人生ゲーム

アルマ

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ゲーム開始

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「ハァハァ…ハァハァ…」

俺は森の中を息を切らしながら歩いていた。

(世間じゃGW初日だってのに…。なんでこんなことに…)

そう思いかけたところで、ため息をついた。

(なんでも何も、こうなったのは俺が原因か)

額から吹きでる汗を拭いながら、5月の美空を見上げると、俺はつい2日前の出来事を思い出していた。

ー2日前ー

会社帰りに郵便受けを覗くと、真っ黒な封筒が入っていた。

(なんだ?何かのいたずらか?)

宛名は書いていなかったが、家に帰ると気になって封を開けてみる。

そこには1枚の写真と手紙が入っていた。

(なんだ…これ?)

俺はその写真に動揺を隠せず、手が小刻みに震え始めた。

それは、俺と女がホテルでした性行為が写されていた。
その女は、1ヶ月ほど前に同僚との付き合いで行った合コンで知り合った女だった。

お互い彼氏彼女がいる身で、付き合いで参加したという同じ境遇に意気投合した。

そして軽いノリで一夜を共にしたのだ。
だがそれ以降、彼女とは何の連絡も取っていない。

文字通り、一夜限りの関係だった。

(なんでこんな写真があるんだ)
(あの女、カメラでも隠してやがったのか?)
(もし、こんな写真が万里花にバレでもしたら…)
(会社にもバレたらまずいんじゃ…!ヘタしたらクビになるんじゃないか?)

怒り、恐怖、憎しみ、不安、様々な感情が駆け巡る。

俺はふと、同封されていた手紙に目をやる。

そこには、
『4月29日、午前9時、指定の場所に来い。来れば写真のデータは消去する。来ない場合は写真が公になる。』
と書かれていた。

(載っている地図の場所に来いってことか…)

俺はそのままベッドに倒れ込む。

(普通に考えたら脅迫、だよな)
(金を持ってこいとかも何も書いてないな)
(それにしても何でこんな山奥なんだ)
(俺、殺されたりしないよな…?)

疑心暗鬼になりながらも、俺には『行く』以外の選択肢はなかった。

GWに行く予定だった万里花の旅行も、仕事が急に入ったからとドタキャンする羽目になった。

万里花からは2時間も説教されたが、写真が公になれば2時間の比ではないし、もしかしたら俺の人生にも関わる問題だ。

(実力行使になろうとも、あの写真の証拠は消さないといけない)

俺は購入したナイフをジャケットの内ポケットにしまうと、指定の場所に向かった。

ーそして、今に至るー

「くそっ、もう30分は歩いてるぞ」
腕時計を見ると、9時まで残り10分を切っていた。

(やべえ)

俺は持っていたペットボトルのお茶を飲み干すと、山道を駆け登る。

暫く走ると丘の上に山小屋のような建物が見えてきた。

コンクリートでできていて、山の上にある建物にしては異質に感じた。

周りにも人の気配はなかったので、静かにドアを開ける。

そこは6畳ほどの小さな部屋しかなく、置いてある物は何も無く、殺風景なものだった。

もう一度、時計を見ると8時58分をさしていた。

(危ねぇ。ギリギリだったな)
(あの女はまだ来てないのか)

そう思いながら、扉を閉めると、途端に目の前が真っ暗になった。

(え…?)

扉を閉める前には射し込んでいた太陽の光さえもない。
光という光が全て遮断されたのだ。

(な、なんだ!?急に真っ暗に…)

しかし次の瞬間、そこは別空間だった。

(え…?どうなってるんだ?)
(なんでこんなに人が?)
(いや、そもそもこんなに広かったか?)

俺は目まぐるしい環境の変化についていけなかった。

さっきまでいた部屋より何倍も広い…学校の体育館くらいの広さに変わっていた。

殺風景なのは変わらないが、さっきまで無人だったはずなのに、人で溢れていた。

(50…いや100人くらいはいるのか?)

床で寝ている奴もいれば、カップル同士イチャイチャしてるやつもいた。

(な、なにがどうなってるんだ?)

時間の感覚にして1秒、瞬きしたくらいの時間で目の前の世界が大きく変わった。

(夢でも見ているのかと疑いたくなる)

頬をつねってみるが、目の前の景色は変わらない。

右も左も分からないような状態のまま、時計の針は9時を示した。

すると、部屋の前方にあるステージにライトが当たる。
そこにはピエロの顔をした男が立っていた。

「レディースandジェントルマン!」
「紳士淑女の皆さん、お集まりいただきありがとうございます!」

ピエロは大袈裟な身振り手振りを交えると、ニヤリと笑う。

「まあ、皆さんには来ない理由がないんですけどね♪」

俺は写真の事が頭をよぎる。

「プププッッ。アハハハハハハ、ァハハハハハハ」

ピエロの笑い声だけが部屋中に響き渡る。

ひとしきり笑い終えると、息を整えるように大きく息を吐く。

「あ~さすが私。なんて面白いんでしょう☆」

(何なんだ、あのピエロ!!めちゃくちゃ腹立つ!!!!)

俺から2mくらい離れた所から声が上がる。
「茶番はいい。早く説明しろ」
短く発せられた男の声。

「いいですね~!あなたいいですよ~☆」

ピエロはその男に喜びの拍手を送る。

「そうですね~、皆さんそろそろお待ちかねのようですし、本題に入りましょう~!」
「簡単に言いますとね、ゲームをして欲しいのです」

(ゲーム?)

俺は思わぬ言葉に拍子抜けしたが、ピエロの次のセリフでその言葉の重みに気づかされる。

「ゲームをクリアした人たちだけに、ここから出られる権利をあげます!」

(は?)
(ちょっと待て。どういうことだ?)

「おい!この部屋ドアがないぞ!」
誰かの声が聞こえた途端、俺は周りを見回す。
たしかに扉や窓のようなものは、どこにもなかった。

(そうか…!)
(俺達はこの部屋に扉から入ったわけじゃない)
(気づいた時には、ここに連れてこられてたんだ…!)

周りがザワつき始めたことには気にも止めず、ピエロは話し続ける。

「あ、そうそう。皆さんがご心配されている物は、もう外に流出されることはありません♪」
「思う存分ゲームを楽しんでください!!」

ピエロの言葉を合図に、目の前に何かが現れる。
手に取ってみると12面体のサイコロのようだ。
よく見ると、1から10の数字の他に黒い星と白い星が描かれていた。

「さあ!皆さん!ゲームスタートです!!」

すると手に持っていたサイコロが勝手に回転し始める。

「なんだ…!?」

手から床に落ちたサイコロは数字の2を示す。

「あ、私としたことがゲームの名前をお伝えしてなかったですね」

ピエロは深々とお辞儀をする。

「皆さんに参加していただくのは『人生ゲーム』。それでは心ゆくまでお楽しみください☆」
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