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第8章 決戦の刻
三話 溢れる想い
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『……迷った』
ユキは森の中で一人、佇んでいた。
“最初に来た時もそうだったけど、本当に此処は自然に護られているんですね……”
“確かに簡単には侵入出来ないでしょう”
“でも今更戻ろうにも……”
“とにかく前に進むしかありません”
とりあえずまっすぐ進めば出れるだろうと、ユキが再び歩み出そうとした時、背後から声が聞こえる。
「ユキ~!!」
アミはユキと違って地理を知り尽くしている為、当然こうなる。
「アミ……」
来てくれる事を期待していた訳じゃない。
むしろ嬉しかったが、ユキはその声に振り返る事は出来なかった。
振り返ると決心が鈍るからーー
そんなユキの元に走り寄ってきたアミは背後から優しく、それでも離さない様にきつく抱きしめるのだった。
「何処に行こうとしてたのユキ?」
アミは後ろからユキを抱きしめたまま、優しく問い掛ける。
きつく抱きしめるているのは、逃げてしまいそうな気がしたから。
叱られた子供の様にユキは立ち竦み、そのまま抵抗する事も振り返る事もなく、その問いに応えようとしない。
「おばば様の言った事は気にしないで。ユキは何時までも此処に居ていいんだから」
その言葉にユキの身体が震えた様な気がする。
「だっ……」
声が震えて上手く言葉にならない。絞り出す様に、振り返らぬまま想いを紡ぎ出す。
「だって私は……と、特異点だから。皆と違うから」
やっとの思いで声を出す事が出来た。だが、喉が詰まったかの様に、上手く言葉に出来ない。
ただ、彼女の温もりが嬉しくも辛くて、涙を流す事しか出来なかった。
「此処は居心地が良過ぎるから……。何時かアミに迷惑を掛けるから……。だからせめて、アミに危害が無くなるよう、こちらから狂座との闘いを終わらせようと……」
それを最後にユキは口を閉じた。
アミはそんな彼を自分の方へ振り向かせ、再び強く抱き締める。
「ホントに馬鹿なんだから……。全部一人で背負い込もうとして。いつ私が迷惑って言ったの? 誰が何て言おうとユキはユキじゃない!」
彼女の言葉が痛かった。
その目を見る事が出来なかった。
「例え皆がユキの事を疎んでも、私だけはずっと傍にいるから……それが家族だから。ユキは一人じゃない、それを忘れないで」
アミに抱かれたまま、ユキはただ泣く事しか出来なくて。
空からは森の木漏れ日を縫う様に、ちらちらと雪が降り始めていた。
訪れた冬の雪に抱かれながら、それでもそこは暖かかった。
ユキは森の中で一人、佇んでいた。
“最初に来た時もそうだったけど、本当に此処は自然に護られているんですね……”
“確かに簡単には侵入出来ないでしょう”
“でも今更戻ろうにも……”
“とにかく前に進むしかありません”
とりあえずまっすぐ進めば出れるだろうと、ユキが再び歩み出そうとした時、背後から声が聞こえる。
「ユキ~!!」
アミはユキと違って地理を知り尽くしている為、当然こうなる。
「アミ……」
来てくれる事を期待していた訳じゃない。
むしろ嬉しかったが、ユキはその声に振り返る事は出来なかった。
振り返ると決心が鈍るからーー
そんなユキの元に走り寄ってきたアミは背後から優しく、それでも離さない様にきつく抱きしめるのだった。
「何処に行こうとしてたのユキ?」
アミは後ろからユキを抱きしめたまま、優しく問い掛ける。
きつく抱きしめるているのは、逃げてしまいそうな気がしたから。
叱られた子供の様にユキは立ち竦み、そのまま抵抗する事も振り返る事もなく、その問いに応えようとしない。
「おばば様の言った事は気にしないで。ユキは何時までも此処に居ていいんだから」
その言葉にユキの身体が震えた様な気がする。
「だっ……」
声が震えて上手く言葉にならない。絞り出す様に、振り返らぬまま想いを紡ぎ出す。
「だって私は……と、特異点だから。皆と違うから」
やっとの思いで声を出す事が出来た。だが、喉が詰まったかの様に、上手く言葉に出来ない。
ただ、彼女の温もりが嬉しくも辛くて、涙を流す事しか出来なかった。
「此処は居心地が良過ぎるから……。何時かアミに迷惑を掛けるから……。だからせめて、アミに危害が無くなるよう、こちらから狂座との闘いを終わらせようと……」
それを最後にユキは口を閉じた。
アミはそんな彼を自分の方へ振り向かせ、再び強く抱き締める。
「ホントに馬鹿なんだから……。全部一人で背負い込もうとして。いつ私が迷惑って言ったの? 誰が何て言おうとユキはユキじゃない!」
彼女の言葉が痛かった。
その目を見る事が出来なかった。
「例え皆がユキの事を疎んでも、私だけはずっと傍にいるから……それが家族だから。ユキは一人じゃない、それを忘れないで」
アミに抱かれたまま、ユキはただ泣く事しか出来なくて。
空からは森の木漏れ日を縫う様に、ちらちらと雪が降り始めていた。
訪れた冬の雪に抱かれながら、それでもそこは暖かかった。
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