上 下
81 / 198

第81話  未知なる力の覚醒⁉メルヴィルの災難!

しおりを挟む
 ステラは立ち尽くしたまま、目の前の光景を信じられない思いで見つめていた。先ほどまで訓練場にいたはずのチャチャは、巨大で黒々とした鋼をまとったような姿に変わっていた。赤い瞳が鋭く輝き、額の水晶は真っ赤な角のように変化し長い尻尾は鋼の鞭にしなっていた。まるで別の存在に生まれ変わったようなその姿と存在感は、訓練場にいる全員を圧倒した。

「これが…チャチャなの?」

 ステラの言葉は震えていた。同時にその力の膨大さが恐ろしかった。

「リリカ、大丈夫?」

 ステラがリリカに声をかけたが、リリカはその場に立ち尽くしたままだった。赤い瞳がまるで炎を宿したように燃え盛っている。彼女は何かに取り憑かれたように、チャチャを見つめていた。

「リリカ!」

 ステラがもう一度叫ぶと、リリカはゆっくりと振り返った。

「ステラ…私は大丈夫…」

 リリカは自分の手を見つめた。彼女は魔力を注ぎ込んだ瞬間に、チャチャがこの姿へと変わったことを理解していた。だが、今のチャチャは制御不能なほど強力だった。

「メルヴィルさん、これは…?」

 ステラはメルヴィルに問いかけたが、彼女もまた驚愕の表情を浮かべていた。メルヴィルはしばらく無言でチャチャの姿を見つめ、ようやく冷静さを取り戻したかのように口を開いた。

「これは…私たちが予想していた以上の力。チャチャは元々火の属性。リリカとは相性がいいわ。リリカの魔力とチャチャの本来の力が融合し、限界を超えた形で覚醒したのでしょう。この力がうまく制御できれば、ルクス・マグナ遺跡の攻略に大きな助けとなるでしょう…」

 メルヴィルは再度チャチャを観察するかのように見上げて感嘆の声を漏らす。

「すごいわ……本当に……まるでリリカ自身の力が、チャチャを通じて具現化したみたい。予想以上の成果よ。」

 確かに、今のチャチャの巨大で堂々とした姿は、まるでリリカの分身のようだった。

 彼女は嬉しそうに微笑むが、次の瞬間、少し心配そうな表情を浮かべた。

「でも……」

「でも?」

 ステラが不安げに聞き返す。

「もしチャチャが暴走したら、私たち全員が危険に晒される。うまくコントロールできるかしら?」

 メルヴィルの問いに、リリカは自信に満ちた笑顔を浮かべた。

「それは大丈夫、メルヴィルさん。チャチャとは、なんだか心でつながっているような気がするんです。この子にとって私はお母さんみたいな存在だから、きっと私の言うことをちゃんと聞いてくれます。」

