目覚めたら猫耳⁉ ～神隠しで別宇宙のアイドル級猫耳メイド魔法使い⁉に大変身！～

第147話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の二十二

　巨大な天空の闇魔法陣、闇の騎士ザイラスは息を荒げて、崩壊していく魔法陣を見上げていた。

　白い光と黒い瘴気が混ざり合いながら砕け散り、魔力が霧のように薄れていく中、彼は苛立ちを隠せない。

「我ら闇の騎士団総出で展開した魔法陣だぞ！　なぜ小娘一人の力で崩壊する……！」

「しかも龍神の間にまで侵入してきただと……あのリリカ一行が……！」

　ザイラスは忌々しげに言葉を吐き捨てる。

　この魔法陣は、ルクス・マギナ遺跡とその地下に広がる龍神の間を強力な結界で封印していた。

　しかし、ステラによる光魔法で破壊され、彼の計画が崩れ始めていた。

　いや、完全に破綻してしまった。

「もしトラップの魔法陣が正常に機能していたなら…」

　ザイラスは悔しさで拳を握りしめる。

「ステラもまた、侮れぬ存在だ。あの方に報告せねば……」

　虚空に向けて短い呪文を唱え、伝令の魔法を発動させた。

　その途端、彼の姿は霧と共に消えた。

　その頃、リリカ一行は祭壇の奥に続く長い回廊へと足を踏み入れていた。

　回廊はまるで生き物のように入り組んでおり、石造りの壁には複雑な模様や古代文字が彫り込まれている。

　時折、壁の隙間から淡い光が漏れ、地下にもかかわらず薄暗い中に不思議な光が差し込んでいた。

　リリカは何かを感じるように鼻をすんすんと動かし、軽く微笑んだ。

　「みんな、なんだか春の香りがしない？」

　仲間たちは顔を見合わせながら首をかしげた。

　だが、リリカの嗅覚に導かれるように回廊を進んでいくと、次第にどこからともなく優しい花の香りが漂ってくる。

「ほんとだ、まるで草花のいい香り……」

　セルフィもその香りを感じ取り、少し驚いたように頷いた。

　リリカが先導し、彼らは古代の回廊を慎重に進んでいった。

　やがて、石造りの回廊を抜けた先に広がるのは、壮大な地下の高台だった。

　目の前には深く切り立った渓谷が広がり、谷底へと続く大滝が音を轟かせながら水しぶきを巻き上げている。

　水しぶきは風に乗り、虹を描きながら一行を包み込んだ。

「こんな場所が地下にあるなんて……信じられない」

　レオンは驚きと共に言葉を漏らし、周囲を見渡す。

　セルフィも感嘆の声を上げ

　「まるで別の世界に来たみたい……」

　空を見上げると、一面にスカイポプラと呼ばれる巨大な霊木の根が絡まり合い、不思議な青白い輝きを放っているのが見えた。

　その光は太陽の光のように柔らかく、地下全体を温かく照らし出していた。

　セルフィが説明を始めた。

「あれは『スカイポプラ』という霊木です。この木は大地の魔力を吸い上げ、根から光を放つことで、常にこの場所を明るく照らしているんです、ただこれほどの広さには驚きです」

　リリカはその説明に納得し、さらにその光景に見惚れた。

「すごいわ……まるで天空に届く光の橋みたい」

「こちらに下に降りる階段があります！」

　レオンが指を差して叫んだ。

　一行は滝に向かって続く階段を見つけ、慎重にその石段を降り始めた。

　水しぶきがかかり、時折滑りそうになる足元を確かめながら、皆で一歩ずつ進む。

　滝の裏側に通じる洞窟を抜けると、そこにはきらめく鉱石が敷き詰められた美しい空間が広がっていた。

　光の反射が天井や壁を踊り、まるで星空のように輝いている。

　洞窟を抜け、さらに奥へと進むと、突如として目の前に雄大な大地が広がる光景が現れた。

　リリカたちはその光景に圧倒され、思わず足を止めて見入ってしまう。

　そこには、色とりどりの花が一面に咲き誇り、蝶が優雅に舞っていた。

　小川が曲がりくねって流れ、透明な水がきらめきながら草原を潤している。

　鳥たちが空を舞い、さえずり声が耳に心地よく響き渡っている。

　リリカはその美しさに目を輝かせ、

「こんなところが地下にあるなんて、信じられない！」

　ステラもその景色に心を奪われ、しばらくの間、言葉を失っていた。

　「まるでエルフェリア王国を地底に映したような光景ね……」

　すると聞きなれない声が皆の脳内に響く

「この場所は、かつて私と猫神が守り、栄えた古代地下都市。スカイポプラの光によって大地は豊かで、花々が絶えず咲き乱れる場所」

「今の声は龍神？」

　ステラが驚いてリリカに問いかける。

「そうみたい。時々ひょっこり出てくるの」

　皆、啞然となり黙り込んでしまった。

　リリカはその話を聞き、改めてこの土地の持つ歴史と神聖さを感じ取った。

「ここが、龍神と猫神の守ってきた場所……そして二人は今は私の中にいるんだ」
　
　遥か遠くに、森の奥に隠れるようにして建物の屋根や塔のような構造が見える。

　ステラはそれを見て

「この地下都市にはまだ誰かが住んでいるのかしら、それとも……」

　ステラがふと持論を展開した。

「この場所がエルフェリア王国に似ているのも、きっと古代の人々が残してきた伝統と文化を現代の王国が引き継いだからなのかもしれないわね」

　しばらくその景色を眺めていた一行だが、リリカが意を決したように口を開く。

「あの街に行ってみようよ。何か手がかりが見つかるかもしれない」

　皆、頷き合い、花々の咲き乱れる草原を歩き始めた。

　リリカが草花に手を伸ばし、香りを楽しむ姿を見て、ステラとセルフィは微笑みながらその後を追う。レオンも辺りの景色を楽しむように歩きながら、慎重に周囲を見渡していた。

　花の咲き乱れる草原を抜け、道が街へと続くのを見て、リリカたちは再び胸の高鳴りを感じ始めた。

　鳥のさえずりや風の音が、心に安らぎを与えてくれる一方で、この先に何が待ち受けているのかという不安と期待が入り混じっていた。

　彼らを迎え入れるように、草原の先には静かに佇む古代の街並みが広がっていた。かって龍神と猫神がその命をかけて守っていた地下都市。その歴史が息づくこの場所で、リリカは躍動する龍神の気配を感じる。そして猫耳魔法大隊一行は新たなる冒険の幕開けを迎えるのだった――。