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第186話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の六十

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 春とはいえ、まだ朝の風が冷たく肌に触れる季節。

 梨々香と親友の沙織は、駅から学校へ向かう通学路を歩いていた。

 今日は朝練の日だ。

 朝の静かな街並みを歩く中、二人の会話が弾む。

「ねえ梨々、本当に一度くらい考えてみなよ。」

 隣を歩く沙織が突然切り出した。

「え、何を?」

 梨々香は少し驚いたように問い返す。

「芸能界のオーディションよ。梨々みたいに可愛くてスタイルも良くて、ダンスも上手な子なんて絶対成功するって!」

 沙織はそう言いながら、友達を羨むような視線を送る。

「またその話? 沙織ってば、ほんとに大げさなんだから」
  
 梨々香は少し照れたように笑うが、その反応を見ても沙織は納得しない。

「だって本当のことだもん。ほら、この前も栄でナンパされてたじゃない。わが校の男子だって、何人振られたことか」

「それはたまたまだってば!」

 梨々香は顔を赤らめながら否定する。

 しかし、沙織は容赦なく続けた。

「いいなぁ、本当に梨々ってモテるよね。私なんか、一度でいいからそういう経験してみたいよ。」

「私はそんな興味ないし。それより、今はダンスの練習が大事だから!」
  
 梨々香は真剣な表情でそう答えたが、少し照れくさい気持ちもあった。

 そんな二人のやり取りが続く中、後ろから聞き慣れた声が響いた。

「よう、梨々! おはよう! ダンス部も朝練か?」

 不意に肩を軽く叩かれた梨々香は、驚きながら振り返った。そこにいたのは瑞穂だった。

「おはよう、瑞穂君」
 
 沙織が軽く挨拶する。

「おはよう、加納さん」
  
 瑞穂は爽やかな笑顔を向けながら答えた。

 彼の仕草は、いつも堂々としていて、かつ自然体だった。

 瑞穂はバレー部のエースで、学校中の女子から憧れられる存在だ。

 高身長で整った顔立ち、そして爽やかな性格から、沙織も内心では彼に憧れていた。

 梨々香とは同じ小学校・中学校を卒業し、家も近所で昔からの友達だった。

 そのため、瑞穂は何かと理由をつけて梨々香に話しかけていた。

「ちょっと瑞穂! 馴れ馴れしいよ。気安く触るなって言ったでしょう!」
 
 梨々香は冗談ぽく言いながら、肩を手で払う。

 その仕草に瑞穂は少し照れくさそうに笑った。

「いやいや、俺の手そんなに汚くないし! 別にいいじゃん?」

「ダメなものはダメ!」

 梨々香がプイッと顔を背けると、沙織は二人のやり取りを見ながら小さくため息をついた。

(なんだかんだで仲がいいよね、あの二人。ぱっと見、兄妹みたいにも見えるし……。)

 実際、沙織は二人の関係を微妙に羨ましく思っていた。

 瑞穂とは挨拶程度の関係しかなく、もっと仲良くなりたいと思っていたのだ。

 瑞穂は瑞穂で、梨々香のことを密かに想っていた。

 とはいえ、彼女が自分をどう思っているのかは分からない。

(梨々、今日も可愛いな……。)

 そんなことを考えながら、瑞穂は自然体を装って彼女に話しかけ続けた。

「ところで梨々、朝練頑張りすぎて倒れないようにな。しっかり食べてるか?」

「うん、大丈夫。ちゃんと食べてるよ……。あ、でもお腹空いたかも」

 梨々香は少し考えた後、素直に答えた。

 その一言に瑞穂は笑顔を浮かべる。

「だったら、俺の菓子パン分けてやろうか?」

「いいよ、そんなの太るし」

 梨々香は苦笑いしながら首を横に振るが、瑞穂はどこか楽しそうだった。

 一方、沙織は二人の会話に入り込めず、少し距離を取ったまま歩いていた。

(私も瑞穂くんともっと話してみたいな……。でも、どうやって……?)

 沙織の胸には、淡い憧れと少しの悔しさが混ざり合っていた。

 三人は学校に向かって歩き続ける。

 それぞれの胸の内には、異なる思いが渦巻いていた。

 梨々香は瑞穂を友達として大切に思っていた。

 同じ小中学校を共に過ごし、何でも話せる仲間だと信じている。

 瑞穂はそんな梨々香を特別な存在として見ていたが、気持ちを隠したまま自然体を装い続けている。

 そして沙織は、瑞穂への憧れを胸に秘めつつも、親友である梨々香との関係を大事にしたいと思っていた。

「じゃ、俺はここで。また教室でな!」

 瑞穂が手を振りながら去っていくと、梨々香と沙織は顔を見合わせた。

「瑞穂くん、相変わらず爽やかだよね」

 沙織がぼそりと呟くと、梨々香は苦笑いしながら答えた。

「そうかなぁ。昔からあんな調子……。それより、急がないと遅れちゃう!」

「そうだね。早く行こっか」

 冷たい春風が吹く通学路。

 何気ない朝の一幕。

 それぞれの想いが交錯する。

 瑞穂、梨々香、沙織の三人が織りなす通学路でのやり取り。青春のさりげない一幕を切り取ったようだ。瑞穂は梨々香に親しげに話しかけつつも、どこか特別な感情を隠しきれない。そんな彼の態度に梨々香は無邪気に応じ、親友としての関係を楽しんでいる。一方で、沙織は二人の仲の良さを見守りつつ、瑞穂への憧れと自分の立場への複雑な思いを抱えていた。友情と淡い恋心が交差する中、三人の心模様が春の冷たい風に乗って進んでいくのであった――。
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