 リリカはそう言うと、あの日子猫だったチャチャの姿が思い浮かべながら、チャチャの額に手を当て、優しく語りかけた。

「チャチャ、そろそろ元の姿に戻ろうか?」

 その言葉に、まるでリリカの言葉を理解しているかのように、チャチャはじっと彼女を見つめた。そして、首を横に振ると、そのままふり座り込んでしまった。

「えっ、戻りたくないの?」

 リリカが驚いて尋ねる。

 チャチャはただ尻尾をゆらりと動かし、目を細めてリリカを見上げた。その様子から、彼女はすぐにチャチャの気持ちを察した。

「遊びたいのね?背中に乗れだって」

 リリカが笑顔でそう言うと、ステラとセルフィも顔を見合わせて微笑んだ。

「リリカ、チャチャはまるで子供みたいね。あなたが“お母さん”なら、遊びたがるのも当然かもね」

 とステラが微笑む。

 その瞬間、今まで黙っていたセルフィが久しぶりに口を開いた。

「あの私、ぜひチャチャの背中に乗ってみたいです!メルヴィルさんもステラさんも、一緒に乗りましょう!」

 セルフィの言葉に、メルヴィルは驚いた表情を浮かべたが、リリカやステラが楽しそうにしているのを見て、しぶしぶ同意した。

「まあ……仕方ないわね。一度くらいなら……」

「じゃあ、みんな!しっかりつかまってね!」リリカが元気よく声をかけ、全員が準備を整えた。

 まず、リリカがチャチャの背中に飛び乗ると

「じゃあ、メルヴィルさんは私の後ろ!」

 メルヴィルが私?という顔をしてリリカの後ろに座る。
 
 そしてステラ、セルフィも続いた。

「よし、全員乗ったわね。みんなしっかりと捕まってる?」リリカが確認する。

 リリカは後ろの三人を確認すると

「よし!でも、ちょっと心配だから、今日は尻尾を使ってしっかり固定するね。」

 リリカは自分の黒い尻尾をメルヴィルの腰に巻きつけ、ステラも真似してセルフィの腰に尻尾を巻きつけてしっかりと固定した。

「今日ほど尻尾が役に立つと思った日はないわ!」

 ステラが冗談を言い、全員が大笑いした。

「さて、チャチャ!この前私を乗せた時みたいに、自由に動いてみて!」

 リリカがチャチャに指示を出すと、チャチャは元気よく立ち上がり、訓練場を駆け回り始めた。

 チャチャの背中に乗った四人は、そのスピードと迫力に驚かされながらも、風を切る音とともに広い訓練場を駆け巡る爽快感を楽しんでいた。

「すごい!本当に速いわ!」セルフィが大興奮で叫ぶ。

「これは……思った以上ね……!」

 ステラも目を輝かせながら、必死にチャチャの背中にしがみついていた。

 しかし、メルヴィルだけは様子が違った。チャチャが飛び跳ねる度に、彼女は顔を真っ青にして、まるで魂が抜けたような表情をした。

「……こ、これは……無理……」

 彼女の声は震えており、明らかにチャチャの動きとスピードについていけていないようだった。

「メルヴィルさん、大丈夫ですか?」

 リリカが心配そうに振り返ったが、メルヴィルは答える余裕もないほどだった。

「これは……もう……」

 やがて、リリカが「チャチャ、止まって!」

 と指示を出すと、チャチャは瞬時に動きを止め、尻尾を巧みに使い四人をゆっくりと地面に降ろした。

「……助かった……」

 メルヴィルは顔を蒼白にしたまま、地面に降り立つと、その場にへたり込んでしまった。

「すごい!リリカ、チャチャは本当にすごいわ!まるで風のように軽やかで、楽しかった!」

 ステラが興奮気味に感想を述べた。

「チャチャは、本当に言葉がわかるようになったのかもしれないですね」

 セルフィも目を輝かせながら言った。

 リリカはチャチャの背中を撫でながら

 「ありがとう、チャチャ。今日はすごく楽しかったよ」

 と微笑んだ。

「じゃあ、チャチャ。元の姿に戻ろうか?」

 リリカがそう言うと、チャチャはまるで言葉が理解できるかのように頷き、静かに元の小さな姿へと戻っていった。

 その瞬間、リリカは再び驚きの表情を浮かべた。

「本当に戻った……チャチャ、すごい!あなた、私の言うことが本当にわかるの?」

 チャチャはリリカの足元で嬉しそうに鳴き、リリカに甘えるように体を擦り寄せた。

「可愛い、さすが私の子(猫)」

 リリカはそう言ってチャチャを抱きしめた。

 だが、そんな光景を見ながら、メルヴィルはまだ顔を真っ青にしていた。

「……こんな気持ち悪い感覚、初めてよ……」

 彼女は自嘲気味に笑ったが、その声にはまだ若干の震えがあった。

「乗り物酔いってやつですかね?」

 セルフィが笑いながら言った。

「ご、ごめんなさい、メルヴィルさん。でも、これも訓練の一環ってことで……」

 リリカは申し訳なさそうに笑ったが、ステラとセルフィはその様子に大笑いした。

「確かに、今日はすごい訓練になったわね。メルヴィルさんがここまでになるなんて……」

 その日の午後に予定されていた勉強会は、メルヴィルの体調不良により中止となったことは、言うまでもない。

 チャチャの新たな力とリリカとの深い絆が明らかになり、仲間たちとの訓練は楽しいものとなった。しかし、メルヴィルにとっては、少々?過酷な一日となったのであった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...