キミがボクにくれたもの

ユキナ

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戻らない時計の針

別れ

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キミと初めて出逢った日。
キミが初めてボクのお母さんになった日。


あれから何年も一緒に年を重ねて。


その全てがボクにとって、かけがえない時間だった。


でもね……キミとボクとじゃ、流れている時間が違うんだ。


永遠に続くものなんて無いと。


きっと本能かな?


なんとなく分かっていた。


☆ ☆ ☆


ボクは病気になった。もう助からないって、自分でも分かる。


キミがなんとかしようとしてたの……痛い程よく分かるよ。


でも……
でもね……


これは避けられない道だから。


お医者さんは『安楽死させますか?』って。


でもボクはキミの側で最期を眠りたい……。


キミは……「連れて帰ります」って。そう言ってくれたね。


ボクは嬉しかった。



ーーボクはキミに抱かれて家に帰る。


帰り道、キミの手は震えていたね……。


「ごめんね、ほし……」


謝らないで欲しいな。


だって最期までキミが側にいてくれる。


それだけでボクは、きっと世界一幸せなんだろうって……そう思っているから。


「ただいま……」


キミと過ごす最後の時間。


キミはボクを抱きしめて、ずっと添い寝してくれたね。


“暖かいよ”


楽しかったなぁ……キミと出逢えて。


いっぱい……いっぱいの思い出と、いっぱいの幸せを貰ったよ。


ボクは悔い無く生きられただろうか?


ボクは……幸せだ。


だからだ。


悔い無く生きて来たと、心から思えるからボクは……


死ぬ事が怖くないんだ。


でもそろそろ……眠くなってきちゃった……。


きっと、もう目を覚ます事は無い。


もう……眠ってもいいかな?








ーーそういえば……キミはボクの名前の由来を話した事があったね。


☆ ☆ ☆


『今日は星がとても綺麗だよ』


星?


キミの話しでは、夜空にはいっぱいの星が輝いているんだって。


『一つ一つが宝石の様に輝いて……』


キミがそう言うんだから、きっと星とは凄く綺麗なんだろうね。


『ほしはそんな綺麗な星みたいに、この世で最も綺麗な存在なのよ』


ボクが……この世で最も綺麗な存在?


『ほしは私のかけがえのない……』


“宝石の様な宝物”


そう言ってボクを撫でるキミ。


夜風の寒さよりも暖かいキミの手のひら。


ボクはキミに大事にされてるんだって。


少しこそばゆかったけど……でも嬉しかったよ。


ボクを大事にしてくれたキミ。
ボクを優しくしてくれたキミ。
ボクを愛してくれたキミ。


その全てがボクにとって、かけがえのない宝物だ。


だからボクがいなくなった後、どうか悲しまないで。


キミと過ごした日々と思い出は……決して消える事は無いから。


ボクは星になってキミを見守り続けるよ。


キミをいつでも照らせる様に。
キミが自分の幸せを歩める様に。


ボクを幸せにしてくれたキミ。


だから今度はボクが、キミを幸せにする番だ。


これはさよならじゃ無い。キミが幸せになる為の門出。


だから、さよならは言わないよ。


キミと初めて出会ってから5年と9ヶ月。


今までありがとう。そしてーー


“おやすみ”










ーーねえ……神様。


最期に一つだけ、我儘言っていいかな?


一度でいいから……この素晴らしい世界とーー


“キミを見てみたかった”


ううん……それは贅沢だよね?


だって、こんなにも幸せだったんだもん……。


ーーキミの温もりの中……


ボクは目覚める事の無い……


最期の眠りに落ちていたーー










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