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第9章 絶対零度の死闘
一話 不可視の刃
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「……所詮は餓鬼か。いや、それがお前の中で貫かなければならない信念なんだろうな……」
アザミは一瞬穏やかな笑みを見せたかと思うと、すぐに鋭い目付きへと変わる。
「それならそれで構わん。なら後は一瞬で殺すまで」
アザミが左手をユキへと向ける。それが戦闘開始の合図だった。
「私を一瞬で殺す? 冗談にしては笑えませんね」
アザミとユキの距離は約三間(約6.5M)
この距離ならアザミが何か行動を移す前に、縮地法(距離を一瞬で零にする技術の総称)で一気に懐に潜り込んで決める。それがユキの考えていた、この場で取りうる最善の戦術であると思考。
とはいえ残りの体力を考えると、長引くのは不利なのは否めない。
一瞬で決めようと、右足を踏み出そうとしたその時だった。
「ーーなっ!?」
踏み出そうとした刹那ーーユキの身体から、手足の至る処から鮮血が噴き上がった。
思わず膝を附いたユキは、左手を前に突き出し、その場から微動だにしないアザミを見据える。
“……今のは? 奴とは充分な距離があった筈。何かの能力?”
その傷痕を指でなぞり、その出血量を見て思う。
“これはかまいたちと云った類の力による傷じゃない。何か鋭利な刃物で切り裂かれた様な……。だが何時動いた? 何か投げた様にも見えなかったーー”
傷口を抑える事無く思考するユキへ、アザミは感心した様に口を開く。
「この状況で顔色一つ変えんとは、流石と言いたい処だが……今のはほんの戯れの一撃よ。次はそうはいかん」
そう言い放ち、冷酷な眼でユキを見据えていた。
「ユキぃぃぃ!」
二人の間に在る、張り詰めた空気。静寂を破るが如く、突如彼等以外の第三者の声が響く。
その声にユキは、反射的に声がした背後の方を振り返る。
自分の事をユキと呼ぶ者は、この世に一人しかいないーーその人物は、気を失っている筈のアミだった。
「アミ!?」
ユキは自分の方に走り寄ってくる彼女を見て、一瞬疑問に思ったが、すぐに事の深刻さを理解した。
「来ちゃ駄目です!!」
ユキの叫び声に、アミは金縛りにあったかの様に歩みを止め、その場に立ち竦んだ。
“しまった! アミが目を覚ます前に終わらせるつもりがーー”
その思考は彼にとって、ほんの刹那の時間だっただろう。だがアザミは、その僅かな一瞬の刻ーーユキの思考が、この闘いから離れた一瞬の隙を見逃さなかった。
それはこれまで彼が決して見せる事の無かった、動揺という名の隙だった。
“動揺したな”
アザミはユキに向けた左手の指を僅かに動かす。
「その首、貰った!」
見えない何かが膝を付き、アザミから一瞬目線を外したユキの首へと向かう。
“何をしている? 奴はただ左手を突き出しているだけ……”
「これは?」
“ーーやばい!!”
ユキはその刹那、自分の周りの空気が僅かに切り裂かれる様な音を確かに聴いた。それと同時に反射的に刀と白鞘を、自分の首横へ縦にする。
「ーーっ!!」
両方に金属音が鳴り響いたかと思うと突如、万力で締め付けられる様な凄まじい圧力が加わった。
なっーー何て力! 一瞬でも気を抜けば……即座に首が挽き斬られる!? この……力は一体?”
ユキは刀と白鞘を縦にしたまま、その見えない圧力を抑えるのが精一杯で、その場から動く事が出来なかった。
アザミは一瞬穏やかな笑みを見せたかと思うと、すぐに鋭い目付きへと変わる。
「それならそれで構わん。なら後は一瞬で殺すまで」
アザミが左手をユキへと向ける。それが戦闘開始の合図だった。
「私を一瞬で殺す? 冗談にしては笑えませんね」
アザミとユキの距離は約三間(約6.5M)
この距離ならアザミが何か行動を移す前に、縮地法(距離を一瞬で零にする技術の総称)で一気に懐に潜り込んで決める。それがユキの考えていた、この場で取りうる最善の戦術であると思考。
とはいえ残りの体力を考えると、長引くのは不利なのは否めない。
一瞬で決めようと、右足を踏み出そうとしたその時だった。
「ーーなっ!?」
踏み出そうとした刹那ーーユキの身体から、手足の至る処から鮮血が噴き上がった。
思わず膝を附いたユキは、左手を前に突き出し、その場から微動だにしないアザミを見据える。
“……今のは? 奴とは充分な距離があった筈。何かの能力?”
その傷痕を指でなぞり、その出血量を見て思う。
“これはかまいたちと云った類の力による傷じゃない。何か鋭利な刃物で切り裂かれた様な……。だが何時動いた? 何か投げた様にも見えなかったーー”
傷口を抑える事無く思考するユキへ、アザミは感心した様に口を開く。
「この状況で顔色一つ変えんとは、流石と言いたい処だが……今のはほんの戯れの一撃よ。次はそうはいかん」
そう言い放ち、冷酷な眼でユキを見据えていた。
「ユキぃぃぃ!」
二人の間に在る、張り詰めた空気。静寂を破るが如く、突如彼等以外の第三者の声が響く。
その声にユキは、反射的に声がした背後の方を振り返る。
自分の事をユキと呼ぶ者は、この世に一人しかいないーーその人物は、気を失っている筈のアミだった。
「アミ!?」
ユキは自分の方に走り寄ってくる彼女を見て、一瞬疑問に思ったが、すぐに事の深刻さを理解した。
「来ちゃ駄目です!!」
ユキの叫び声に、アミは金縛りにあったかの様に歩みを止め、その場に立ち竦んだ。
“しまった! アミが目を覚ます前に終わらせるつもりがーー”
その思考は彼にとって、ほんの刹那の時間だっただろう。だがアザミは、その僅かな一瞬の刻ーーユキの思考が、この闘いから離れた一瞬の隙を見逃さなかった。
それはこれまで彼が決して見せる事の無かった、動揺という名の隙だった。
“動揺したな”
アザミはユキに向けた左手の指を僅かに動かす。
「その首、貰った!」
見えない何かが膝を付き、アザミから一瞬目線を外したユキの首へと向かう。
“何をしている? 奴はただ左手を突き出しているだけ……”
「これは?」
“ーーやばい!!”
ユキはその刹那、自分の周りの空気が僅かに切り裂かれる様な音を確かに聴いた。それと同時に反射的に刀と白鞘を、自分の首横へ縦にする。
「ーーっ!!」
両方に金属音が鳴り響いたかと思うと突如、万力で締め付けられる様な凄まじい圧力が加わった。
なっーー何て力! 一瞬でも気を抜けば……即座に首が挽き斬られる!? この……力は一体?”
ユキは刀と白鞘を縦にしたまま、その見えない圧力を抑えるのが精一杯で、その場から動く事が出来なかった。
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