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私が暮らすアルステード王国の王都は、今まで見たことのないほどの騒ぎに包まれていた。
道行く人々はみな、第二王子アレクサンドル殿下の留学帰りと、彼が連れ帰った「聖女」の話でもちきりだ。
伯爵家の令嬢である私には、その噂話がすぐに耳へ飛び込んでくる。
けれど、どうしてこんなにも誰もが“奇跡の聖女”に浮かれているのか。
そして、その影で私に向けられる冷ややかな視線があるのは、一体なぜなのか。
ほんの数日前まで、私はアレクサンドル殿下の婚約者の立場として平穏な日々を送っていた。
もちろん殿下は第二王子で、留学先から帰還するまでは滅多に顔を合わせる機会もなかったが、書簡のやり取りは形式上は続けていた。
正直、子どもの頃に決まった婚約だったので、私は深く意識していなかったのだと思う。
それが突然「アレクサンドル殿下が“聖女”という女性を連れて帰ってきた。殿下の真実の花嫁はその聖女だ」という噂が広がり始めたのだから驚くしかない。
しかも、人によっては「伯爵令嬢は偽物だったらしい」とか「聖女の登場で立場を奪われるのだろう」などと面白半分に言うのだ。
私は何も悪いことをしていないはずなのに、まるで私が王子の好意を踏みにじったかのように言われる。
けれど、伯爵家に生まれた以上、周囲の視線や言葉に簡単に取り乱すわけにはいかない。
こういう時こそ平常心を保たなくてはならないと、今朝から何度も自分に言い聞かせていた。
ふわりと広がるパステルカラーのドレスを撫でながら、落ち着いた振る舞いを心がける。
私の髪や瞳の色まで、何かと揶揄してくる人がいるが、無視するしかない。
なぜだろう。
アレクサンドル殿下も、聖女を真の婚約者と周囲に大げさに言いふらしているらしい。
そのために、私への態度を急に冷たくしているのではないか、と嫌な想像をしてしまう。
まだ直接話したわけではないけれど、今の空気感は明らかにおかしい。
おまけに、私が伯爵家を出る時には使用人たちも何か言いたそうだったし、父が険しい顔をしていたのも気がかりだ。
そんな不安な思いを抱えつつ、今日も王宮へ向かう準備をする。
私が到着すると、いつもとは違い出迎えの侍女や門番が妙に冷淡で、挨拶すら生返事だ。
やはり噂は真実なのかもしれない、と胸がざわついて仕方がない。
それでも、私は伯爵令嬢として責務を果たすために王宮へ来ているのだから、動揺は見せないようにする。
大理石の廊下を進んでいると、侍従の一人から声がかかった。
「失礼ですが、アレクサンドル殿下がお呼びです。至急、面会室にお越しください」
その言葉に嫌な予感を覚えながらも、私は静かに頷く。
これまで直接会話する機会が少なかったアレクサンドル殿下。
けれど、私たちは公的には婚約者という間柄であり、挨拶くらいは幾度か交わしてきたはずだ。
なのに、こんな大っぴらに呼び出されるのは初めてだ。
しかも今は“聖女”の話で持ちきりの最中。
正直、何を言われるのか想像するのも怖い。
私はゆっくり息を整え、面会室へ足を進める。
そこでは扉の前に侍女たちが集まり、私を見るやいなやクスクスと笑い合っていた。
誰がどんな噂を流しているのかはわからないけれど、これほどあからさまな嘲笑を浴びるのは初めてだ。
けれど、私はうつむかない。
心臓が早鐘を打っていても、凛とした姿勢を貫く。
伯爵令嬢としての誇りを忘れてはいけないと、自分に言い聞かせる。
やがて扉が開かれ、私の運命を左右するかもしれない対面が始まるのだと思うと、自然と背筋が伸びた。
何かを決定づける瞬間がもうすぐ訪れる。
