94 / 99
序~最終章 生死流転
九話 思わぬ邂逅
しおりを挟む
※※※※※※※※※※※※※※※※
「……此処は?」
ユキは光の先に在るその場所に足を踏み入れ、その光景に思わず目を見張った。
そこは深く、白い霧に覆われた世界。彼の眼前には壮大な川が流れている。
その川には一際目立つ金銀七宝で作られた橋が架けられており、その下の岸辺には一隻の渡船が停留していた。
「金銀七宝で作られた橋に渡船……」
ユキはその光景に思考を巡らせ、そして理解する。
“では此処は、伝えられている三途の川?”
三途の川とは、此岸(現世)と彼岸(あの世)を分ける境目に在るとされる川。
伝えられていたその光景の事実を確認したユキは、やはり自分が死んだ事を認識する。
しかし彼は不思議な位、冷静に状況を把握する。
「ならばあの渡船に乗って、地獄へ行かねばならない筈ですが……」
ユキは辺りを見回すがーー
「文献で伝えられている、懸衣翁・奪衣婆という老夫婦の姿が見当たりませんね」
十王の配下に位置づけられる懸衣翁・奪衣婆の二人が、死者を渡船に乗せる係員の役目を背負っているが、その姿が何処にも見えないという事は、伝えられている事と実際は多少食い違う事実だという事。
「そもそも六文銭も持ってませんし……」
彼はこの状況に置かれても、その様な事を呟くのだった。
「アナタの思っている通り、此処は三途の川です」
思考しながら立ち竦むユキに、何処からともなく声が聞こえてきた。
ユキは我に返り、その声がした方向へと振り向く。
「ア……アナタは!!」
深い霧から姿を現した人物のその姿に、ユキの瞳は驚愕を以って開かれた。
その人物は美しい迄に整った顔立ちに深い銀色の瞳、さらさらと靡く白銀髪。白い着流しを身に纏い、雪の様な白い肌をしたそれは、ユキをまるでそのまま大人にした様な。
「アナタは……そんな馬鹿な!!」
自分の目の前に立つ人物の姿に、さすがにユキも動揺を隠せない。
“そんな筈は無い!”
常に冷静沈着なユキが驚愕し、狼狽えるのも無理はない。有り得ない人物が目の前に居るのだから。
三年前に死亡したとされる“四死刀”が一人。
ユキの師であり、その前の名の持ち主。
ユキと同じ特異能“無氷”を持つ特異点。
その人物は“四死刀”星霜剣のユキヤその人であった。
「相変わらず冷静な判断力ですが、この程度の事で心揺らぐとはまだまだですね。でも慌てふためくアナタを見れて得した気分です、フフフ」
かつての四死刀ユキヤはそう言い、クスリと笑みを見せる。
「相変わらずですね……」
そう、これは紛れもなく師ユキヤで在る事。人を小馬鹿にする処とか、何一つ変わっていない事。
ユキの性格や口調は、やはり師による影響が大きい。
それに此処はあの世なのだから、死んだ者が居たとしても何も不思議では無い事。
「お久しぶりですユキヤ……いえ師匠」
現世では無いが、師弟であった二人の久々の邂逅。冷静さを取り戻したユキは、かつての師へ頭を下げ、深々と敬礼する。
「アナタが素直に頭を下げるとは珍しい。どんな心境の変化でしょう? フフフ。どちらでも構いませんよ。それに、その名は今やアナタのものなんですから」
対峙する二人のユキヤ。大きいユキヤに小さいユキ。
写し鏡とは違うその奇妙な対比は、不思議な雰囲気を醸し出していた。
「……此処は?」
ユキは光の先に在るその場所に足を踏み入れ、その光景に思わず目を見張った。
そこは深く、白い霧に覆われた世界。彼の眼前には壮大な川が流れている。
その川には一際目立つ金銀七宝で作られた橋が架けられており、その下の岸辺には一隻の渡船が停留していた。
「金銀七宝で作られた橋に渡船……」
ユキはその光景に思考を巡らせ、そして理解する。
“では此処は、伝えられている三途の川?”
