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第8話:罠を張り巡らす意図

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 翌朝、私は目覚めてすぐに弁護士時代の知り合いの一人に電話をかけた。
 司法の世界に少なからず繋がりを持つ人脈があったからこそ、私は手っ取り早く有利な情報を得ることができる。

「もしもし、久しぶり。ちょっとお願いがあるんだけど」

 電話越しの友人は、私が意図を話すと少し苦笑交じりに答えた。

「なるほどね。不倫の慰謝料請求を徹底的にやりたい、と」

「ええ。しかも私はまだ弁護士バッジを返上したわけじゃないわ。休職中というだけ。だから、当事者でありながら自分で手続きを進めることも視野に入れてる」

「ちょっと複雑だけど、逆に強みにはなるわね。手伝えることがあれば言って」

 友人の頼もしい声を聞き、私はほっと胸をなでおろした。

 電話を切った後、私はリビングに向かい、気配を殺すようにして蓮の様子をうかがう。
 まだ寝ているのかと思いきや、彼はソファに座ったまま固い表情を浮かべていた。
 おそらく一睡もできなかったのだろう。
 その姿を見て、心のどこかで小さく愉悦が湧き上がる。

「おはよう、蓮。今日も会社に行くの?」

「……ああ。さすがにサボるわけにはいかないからな」

「そう。じゃあ、私も出かける用事があるから。必要なことがあれば連絡してね」

 言葉少なに返事をする蓮を尻目に、私は身支度を整えた。
 私が弁護士バッジを利用して“夫を追い詰める”など、本来の職業倫理から考えれば許される行為ではないかもしれない。
 しかし、私自身が被害者として行動する以上、それは当然の権利でもある。
 かつて守ってきた法律に、今度は相手を沈めるために助力を乞う。
 皮肉な巡り合わせだが、だからこそ歯車が噛み合ったように感じていた。

 玄関を出ると、朝の空気が冷たく肌を刺す。
 こんなにも透き通った青空の下、私の心は暗い復讐の炎を抱えている。
 だが、これが私の選んだ道。
 蓮と咲良の甘い隙など、一切見逃すつもりはない。

 ふと、今日が彼女の出社日であることを思い出す。
 会社の近くで彼らの動向を再度確かめるのもいいだろう。
 私は胸の奥に渦巻く計画を整理しながら、足早に家を後にした。
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