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第9章 絶対零度の死闘

三話 見切りと順応能力

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「命拾いしたな」


アザミは対峙するユキに、余裕を以って口を開く。


「ええ、おかげさまで。それより何故、先程は攻撃して来なかったのですか?」


そう、それはとても疑問に思った事。いくら距離を大幅に取っていたとはいえ、治癒中は隙だらけだったから、何時でも襲えた筈だった。


そんなユキの問い掛けに、アザミは微笑し応える。


「お前達は恋人ーー否、姉弟か? 俺にも同じ様な者が居てな……。それを思っていたらつい、攻撃のチャンスを逃してしまった」


アザミが一瞬、遠い目をしていた事。しかしすぐに戻る。


「まあ、そんな事はどうでもいいか。死期が一瞬伸びただけだ。お前が死ぬ事に変わりは無いからな」


アザミがユキに向けて、殺気を顕にする。


「それはそれは、お心遣い感謝します、と言いたい処ですが……アナタの攻撃は見切りました」


だが彼はそれを平然と受け流していた。


「アナタのその力の正体、いや武器ですか。それは目に見えぬ程に細く研ぎ澄まされた、刃鋼線によるもの」


ユキはアザミに向かって刀を突き向け、ずばりと指摘する。とはいえ、アザミの表情からは動揺は伺えない。


「ほう? 良く見切れたな。だがそれが分かった処でどうする? 制止状態ですら目視が困難なうえ、一度空に放てば、目で捉える事は決して出来ない」


“刃鋼線”


それは目視も困難な程に細く、鋭利に研ぎ澄まされた鋼線。


アザミの操る刃鋼線は、その特殊な素材と本人自身の力により、桁外れの硬度と威力――そして不明瞭な迄の伸縮性を誇り、その切れ味は鋼鉄すらも豆腐の如く分断する。


アザミは左指を巧みに動かす。殆ど目視出来ないが、その指先からは確かに細い線状が無数に揺らめいていた。


「何を馬鹿な事を……。ネタさえ分かってしまえば、その様な児戯にも等しいモノで私を殺せると、本気で思っているのですか?」


その挑発とも云える一言に、アザミの表情が僅かに吊り上がる。それは怒りの表情であった。


「先程まで死にかけていた者の台詞とは思えんな。面白い、破れるものなら破ってみるがいい!」


アザミは左手からだけではなく、右手からも刃鋼線による多重攻撃を仕掛ける。


見えない幾重もの刃鋼線がユキを襲うーーが。


ユキは見えない筈の刃鋼線を、刀と鞘で器用に捌いていた。その周りには無数の金属音と、金属と金属がぶつかり合う時に生じる火花が散らされる。


“こ、こいつ!?”


アザミはその状況に思わず目を見張った。


“目に見えぬ筈の刃鋼線を刀で捌くとはな……。目で見て捌いてる訳じゃない。僅かな音を頼りに捌いてやがる!”


刃鋼線から僅かに生じる、空気が裂かれる音。視覚ではなく聴覚で見えない刃鋼線を捌くユキの技量に、アザミは思わず感嘆していた。


“ふっ……何たる順応能力の高さか。どうやらこいつは、俺の想像以上のモノを持っているらしい”


「だが……」


アザミの口許が吊り上がり、笑みが浮かび上がる。


「甘いわ!!」
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