三途の川とは、此岸(現世)と彼岸(あの世)を分ける境目に在るとされる川。
伝えられていたその光景の事実を確認したユキは、やはり自分が死んだ事を認識する。
しかし彼は不思議な位、冷静に状況を把握する。
「ならばあの渡船に乗って、地獄へ行かねばならない筈ですが……」
ユキは辺りを見回すがーー
「文献で伝えられている、懸衣翁・奪衣婆という老夫婦の姿が見当たりませんね」
十王の配下に位置づけられる懸衣翁・奪衣婆の二人が、死者を渡船に乗せる係員の役目を背負っているが、その姿が何処にも見えないという事は、伝えられている事と実際は多少食い違う事実だという事。
「そもそも六文銭も持ってませんし……」
彼はこの状況に置かれても、その様な事を呟くのだった。
「アナタの思っている通り、此処は三途の川です」
思考しながら立ち竦むユキに、何処からともなく声が聞こえてきた。
ユキは我に返り、その声がした方向へと振り向く。
「ア……アナタは!!」
深い霧から姿を現した人物のその姿に、ユキの瞳は驚愕を以って開かれた。
その人物は美しい迄に整った顔立ちに深い銀色の瞳、さらさらと靡く白銀髪。白い着流しを身に纏い、雪の様な白い肌をしたそれは、ユキをまるでそのまま大人にした様な。
「アナタは……そんな馬鹿な!!」
自分の目の前に立つ人物の姿に、さすがにユキも動揺を隠せない。
“そんな筈は無い!”
常に冷静沈着なユキが驚愕し、狼狽えるのも無理はない。有り得ない人物が目の前に居るのだから。
三年前に死亡したとされる“四死刀”が一人。
ユキの師であり、その前の名の持ち主。
ユキと同じ特異能“無氷”を持つ特異点。
その人物は“四死刀”星霜剣のユキヤその人であった。
「相変わらず冷静な判断力ですが、この程度の事で心揺らぐとはまだまだですね。でも慌てふためくアナタを見れて得した気分です、フフフ」
かつての四死刀ユキヤはそう言い、クスリと笑みを見せる。
「相変わらずですね……」
そう、これは紛れもなく師ユキヤで在る事。人を小馬鹿にする処とか、何一つ変わっていない事。
ユキの性格や口調は、やはり師による影響が大きい。
それに此処はあの世なのだから、死んだ者が居たとしても何も不思議では無い事。
「お久しぶりですユキヤ……いえ師匠」
現世では無いが、師弟であった二人の久々の邂逅。冷静さを取り戻したユキは、かつての師へ頭を下げ、深々と敬礼する。
「アナタが素直に頭を下げるとは珍しい。どんな心境の変化でしょう? フフフ。どちらでも構いませんよ。それに、その名は今やアナタのものなんですから」
対峙する二人のユキヤ。大きいユキヤに小さいユキ。
写し鏡とは違うその奇妙な対比は、不思議な雰囲気を醸し出していた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。
ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。
我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。
その為事あるごとに…
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」
隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。
そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。
そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。
生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。
一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが…
HOT一位となりました!
皆様ありがとうございます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。

そして、アドレーヌは眠る。
緋島礼桜
ファンタジー
長く続いた大戦、それにより腐りきった大地と生命を『奇跡の力』で蘇らせ終戦へと導いた女王――アドレーヌ・エナ・リンクス。
彼女はその偉業と引き換えに長い眠りについてしまいました。彼女を称え、崇め、祀った人々は彼女の名が付けられた新たな王国を創りました。
眠り続けるアドレーヌ。そこに生きる者たちによって受け継がれていく物語―――そして、辿りつく真実と結末。
これは、およそ千年続いたアドレーヌ王国の、始まりと終わりの物語です。
*あらすじ*
~第一篇~
かつての大戦により鉄くずと化し投棄された負の遺産『兵器』を回収する者たち―――狩人(ハンター)。
それを生業とし、娘と共に旅をするアーサガ・トルトはその活躍ぶりから『漆黒の弾丸』と呼ばれていた。
そんな彼はとある噂を切っ掛けに、想い人と娘の絆が揺れ動くことになる―――。
~第二篇~
アドレーヌ女王の血を継ぐ王族エミレス・ノト・リンクス王女は王国東方の街ノーテルの屋敷で暮らしていた。
中肉中背、そばかすに見た目も地味…そんな引け目から人前を避けてきた彼女はある日、とある男性と出会う。
それが、彼女の過去と未来に関わる大切な恋愛となっていく―――。
~第三篇~
かつての反乱により一斉排除の対象とされ、長い年月虐げられ続けているイニム…ネフ族。
『ネフ狩り』と呼ばれる駆逐行為は隠れ里にて暮らしていた青年キ・シエの全てを奪っていった。
愛する者、腕、両目を失った彼は名も一族の誇りすらも捨て、復讐に呑まれていく―――。
~第四篇~
最南端の村で暮らすソラはいつものように兄のお使いに王都へ行った帰り、謎の男二人組に襲われる。
辛くも通りすがりの旅人に助けられるが、その男もまた全身黒尽くめに口紅を塗った奇抜な出で立ちで…。
この出会いをきっかけに彼女の日常は一変し歴史を覆すような大事件へと巻き込まれていく―――。
*
*2020年まで某サイトで投稿していたものですがサイト閉鎖に伴い、加筆修正して完結を目標に再投稿したいと思います。
*他小説家になろう、アルファポリスでも投稿しています。
*毎週、火曜日に更新を予定しています。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる