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序~最終章 生死流転
九話 思わぬ邂逅
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※※※※※※※※※※※※※※※※
「……此処は?」
ユキは光の先に在るその場所に足を踏み入れ、その光景に思わず目を見張った。
そこは深く、白い霧に覆われた世界。彼の眼前には壮大な川が流れている。
その川には一際目立つ金銀七宝で作られた橋が架けられており、その下の岸辺には一隻の渡船が停留していた。
「金銀七宝で作られた橋に渡船……」
ユキはその光景に思考を巡らせ、そして理解する。
“では此処は、伝えられている三途の川?”
三途の川とは、此岸(現世)と彼岸(あの世)を分ける境目に在るとされる川。
伝えられていたその光景の事実を確認したユキは、やはり自分が死んだ事を認識する。
しかし彼は不思議な位、冷静に状況を把握する。
「ならばあの渡船に乗って、地獄へ行かねばならない筈ですが……」
ユキは辺りを見回すがーー
「文献で伝えられている、懸衣翁・奪衣婆という老夫婦の姿が見当たりませんね」
十王の配下に位置づけられる懸衣翁・奪衣婆の二人が、死者を渡船に乗せる係員の役目を背負っているが、その姿が何処にも見えないという事は、伝えられている事と実際は多少食い違う事実だという事。
「そもそも六文銭も持ってませんし……」
彼はこの状況に置かれても、その様な事を呟くのだった。
「アナタの思っている通り、此処は三途の川です」
思考しながら立ち竦むユキに、何処からともなく声が聞こえてきた。
ユキは我に返り、その声がした方向へと振り向く。
「ア……アナタは!!」
深い霧から姿を現した人物のその姿に、ユキの瞳は驚愕を以って開かれた。
その人物は美しい迄に整った顔立ちに深い銀色の瞳、さらさらと靡く白銀髪。白い着流しを身に纏い、雪の様な白い肌をしたそれは、ユキをまるでそのまま大人にした様な。
「アナタは……そんな馬鹿な!!」
自分の目の前に立つ人物の姿に、さすがにユキも動揺を隠せない。
“そんな筈は無い!”
常に冷静沈着なユキが驚愕し、狼狽えるのも無理はない。有り得ない人物が目の前に居るのだから。
三年前に死亡したとされる“四死刀”が一人。
ユキの師であり、その前の名の持ち主。
ユキと同じ特異能“無氷”を持つ特異点。
その人物は“四死刀”星霜剣のユキヤその人であった。
「相変わらず冷静な判断力ですが、この程度の事で心揺らぐとはまだまだですね。でも慌てふためくアナタを見れて得した気分です、フフフ」
かつての四死刀ユキヤはそう言い、クスリと笑みを見せる。
「相変わらずですね……」
そう、これは紛れもなく師ユキヤで在る事。人を小馬鹿にする処とか、何一つ変わっていない事。
ユキの性格や口調は、やはり師による影響が大きい。
それに此処はあの世なのだから、死んだ者が居たとしても何も不思議では無い事。
「お久しぶりですユキヤ……いえ師匠」
現世では無いが、師弟であった二人の久々の邂逅。冷静さを取り戻したユキは、かつての師へ頭を下げ、深々と敬礼する。
「アナタが素直に頭を下げるとは珍しい。どんな心境の変化でしょう? フフフ。どちらでも構いませんよ。それに、その名は今やアナタのものなんですから」
対峙する二人のユキヤ。大きいユキヤに小さいユキ。
写し鏡とは違うその奇妙な対比は、不思議な雰囲気を醸し出していた。
「……此処は?」
ユキは光の先に在るその場所に足を踏み入れ、その光景に思わず目を見張った。
そこは深く、白い霧に覆われた世界。彼の眼前には壮大な川が流れている。
その川には一際目立つ金銀七宝で作られた橋が架けられており、その下の岸辺には一隻の渡船が停留していた。
「金銀七宝で作られた橋に渡船……」
ユキはその光景に思考を巡らせ、そして理解する。
“では此処は、伝えられている三途の川?”
三途の川とは、此岸(現世)と彼岸(あの世)を分ける境目に在るとされる川。
伝えられていたその光景の事実を確認したユキは、やはり自分が死んだ事を認識する。
しかし彼は不思議な位、冷静に状況を把握する。
「ならばあの渡船に乗って、地獄へ行かねばならない筈ですが……」
ユキは辺りを見回すがーー
「文献で伝えられている、懸衣翁・奪衣婆という老夫婦の姿が見当たりませんね」
十王の配下に位置づけられる懸衣翁・奪衣婆の二人が、死者を渡船に乗せる係員の役目を背負っているが、その姿が何処にも見えないという事は、伝えられている事と実際は多少食い違う事実だという事。
「そもそも六文銭も持ってませんし……」
彼はこの状況に置かれても、その様な事を呟くのだった。
「アナタの思っている通り、此処は三途の川です」
思考しながら立ち竦むユキに、何処からともなく声が聞こえてきた。
ユキは我に返り、その声がした方向へと振り向く。
「ア……アナタは!!」
深い霧から姿を現した人物のその姿に、ユキの瞳は驚愕を以って開かれた。
その人物は美しい迄に整った顔立ちに深い銀色の瞳、さらさらと靡く白銀髪。白い着流しを身に纏い、雪の様な白い肌をしたそれは、ユキをまるでそのまま大人にした様な。
「アナタは……そんな馬鹿な!!」
自分の目の前に立つ人物の姿に、さすがにユキも動揺を隠せない。
“そんな筈は無い!”
常に冷静沈着なユキが驚愕し、狼狽えるのも無理はない。有り得ない人物が目の前に居るのだから。
三年前に死亡したとされる“四死刀”が一人。
ユキの師であり、その前の名の持ち主。
ユキと同じ特異能“無氷”を持つ特異点。
その人物は“四死刀”星霜剣のユキヤその人であった。
「相変わらず冷静な判断力ですが、この程度の事で心揺らぐとはまだまだですね。でも慌てふためくアナタを見れて得した気分です、フフフ」
かつての四死刀ユキヤはそう言い、クスリと笑みを見せる。
「相変わらずですね……」
そう、これは紛れもなく師ユキヤで在る事。人を小馬鹿にする処とか、何一つ変わっていない事。
ユキの性格や口調は、やはり師による影響が大きい。
それに此処はあの世なのだから、死んだ者が居たとしても何も不思議では無い事。
「お久しぶりですユキヤ……いえ師匠」
現世では無いが、師弟であった二人の久々の邂逅。冷静さを取り戻したユキは、かつての師へ頭を下げ、深々と敬礼する。
「アナタが素直に頭を下げるとは珍しい。どんな心境の変化でしょう? フフフ。どちらでも構いませんよ。それに、その名は今やアナタのものなんですから」
対峙する二人のユキヤ。大きいユキヤに小さいユキ。
写し鏡とは違うその奇妙な対比は、不思議な雰囲気を醸し出していた。
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