり方だ。

 すると、聖女がくすりと笑った。
「殿下、やはりこの方は役立たずの伯爵令嬢だったようですね。先ほどから何を言われても、ただのお人形のように見えますわ」
 まるで私を存在ごと否定するかのような言い方だ。
 だが、ここで無意味に反発しても相手の思うつぼだろう。
 私は静かに頭を下げ、「失礼いたします」と一言だけ残して部屋を出ようとした。

 だが、背中越しにアレクサンドル殿下が放った言葉は、私の心に引っかかるものだった。
「二度と余計な詮索をしないように。王宮は神聖なる聖女と、この私の支配下にあるのだからね」
 まるで何かを隠し通すと宣言しているような響き。
 私は軽く息を吐き、冷静さを保ちつつ扉を閉める。

 あの聖女は、噂通り美しく、そして強烈な存在感を放っていた。
 しかし、その笑みの下に何が潜んでいるのか。
 私がこれまで掴んだ断片的な証拠を考えれば、とても“聖なる存在”とは思えない。
 むしろ、あの場にいるだけで肌が粟立つような冷ややかさを感じた。

 私は部屋を出て、人気のない廊下を歩きながら胸の奥を落ち着かせる。
 あの聖女と直接言葉を交わし、確信した。
 やはり普通ではない、何かがあると。
 これからは彼女やアレクサンドル殿下の取り巻きが、私をより警戒するかもしれない。
 だが、構わない。
 私は私の意志でこの真実を突き止めると決めたのだから。
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