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第12話:交渉と血の匂い

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 翌朝、俺は準備した図面を手にロニンの宿へ向かった。
 彼はすでに起きており、小さなテーブルでパンをかじりながら俺を待っている。
 笑みを浮かべるロニンの姿は油断ならないが、ここで怯んではいけない。

「ロニン、これが約束の一部だ。水車と魔光灯の基本構造、それから冷却装置の概略だ。まだ未完成だが、商会が改良すれば使えるだろう。」

「ほうほう、なるほどね。思ったより詳細な記述があるじゃないか。こりゃあ上物だ。これなら魔力石の手配も前向きに検討できる。」

 ロニンは図面に目を走らせ、嬉しそうに頷く。

「ただ、高品質な魔力石は手配に時間がかかる。すぐには用意できないかもしれない。それと、これは商会への紹介が必要だが、紹介料として多少の金貨も欲しいところだ。」

「金貨なら多少は用意できるが、大金は無理だ。代わりに、微調整用の小型風車や簡易歯車構造などの設計も出せる。どうだ?」

「なるほど、追加情報でカバーか。悪くない取引だ。わかった、できるだけ早く魔力石を確保しよう。お前さん、相当焦ってるようだが……何をそんなに急いでる?」

「村を守りたいだけだ。それ以上は言えない。」

「ふん、まあいいさ。俺としては商品さえ手に入れば満足だ。さて、ここで待つのも退屈だから、何日か都市へ戻ってくるぞ。その間は大人しく待っててくれ。」

 ロニンは満足げな笑みを浮かべ、荷物をまとめ始める。
 これで一歩前進だ。
 俺は安堵する一方で、彼の帰りを待つ間、何が起きるか分からない不安もある。



 昼過ぎ、畑で作業を終えると、セレナがすぐ傍に寄ってきた。
 彼女は今日も清楚な装いだが、その胸元はほんの少し大胆に開いている。
 日差しを浴びた肌が透き通るように輝き、俺は思わず視線を泳がせる。

「グレン、どうだった?取引、進展した?私、あなたが安心できるようになったらすぐにでも私の部屋に来てほしい。今夜、来てくれる?美味しいハーブティーと、それから私の秘密の香油を用意してるの。あなたの疲れを癒したいの。」

 セレナは耳元で囁き、そっと俺の手を自分の鎖骨あたりまで導く。その瞬間、柔肌の感触が手のひらに伝わり、呼吸が乱れる。

「え、えっと……まだ完全には落ち着いてないけど、君の気持ちが嬉しいよ。できるだけ早く行くよ。」

「嬉しい……私、あなたが来たら、もっともっと優しくしてあげる。あなたが私を求めてくれるまで、何度でも甘い夜を過ごしたいの。」

 セレナは瞼を伏せ、軽く唇を合わせてくる。
 その柔らかな触れ合いに、全身が熱くなる。
 もっと深く味わいたい衝動に駆られるが、今は我慢。
 セレナは満足げに微笑み、俺の手を優しく握ったまま離れようとしない。



 夕暮れ、ミーナが林道で待っていた。
 彼女は透けるような薄い布で仕立てた服を身にまとい、妖艶な腰つきで近づいてくる。
 その瞳は挑発的に光り、俺の肩に手を回して甘えた声で話す。

「グレン、あなた、まだ私を焦らす気?私、そろそろ限界よ。あなたと一緒になれたら、どれだけ熱くなれるか想像するたび、夜も眠れないの。今度こそ必ず来てよ。私、あなたを夢中にさせる自信があるんだから。」

 ミーナはそのまま俺の胸に顔を埋め、甘い香りで包み込む。
 柔らかい彼女の体が密着して、血液が沸騰しそうだ。

「ごめん、本当に。もう少し、もう少しだから……」

「わかってるけど、これ以上待たせないで。私、あなたのものになりたくてたまらないの。」

 彼女は甘く耳元で囁き、そのまま舌先で軽く耳を舐めるような仕草をする。
 体が震え、理性が溶けそうだが、踏みとどまる。
 ミーナは満足そうに笑い、去り際に妖艶な視線を投げかけた。



 夜、鍛冶場裏でノーラが待ち伏せしていた。
 彼女は短い上着をはだけた状態で、鍛えられた腹筋の上に薄い汗が光る。
 その美しく引き締まった身体が、女らしさと強さを併せ持ち、俺を射すくめる。

「グレン、ねえ、いつになったら私を受け止めてくれるの?あなたと一緒に過ごす時間を想像するだけで、胸が苦しくなるの。私、あなたを求めているわ。あなたが私に触れたら、どんなに熱くなれるか試してみたいでしょう?」

 ノーラは俺の指先を舐めるような動作をし、そのまま腰を寄せてくる。
 硬い筋肉と柔らかい部分が混ざり合った彼女の体は独特の官能を放ち、鼓動が止まらない。

「ノ、ノーラ……絶対に行くから、もう少しだけ待って。」

「もう少し、もう少しって……私、あなたが来たら、絶対にあなたを離さない。ずっと抱きしめて、あなたが満たされるまで、何度でも求め続けるから。覚悟しておいて。」

 ノーラは妖しく笑い、鋭い欲望を隠そうとしない。その大胆さに、俺は何も言えず頷くしかなかった。



 深夜、納屋で休もうとすると、外で小さな物音がした。
 警戒して扉を開けると、薄暗い林の中に人影が見える。
 黒いフードを被った男が、こちらを見つめている。
 目が合うと奴は鋭く笑い、短剣をちらつかせる。

 俺は咄嗟に木の棒を手に構える。
 奴はゆっくり近づいてくる。
 緊張で喉が渇く。
 交渉がまだ実を結んでいない今、俺には満足な防御術式もない。
 相手はここまで踏み込んできたということは、もはや何らかの目的で俺を狙っているのは確定だ。

「お前があの奇妙な発明を広めている男か。面倒なことをしてくれたな。帝国も放っておかないぞ。さあ、大人しくしろ。」

 男は冷たく囁き、一気に間合いを詰める。
 俺は棒を振るって必死に防ぐが、相手は素早い。
 短剣が頬をかすめ、血の生臭い匂いが漂う。

「くっ……!」

 痛みで目が潤むが、引くわけにはいかない。
 ここで倒れれば、セレナたちが危険に晒される。
 俺は必死に棒を振り回すが、相手は一歩上だ。

「無駄だ。お前の知識、ありがたく頂く。どの道、使い方は帝国で考えるさ。」

 焦る中、足元の土瓶を蹴って相手の足元を乱すと、男が一瞬体勢を崩した。
 その隙に全力で棒を突き出し、男の肩を打ち据える。

「ぐっ……!」

 男は舌打ちして後退する。
 そして、森の闇に紛れるように素早く逃げ去った。

 俺は荒い息を整え、流れる血を拭う。
 やはり、時間がない。
 黒フードの男は本格的に俺を狙い始めた。
 ロニンが魔力石を手に入れるまで村を無防備にしておくのは危険すぎる。
 俺は今できる限りの策を練り、簡易的な防御罠を村の周囲に設置するしかない。

 セレナたちを、ミーナ、ノーラを守るため、愛し合える平穏な夜を取り戻すため、俺は必死で考えを巡らせる。

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