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第9章 絶対零度の死闘

十三話 決着

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アザミが手刀を振り下ろした直後の事。


“ーーっ!?”


ある違和感に気付く。


「何故……?」


落ちる筈だったユキの首。


「何故俺の腕が砕ける?」


落ちたのは、右手首の付根から砕ける様に崩れ落ちた、アザミの右腕だった。


“一体何がどうなって……”


アザミは自分の上半身にも違和感を感じ、そっと其処を凝視する。


「傷口から凍って復元しないだと? そんな馬鹿な!?」


アザミは傷口が閉じきらず、其処から氷が浸蝕していく様に、思わず声を荒げた。


“そんな事は有り得ない!!”


復元は細胞再生とは似て非なるもの。


“元在るものに戻す筈が……何故?”


「この技ーー“無氷零月”の前では如何なる再生、復元能力さえも……全て無意味です」


崩れ落ちる身体に理解出来ず、狼狽えるアザミに、ユキは振り返る事なく呟く。


「絶対零度は全ての原子運動が停止し、分子結合が崩壊し塵となるのみ……」


その技とーー絶対零度に於ける真髄を。


「そうか。お前が俺の“死”……か」


アザミは崩れ逝く己に、何処か微笑しながら呟く。


この崩壊は止められない。その事実を理解し、自らの敗北と死を受け入れたからだ。


「……俺の負けだ。お前と闘えた事を感謝しよう。だが、これで終わりでは無い」


それがアザミの最期の言葉。


“やはり闘いに絶対は無かったか。俺は求めていたのかもしれないな。何時かこの時が来る事を……”


“だがまだユーリやハル、ルヅキがいるーー”


死の間際に浮かんだのは妹の事。


ずっと二人で寄り添って生きてきた事。今迄も、そして此れからも変わらない筈だった事。


その全てが走馬灯の様にフラッシュバックされる。


“すまないルヅキ……。ずっとお前を護っていきたかったが。あとは……頼むーー”


その最期の思考と共に、アザミの身体は淡く滲んで消えて逝く。


降り続く粉雪と共にーー


「……先に逝っててください。続きは……地獄でお受け致しますーー」


そしてユキも、アザミが消えると同時に、ゆっくりと地に倒れるのだった。
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