雫 -SIZUKU- 最終特異少年戦記~序

ユキナ

文字の大きさ
上 下
58 / 99
第7章 破滅への序曲

五話 存在意義

しおりを挟む
「中々良い炎でしたよ」


ユキは無氷でスクの炎を凍結、相殺していたのだった。


「ですが、四死刀ーー“紅焦熱”のカレンの炎には遠く及びません」


冷酷に実力差を告げるユキに、スクは呆然と立ち竦むしかなかった。


「これが特異点の力……」


“ふっ、分かっていた。勝てる筈も無い事など……”


ーーだがせめて一太刀!


スクは刀を手に再びユキに斬り掛かった。


「底も知れた事ですし……送って差し上げます」


ユキは向かって来るスクに対し、居合いの構えを取る。


その鯉口から溢れるは光芒の煌めきーー


“神露ーー蒼天星霜”


――それは超神速の鞘引きから生じる鞘鳴りが音の壁を破り、ソニック・ブーム――所謂、超音速の衝撃波を生み出す。


※星霜剣奥義――神露・蒼天星霜。この技の正体は、不可視なる音の刃。ゆえに避ける事も防ぐ事も不可能。


そして何より、星霜剣の極意は特異能との複合にある。


音の刃に付加される極低温の冷気は、一瞬蒼白の光の奔流となって全てを呑み込み、轢き裂く凍牙となる。


「ぐあぁぁぁぁ!!!」


無数の切り口から鮮血を吹き上げながらスクは倒れ、その血はすぐに凍りついていく。


それでも諦めまいと振りかざしたスクの執念の一撃が、ユキの頬に小さな切り口を残していた。


切り口から一筋の血がユキの頬を伝う。


それを気にする事無く、無表情のまま刀を鞘に納め、倒れたスクを見下ろしていた。


「まっーーまだだ!」


スクは起き上がろうと試みるが、全身は既に凍結し、勝負有りである事は明らかであった。


「何をしても無駄ですよ」


ユキが冷酷に、死に逝く者への言葉を送る。


「全ての細胞が凍結崩壊し、後は全て無に還るだけです。全神経凍結により、せめて痛み無く逝くといいでしょう」


それはせめてもの情けか。かつての彼には考えられなかったもの。


“今更あがいても仕方ないか。少しでも力を削いでおきたかったが……”


「ふ……認めよう。私の負けだ。特異点、私の敵う相手では無かった……」


“最期に強敵との闘いで死ぬなら本望か”


「だが、この地やお前達における実態調査は全て本部へ報告済み。直属部隊の方々も動くだろう……ふふ」


スクは可笑しくて仕方なかった。


結果破れたとはいえ、自分の調査報告により、この地が終焉に向かう事を。


個人的な闘いには破れたが、狂座軍団長としては勝利した事の意味であった。


「お前がいかに強かろうが、所詮戦は数の論理。お前一人の力だけでは、我等の戦力差を埋める事は決して出来ん!」


スクの身体が凍結崩壊し、塵になっていく。


「先に地獄で待っている」


それが塵となって消え逝く、スクの最後の言葉だった。


「……先に逝っててください」


ユキは塵になって、夜空に四散していくスクを見据え思う。


「地獄……か」


“私は自分がしてきた事を、無かった事にしようとは思わない”


“この報いは受けます……必ず”


ーーでもその時が来るまで、命の限りアミを守り抜く。


世の中がどうなってもいい。


だがアミだけは必ずーー


「それが私の存在意義なのだから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...