そんな不安と決意を胸に、私は面会室の中へと踏み込んだ。
道行く人々はみな、第二王子アレクサンドル殿下の留学帰りと、彼が連れ帰った「聖女」の話でもちきりだ。
伯爵家の令嬢である私には、その噂話がすぐに耳へ飛び込んでくる。
けれど、どうしてこんなにも誰もが“奇跡の聖女”に浮かれているのか。
そして、その影で私に向けられる冷ややかな視線があるのは、一体なぜなのか。
ほんの数日前まで、私はアレクサンドル殿下の婚約者の立場として平穏な日々を送っていた。
もちろん殿下は第二王子で、留学先から帰還するまでは滅多に顔を合わせる機会もなかったが、書簡のやり取りは形式上は続けていた。
正直、子どもの頃に決まった婚約だったので、私は深く意識していなかったのだと思う。
それが突然「アレクサンドル殿下が“聖女”という女性を連れて帰ってきた。殿下の真実の花嫁はその聖女だ」という噂が広がり始めたのだから驚くしかない。
しかも、人によっては「伯爵令嬢は偽物だったらしい」とか「聖女の登場で立場を奪われるのだろう」などと面白半分に言うのだ。
私は何も悪いことをしていないはずなのに、まるで私が王子の好意を踏みにじったかのように言われる。
けれど、伯爵家に生まれた以上、周囲の視線や言葉に簡単に取り乱すわけにはいかない。
こういう時こそ平常心を保たなくてはならないと、今朝から何度も自分に言い聞かせていた。
ふわりと広がるパステルカラーのドレスを撫でながら、落ち着いた振る舞いを心がける。
私の髪や瞳の色まで、何かと揶揄してくる人がいるが、無視するしかない。
なぜだろう。
アレクサンドル殿下も、聖女を真の婚約者と周囲に大げさに言いふらしているらしい。
そのために、私への態度を急に冷たくしているのではないか、と嫌な想像をしてしまう。
まだ直接話したわけではないけれど、今の空気感は明らかにおかしい。
おまけに、私が伯爵家を出る時には使用人たちも何か言いたそうだったし、父が険しい顔をしていたのも気がかりだ。
そんな不安な思いを抱えつつ、今日も王宮へ向かう準備をする。
私が到着すると、いつもとは違い出迎えの侍女や門番が妙に冷淡で、挨拶すら生返事だ。
やはり噂は真実なのかもしれない、と胸がざわついて仕方がない。
それでも、私は伯爵令嬢として責務を果たすために王宮へ来ているのだから、動揺は見せないようにする。
大理石の廊下を進んでいると、侍従の一人から声がかかった。
「失礼ですが、アレクサンドル殿下がお呼びです。至急、面会室にお越しください」
その言葉に嫌な予感を覚えながらも、私は静かに頷く。
これまで直接会話する機会が少なかったアレクサンドル殿下。
けれど、私たちは公的には婚約者という間柄であり、挨拶くらいは幾度か交わしてきたはずだ。
なのに、こんな大っぴらに呼び出されるのは初めてだ。
しかも今は“聖女”の話で持ちきりの最中。
正直、何を言われるのか想像するのも怖い。
私はゆっくり息を整え、面会室へ足を進める。
そこでは扉の前に侍女たちが集まり、私を見るやいなやクスクスと笑い合っていた。
誰がどんな噂を流しているのかはわからないけれど、これほどあからさまな嘲笑を浴びるのは初めてだ。
けれど、私はうつむかない。
心臓が早鐘を打っていても、凛とした姿勢を貫く。
伯爵令嬢としての誇りを忘れてはいけないと、自分に言い聞かせる。
やがて扉が開かれ、私の運命を左右するかもしれない対面が始まるのだと思うと、自然と背筋が伸びた。
何かを決定づける瞬間がもうすぐ訪れる。
そんな不安と決意を胸に、私は面会室の中へと踏み込んだ。
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