9 / 37
9
しおりを挟む
翌日、私が王宮で雑務をこなしていると、突然アレクサンドル殿下からの召喚が伝えられた。
「また殿下に呼ばれるなんて……何の用事かしら」
正直、気が進まないが、これ以上変に抵抗しても危険が増すだけかもしれない。
私は気持ちを整え、指定された部屋へと向かった。
そこには、まばゆいほどの宝石を散りばめた服を着たアレクサンドル殿下が立っていた。
緑色の瞳は相変わらず強欲な光を宿し、その隣には噂の“聖女”が静かに微笑んでいる。
銀髪の聖女は確かに美しく、透き通るような肌が印象的だが、どこか冷たい雰囲気が漂っていた。
「君はいったい、何をしているんだ。婚約破棄も済んだのだから、いい加減王宮から出て行けばいいものを」
アレクサンドル殿下は私を見下すように言い放つ。
私はドレスの裾を整え、落ち着いた声で返した。
「伯爵家に関わる事務連絡が残っておりますので。急に退去するわけには参りません」
もちろん、これだけが理由ではないが。
「ふん。大方、何か逆恨みでもしているのだろう。とにかく、君の存在は目障りなんだよ」
殿下の言葉は侮蔑に満ちている。
その時、聖女がまるで人形のような薄い笑みを浮かべながら、私へ視線を向けた。
「婚約者だったのに、ご自分から破棄を申し出るなんて、お可哀想に。私であれば、殿下を絶対に離しませんわ」
まるで挑発するような口ぶりに、私は胸の奥がざわめく。
「聖女様のお力は尊い。君のような凡俗には理解できないだろう?」
アレクサンドル殿下が嘲笑を浮かべる。
私は敢えて笑みを浮かべず、表情を変えないように努めた。
「ええ、私には理解が及びません。でも、あなたがたが素晴らしい道を歩まれるよう祈っております」
内心、怒りに震えながらも、あくまで丁寧な言葉を崩さないのが私のやり方だ。
すると、聖女がくすりと笑った。
「殿下、やはりこの方は役立たずの伯爵令嬢だったようですね。先ほどから何を言われても、ただのお人形のように見えますわ」
まるで私を存在ごと否定するかのような言い方だ。
だが、ここで無意味に反発しても相手の思うつぼだろう。
私は静かに頭を下げ、「失礼いたします」と一言だけ残して部屋を出ようとした。
だが、背中越しにアレクサンドル殿下が放った言葉は、私の心に引っかかるものだった。
「二度と余計な詮索をしないように。王宮は神聖なる聖女と、この私の支配下にあるのだからね」
まるで何かを隠し通すと宣言しているような響き。
私は軽く息を吐き、冷静さを保ちつつ扉を閉める。
あの聖女は、噂通り美しく、そして強烈な存在感を放っていた。
しかし、その笑みの下に何が潜んでいるのか。
私がこれまで掴んだ断片的な証拠を考えれば、とても“聖なる存在”とは思えない。
むしろ、あの場にいるだけで肌が粟立つような冷ややかさを感じた。
私は部屋を出て、人気のない廊下を歩きながら胸の奥を落ち着かせる。
あの聖女と直接言葉を交わし、確信した。
やはり普通ではない、何かがあると。
これからは彼女やアレクサンドル殿下の取り巻きが、私をより警戒するかもしれない。
だが、構わない。
私は私の意志でこの真実を突き止めると決めたのだから。
「また殿下に呼ばれるなんて……何の用事かしら」
正直、気が進まないが、これ以上変に抵抗しても危険が増すだけかもしれない。
私は気持ちを整え、指定された部屋へと向かった。
そこには、まばゆいほどの宝石を散りばめた服を着たアレクサンドル殿下が立っていた。
緑色の瞳は相変わらず強欲な光を宿し、その隣には噂の“聖女”が静かに微笑んでいる。
銀髪の聖女は確かに美しく、透き通るような肌が印象的だが、どこか冷たい雰囲気が漂っていた。
「君はいったい、何をしているんだ。婚約破棄も済んだのだから、いい加減王宮から出て行けばいいものを」
アレクサンドル殿下は私を見下すように言い放つ。
私はドレスの裾を整え、落ち着いた声で返した。
「伯爵家に関わる事務連絡が残っておりますので。急に退去するわけには参りません」
もちろん、これだけが理由ではないが。
「ふん。大方、何か逆恨みでもしているのだろう。とにかく、君の存在は目障りなんだよ」
殿下の言葉は侮蔑に満ちている。
その時、聖女がまるで人形のような薄い笑みを浮かべながら、私へ視線を向けた。
「婚約者だったのに、ご自分から破棄を申し出るなんて、お可哀想に。私であれば、殿下を絶対に離しませんわ」
まるで挑発するような口ぶりに、私は胸の奥がざわめく。
「聖女様のお力は尊い。君のような凡俗には理解できないだろう?」
アレクサンドル殿下が嘲笑を浮かべる。
私は敢えて笑みを浮かべず、表情を変えないように努めた。
「ええ、私には理解が及びません。でも、あなたがたが素晴らしい道を歩まれるよう祈っております」
内心、怒りに震えながらも、あくまで丁寧な言葉を崩さないのが私のやり方だ。
すると、聖女がくすりと笑った。
「殿下、やはりこの方は役立たずの伯爵令嬢だったようですね。先ほどから何を言われても、ただのお人形のように見えますわ」
まるで私を存在ごと否定するかのような言い方だ。
だが、ここで無意味に反発しても相手の思うつぼだろう。
私は静かに頭を下げ、「失礼いたします」と一言だけ残して部屋を出ようとした。
だが、背中越しにアレクサンドル殿下が放った言葉は、私の心に引っかかるものだった。
「二度と余計な詮索をしないように。王宮は神聖なる聖女と、この私の支配下にあるのだからね」
まるで何かを隠し通すと宣言しているような響き。
私は軽く息を吐き、冷静さを保ちつつ扉を閉める。
あの聖女は、噂通り美しく、そして強烈な存在感を放っていた。
しかし、その笑みの下に何が潜んでいるのか。
私がこれまで掴んだ断片的な証拠を考えれば、とても“聖なる存在”とは思えない。
むしろ、あの場にいるだけで肌が粟立つような冷ややかさを感じた。
私は部屋を出て、人気のない廊下を歩きながら胸の奥を落ち着かせる。
あの聖女と直接言葉を交わし、確信した。
やはり普通ではない、何かがあると。
これからは彼女やアレクサンドル殿下の取り巻きが、私をより警戒するかもしれない。
だが、構わない。
私は私の意志でこの真実を突き止めると決めたのだから。
68
お気に入りに追加
391
あなたにおすすめの小説

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜
百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。
※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪
山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」
「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」
「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」
「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」
「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」
そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。
私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。
さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる