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翌日、王宮の廊下を歩いていると、ちらほら私を気にする視線に気づく。
どうやら、アルトが私へ執拗な嫌がらせを行っているという噂がさらに広まっているようだ。
しかし、私自身は特に大きな被害を被っているわけでもないので、逆に人々の同情を集めてしまっている。
「あの公爵令嬢、気の毒に……。
元は王太子妃候補だったのに、こんな扱いを受けるなんて」
そんなささやき声が聞こえてくるたび、少し複雑な気持ちになる。
私は被害者意識よりも、むしろ解放感を覚えているからだ。
自らの意志でアルトとの婚約を破棄できた喜びは、簡単に揺らぐものではない。
一方、アルトの侍女であるクリスティーナが、陰で私の評判を落とそうとしているという話もあちこちで耳にする。
あの女は以前から打算的なところがあったが、ここに来て必死さが増しているようだ。
もちろん、彼女にとっても自分の立場が危うくなるのが怖いのだろう。
「シルヴィア様、さっきもクリスティーナが、
『あの女はクラウス殿下に媚びを売っているだけ』
なんて言いふらしていましたよ」
ある役人の女性がそう教えてくれた。
私は軽く肩をすくめてみせる。
いまや私が何を言われようと、私の実力を知る人は擁護に回ってくれる。
加えて、クラウス殿下への信頼も私の評価を後押ししている形だ。
殿下が私を優秀な補佐役として頼りにしている様子は、周囲の誰の目にも明らかだろう。
アルトの方は相変わらず自分中心の振る舞いを繰り返しているだけに、人望の差は開くばかりだ。
「まあ、あの男にもう一度取り入ろうなんて考える人も、そんなに多くないでしょうけど」
私が淡々と返すと、役人の女性は微笑んで「おっしゃる通りです」と頷いた。
私が受ける嫌がらせといっても、大半が根拠のない誹謗中傷にすぎない。
確かに耳障りな言葉もあるが、それで私の仕事ぶりが揺らぐわけではないのだから放っておけばいい。
それよりも、早急に解決すべき問題は山ほどある。
クラウス殿下との政務では、国の改革に向けた議論が進んでおり、私はその補佐として多忙を極めている。
殿下は政治面で優れた判断力を持ち、私も実務経験を活かして補完する形で手伝っているのだ。
王宮の誰もが、私たちの働きを求めるようになり、結果として私の存在意義は高まるばかり。
アルトやクリスティーナの悪評攻撃は、むしろ彼ら自身を追い詰めているようにも見える。
今さらアルトが何を騒ごうとも、王太子の名が形骸化しているのは明らかだ。
「それにしても、アルト様は本当にどうしたいのでしょうね。
自分の評判を下げるだけ下げて、一体どこへ行き着くつもりなのでしょう」
半ば呆れたように呟きながら、私は思う。
彼とクリスティーナは、きっと最後まで自分の誤りに気づかないままなのかもしれない。
かつては私もそんなアルトに期待していたことがあったが、今となっては遠い昔の話だ。
こうして嫌な噂が広がる一方、私に大きな実害が及ぶ気配はない。
むしろ、クラウス殿下の仕事をしっかりとこなし、正当な評価を得ることが私の最優先。
私がどれほど王宮で役立つ存在であるかを、周囲が理解し始めている。
だからこそ、無駄な衝突を招く必要もなく、ただ結果で示せばいいのだ。
夜、廊下を歩いていると、アルトとクリスティーナが遠巻きに私を睨む姿が目に入った。
嘲るような視線ではあったが、その表情にはどこか焦りが滲んでいるようにも見える。
私は彼らを視界に入れたまま、しかし特に言葉を発することなく、そのまま通り過ぎた。
もはや振り向く価値さえ感じない。
あの人たちが望むようなドラマなど、ここには存在しないから。
どうやら、アルトが私へ執拗な嫌がらせを行っているという噂がさらに広まっているようだ。
しかし、私自身は特に大きな被害を被っているわけでもないので、逆に人々の同情を集めてしまっている。
「あの公爵令嬢、気の毒に……。
元は王太子妃候補だったのに、こんな扱いを受けるなんて」
そんなささやき声が聞こえてくるたび、少し複雑な気持ちになる。
私は被害者意識よりも、むしろ解放感を覚えているからだ。
自らの意志でアルトとの婚約を破棄できた喜びは、簡単に揺らぐものではない。
一方、アルトの侍女であるクリスティーナが、陰で私の評判を落とそうとしているという話もあちこちで耳にする。
あの女は以前から打算的なところがあったが、ここに来て必死さが増しているようだ。
もちろん、彼女にとっても自分の立場が危うくなるのが怖いのだろう。
「シルヴィア様、さっきもクリスティーナが、
『あの女はクラウス殿下に媚びを売っているだけ』
なんて言いふらしていましたよ」
ある役人の女性がそう教えてくれた。
私は軽く肩をすくめてみせる。
いまや私が何を言われようと、私の実力を知る人は擁護に回ってくれる。
加えて、クラウス殿下への信頼も私の評価を後押ししている形だ。
殿下が私を優秀な補佐役として頼りにしている様子は、周囲の誰の目にも明らかだろう。
アルトの方は相変わらず自分中心の振る舞いを繰り返しているだけに、人望の差は開くばかりだ。
「まあ、あの男にもう一度取り入ろうなんて考える人も、そんなに多くないでしょうけど」
私が淡々と返すと、役人の女性は微笑んで「おっしゃる通りです」と頷いた。
私が受ける嫌がらせといっても、大半が根拠のない誹謗中傷にすぎない。
確かに耳障りな言葉もあるが、それで私の仕事ぶりが揺らぐわけではないのだから放っておけばいい。
それよりも、早急に解決すべき問題は山ほどある。
クラウス殿下との政務では、国の改革に向けた議論が進んでおり、私はその補佐として多忙を極めている。
殿下は政治面で優れた判断力を持ち、私も実務経験を活かして補完する形で手伝っているのだ。
王宮の誰もが、私たちの働きを求めるようになり、結果として私の存在意義は高まるばかり。
アルトやクリスティーナの悪評攻撃は、むしろ彼ら自身を追い詰めているようにも見える。
今さらアルトが何を騒ごうとも、王太子の名が形骸化しているのは明らかだ。
「それにしても、アルト様は本当にどうしたいのでしょうね。
自分の評判を下げるだけ下げて、一体どこへ行き着くつもりなのでしょう」
半ば呆れたように呟きながら、私は思う。
彼とクリスティーナは、きっと最後まで自分の誤りに気づかないままなのかもしれない。
かつては私もそんなアルトに期待していたことがあったが、今となっては遠い昔の話だ。
こうして嫌な噂が広がる一方、私に大きな実害が及ぶ気配はない。
むしろ、クラウス殿下の仕事をしっかりとこなし、正当な評価を得ることが私の最優先。
私がどれほど王宮で役立つ存在であるかを、周囲が理解し始めている。
だからこそ、無駄な衝突を招く必要もなく、ただ結果で示せばいいのだ。
夜、廊下を歩いていると、アルトとクリスティーナが遠巻きに私を睨む姿が目に入った。
嘲るような視線ではあったが、その表情にはどこか焦りが滲んでいるようにも見える。
私は彼らを視界に入れたまま、しかし特に言葉を発することなく、そのまま通り過ぎた。
もはや振り向く価値さえ感じない。
あの人たちが望むようなドラマなど、ここには存在しないから。
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