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婚約破棄が正式に成立したあと、私は思ったよりも王宮に居座り続けている。
本来なら、「あの伯爵令嬢はもう来る必要がない」と周囲に言われそうなものだが、不正の証拠を掴むためには頻繁に足を運ぶ必要があるのだ。
私が記録を整理したり、控えめに動いている間、アレクサンドル殿下や聖女は安心しきっているらしい。
彼らは私を追い払ったつもりでいて、もはや眼中にないとでも思っているのだろう。
しかし、聖女と呼ばれる女性が引き起こす奇妙な“奇跡”の数々が、王宮内で悪評を呼び始めているという話を聞く。
役人や貴族の一部が熱狂的に支持している一方で、「あの奇跡のせいで体調を崩した」という声がちらほら上がっているのだ。
たとえば、子どもを授かりたいと願ったあるご夫人が、聖女の祈りを受けたはいいが、その直後から急激に体調が悪化したという。
それでも、周囲は「ただの偶然だ」「聖女の力を疑うなんて不敬だ」と言いくるめ、誰も深く追及していないようだ。
私はまだ直接聖女を見かけたことがない。
アレクサンドル殿下とともに現れた彼女は、確かに人目を引く容姿をしているという噂だが、どうにもその力が本物だとは思えない。
むしろ、私が集めた財務不正の手がかりから考えると、彼女の“奇跡”は何らかの欺瞞によって作り出されている可能性が高いのではないか。
だとすると、その裏にはもっと大きなからくりがあるはずだ。
ただ、問題は王宮だけでなく、庶民たちの間にまで聖女の話が広がっていることだ。
「病気を治してもらった」「不運な事故から救われた」などと口にする人もいて、それらがすべて嘘とは思えない。
だからこそ、皆が聖女をありがたがり、アレクサンドル殿下が強調する「真の花嫁」像を盲信しているように見える。
しかし一方で、矛盾した報告や不可解な被害は確実に増えているのだ。
私がこうして調査を続けていることを、アレクサンドル殿下やその取り巻きが知らないはずはない。
それでもなお動きやすいのは、彼らが私を低く見積もっているからだろう。
“婚約者の座から転げ落ちた落ちぶれ令嬢”くらいにしか思っていないのだと思う。
その油断こそが、私にとっては好都合でもある。
しばらくは目立たないように動いて証拠を集め続け、時機を見て一気に突きつけてやるつもりだ。
ある日、王宮を訪れた私は、とある貴婦人から声をかけられた。
「ユリア……いえ、伯爵令嬢。少し聞いていただきたいことがあるの」
そう言いながら、彼女は私の手をぎゅっと握る。
驚いた私を尻目に、貴婦人は「実は聖女様の祈りを受けたせいか、私の知人たちが次々と体調を崩しているの」と切なげな表情を浮かべた。
「皆、それでも“聖女様の力は尊い”と言い張るのですが……正直、私には信じられませんわ」
貴婦人の言葉には戸惑いと恐怖が混じっている。
周りに人がいるためか、彼女は声をひそめ、落ち着かない様子だ。
「もしよろしければ、私の屋敷に来ていただけませんか? 直接見てもらいたいことがあるのです」
そう懇願され、私は迷うことなく頷いた。
こうして、私は聖女の“奇跡”を受けたという人たちの本当の実態を知るために動き始める。
これを機に、王宮だけでなく一般の貴族社会や庶民の間にもどんな影響が広がっているのか探ってみるつもりだ。
アレクサンドル殿下と聖女が見せる派手な言葉や演出だけが真実とは限らない。
むしろ、そこには大きな闇が潜んでいると私は感じていた。
本来なら、「あの伯爵令嬢はもう来る必要がない」と周囲に言われそうなものだが、不正の証拠を掴むためには頻繁に足を運ぶ必要があるのだ。
私が記録を整理したり、控えめに動いている間、アレクサンドル殿下や聖女は安心しきっているらしい。
彼らは私を追い払ったつもりでいて、もはや眼中にないとでも思っているのだろう。
しかし、聖女と呼ばれる女性が引き起こす奇妙な“奇跡”の数々が、王宮内で悪評を呼び始めているという話を聞く。
役人や貴族の一部が熱狂的に支持している一方で、「あの奇跡のせいで体調を崩した」という声がちらほら上がっているのだ。
たとえば、子どもを授かりたいと願ったあるご夫人が、聖女の祈りを受けたはいいが、その直後から急激に体調が悪化したという。
それでも、周囲は「ただの偶然だ」「聖女の力を疑うなんて不敬だ」と言いくるめ、誰も深く追及していないようだ。
私はまだ直接聖女を見かけたことがない。
アレクサンドル殿下とともに現れた彼女は、確かに人目を引く容姿をしているという噂だが、どうにもその力が本物だとは思えない。
むしろ、私が集めた財務不正の手がかりから考えると、彼女の“奇跡”は何らかの欺瞞によって作り出されている可能性が高いのではないか。
だとすると、その裏にはもっと大きなからくりがあるはずだ。
ただ、問題は王宮だけでなく、庶民たちの間にまで聖女の話が広がっていることだ。
「病気を治してもらった」「不運な事故から救われた」などと口にする人もいて、それらがすべて嘘とは思えない。
だからこそ、皆が聖女をありがたがり、アレクサンドル殿下が強調する「真の花嫁」像を盲信しているように見える。
しかし一方で、矛盾した報告や不可解な被害は確実に増えているのだ。
私がこうして調査を続けていることを、アレクサンドル殿下やその取り巻きが知らないはずはない。
それでもなお動きやすいのは、彼らが私を低く見積もっているからだろう。
“婚約者の座から転げ落ちた落ちぶれ令嬢”くらいにしか思っていないのだと思う。
その油断こそが、私にとっては好都合でもある。
しばらくは目立たないように動いて証拠を集め続け、時機を見て一気に突きつけてやるつもりだ。
ある日、王宮を訪れた私は、とある貴婦人から声をかけられた。
「ユリア……いえ、伯爵令嬢。少し聞いていただきたいことがあるの」
そう言いながら、彼女は私の手をぎゅっと握る。
驚いた私を尻目に、貴婦人は「実は聖女様の祈りを受けたせいか、私の知人たちが次々と体調を崩しているの」と切なげな表情を浮かべた。
「皆、それでも“聖女様の力は尊い”と言い張るのですが……正直、私には信じられませんわ」
貴婦人の言葉には戸惑いと恐怖が混じっている。
周りに人がいるためか、彼女は声をひそめ、落ち着かない様子だ。
「もしよろしければ、私の屋敷に来ていただけませんか? 直接見てもらいたいことがあるのです」
そう懇願され、私は迷うことなく頷いた。
こうして、私は聖女の“奇跡”を受けたという人たちの本当の実態を知るために動き始める。
これを機に、王宮だけでなく一般の貴族社会や庶民の間にもどんな影響が広がっているのか探ってみるつもりだ。
アレクサンドル殿下と聖女が見せる派手な言葉や演出だけが真実とは限らない。
むしろ、そこには大きな闇が潜んでいると私は感じていた。
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