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第9章 絶対零度の死闘
五話 絶望という名の恐怖
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“奴が力を出す前に終わらせる事が出来た……”
ユキは何処か釈然としないながらも、その事実に安堵し歩を進める。
事実、アザミの力は刃鋼線だけでは有るまい。ユキが最初にアザミを見た時、四死刀にも通ずる力が有るだろう事は雰囲気で感じていたから。
だが、相手の力を全部出させる前に終わらせるのが、闘いに於いて最善の策で有る事は間違いない。
“だけど……この拭い様の無い違和感は一体?”
「うっ!?」
ユキは不意に歩みを止めた。彼の異変にアミも気付く。
「……ユキ?」
不安そうにアミはユキの顔を覗き込む。その口許からは、一筋の血が流れ落ちていた。
「ユキ!?」
そしてアミは確かに見た。ユキの腹部から滲む血と共に伸びる、一筋の煌めく線を。
血を伝い、はっきりと視覚出来る。それは間違いなく刃鋼線だった。
一本の刃鋼線が、ユキの背後から腹部を確実に貫いていた。
アミは崩れ落ちそうになる彼を支えながら、恐る恐る背後を見る。
「嘘……何で?」
彼女の困惑も当然。何故なら何事も無かったかの様に、右の人差し指を此方に向けたアザミが立っていたのだから。
アザミはユキの腹部を貫いている刃鋼線を、指先で操作し引き抜く。
「が……はっ!」
それと同時にユキは崩れ落ち、吐血する。その腹部の傷は致命傷とも云える吐血量。
「ユキ!!」
アミは崩れ落ちたユキを支える様に抱き抱える。その腹部からは血液が止めどなく溢れ出し、危険な状態にある事は一目瞭然。
倒れたユキ。そして目の前の有り得ない光景。アミにはその現実は受け入れ難いものであった。
「どうして……?」
アザミの首が胴体から離れた瞬間を、アミは確かに見た。
その筈が、そんな事実は最初から無かったかの様に佇むアザミのその姿に、アミは心の底から恐怖せざるを得なかった。
それは絶望という名の恐怖か。
「何故? 確かに手応えは有った筈……」
吐血しながらもユキはアザミに問い掛ける。それに対しアザミは、両手で相手を讃える様に拍手しながら応えた。
「いや見事だった。お前のその戦略、技量には正直感服した。普通ならお前の勝ちだ」
アザミはそう言い口許を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる。
「普通……ならな」
“何だ!? 奴から感じられるあれは……”
ユキの額から冷汗が流れ落ちる。それは傷に依るものものではなく、アザミから感じ取れる、その異常な迄の邪気を感じたからだ。
「俺の邪気に気付いたな。見せてやろう」
アザミはその身に纏う黒装束を右手で剥ぎ取り、上半身を顕にする。
「ーーっな!!」
その姿に二人とも、思わず目を見張った。
ユキは何処か釈然としないながらも、その事実に安堵し歩を進める。
事実、アザミの力は刃鋼線だけでは有るまい。ユキが最初にアザミを見た時、四死刀にも通ずる力が有るだろう事は雰囲気で感じていたから。
だが、相手の力を全部出させる前に終わらせるのが、闘いに於いて最善の策で有る事は間違いない。
“だけど……この拭い様の無い違和感は一体?”
「うっ!?」
ユキは不意に歩みを止めた。彼の異変にアミも気付く。
「……ユキ?」
不安そうにアミはユキの顔を覗き込む。その口許からは、一筋の血が流れ落ちていた。
「ユキ!?」
そしてアミは確かに見た。ユキの腹部から滲む血と共に伸びる、一筋の煌めく線を。
血を伝い、はっきりと視覚出来る。それは間違いなく刃鋼線だった。
一本の刃鋼線が、ユキの背後から腹部を確実に貫いていた。
アミは崩れ落ちそうになる彼を支えながら、恐る恐る背後を見る。
「嘘……何で?」
彼女の困惑も当然。何故なら何事も無かったかの様に、右の人差し指を此方に向けたアザミが立っていたのだから。
アザミはユキの腹部を貫いている刃鋼線を、指先で操作し引き抜く。
「が……はっ!」
それと同時にユキは崩れ落ち、吐血する。その腹部の傷は致命傷とも云える吐血量。
「ユキ!!」
アミは崩れ落ちたユキを支える様に抱き抱える。その腹部からは血液が止めどなく溢れ出し、危険な状態にある事は一目瞭然。
倒れたユキ。そして目の前の有り得ない光景。アミにはその現実は受け入れ難いものであった。
「どうして……?」
アザミの首が胴体から離れた瞬間を、アミは確かに見た。
その筈が、そんな事実は最初から無かったかの様に佇むアザミのその姿に、アミは心の底から恐怖せざるを得なかった。
それは絶望という名の恐怖か。
「何故? 確かに手応えは有った筈……」
吐血しながらもユキはアザミに問い掛ける。それに対しアザミは、両手で相手を讃える様に拍手しながら応えた。
「いや見事だった。お前のその戦略、技量には正直感服した。普通ならお前の勝ちだ」
アザミはそう言い口許を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる。
「普通……ならな」
“何だ!? 奴から感じられるあれは……”
ユキの額から冷汗が流れ落ちる。それは傷に依るものものではなく、アザミから感じ取れる、その異常な迄の邪気を感じたからだ。
「俺の邪気に気付いたな。見せてやろう」
アザミはその身に纏う黒装束を右手で剥ぎ取り、上半身を顕にする。
「ーーっな!!」
その姿に二人とも、思わず目を見張った。
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