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第5章 仮初めの日常
三話 寝る事の意味
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辺りの光も消え、静寂な闇が訪れる。
誰もが眠りにつく時間帯。
ユキは刀、雪一文字を抱き包む様に、部屋の外を眺めていた。
「まだ……寝ないの?」
奥の部屋に布団を敷いているのだが、いつまで経っても寝ようとしないユキに、アミは心配して声をかける。
「夜というのが一番危ない。寝込みを襲われたらそれまでですからね……」
実に理が適っている。
敵が何時此処に侵入してくるかは分からない。
「でもそろそろ寝ないと、身体が持たないわよ……」
「心配はいりません。時が来れば休みます」
彼女はユキを強引に布団に連れて行こうと思ったが、多分テコでも動かないつもりだろう。
何よりアミの方も睡魔が限界に来ていた。
「ちゃんと休む事、いい?」
「はい……」
返事こそしたが、布団で休むつもりはないのだろう。
アミはそれでも最後に『おやすみ』と呟いて、布団の中に潜り込んでいた。
再び訪れる静寂。
ユキは眠るつもりがないのか、ただただ座り込んでいた。
「寝る……か」
呟く微笑。
それは寝る事に何の意味があるのか――
睡魔という生理的現象?
はたまた体力回復?
その全てに意味があって、実は無駄で無意味だという事に――
ユキはこれまでの事を思い返していた。
四死刀と共に戦場を駆け抜けた日々の事を。
何の因果かこの地へ流れ着き、四死刀の不倶載天の敵“狂座”と闘う事になった事。
彼に迷いや恐れは無かった。
それがその名を受け継いだ、否この世に生まれた時から定められた宿命(さだめ)。
ふと彼はアミが語っていた“命”の事を思い出す。
“私はこれまで多くの命を奪い、今を生きている。そしてこれからも――”
戦場や闘いにおいて、奪う事を躊躇う事は、即ち死に直結する。
殺される前に殺す。生きる為に奪う。
だからこそ、ユキは彼女の言葉の意味を理解する事が出来なかったのだ。
自分が死ぬ事に恐れは無かった。
むしろ、いつ死んでもいいと――
“特異点。それはこの世に存在してはならない存在”
月明かりが照らされた静寂な闇の中、彼は一人自虐的に微笑していた。
辺りの光も消え、静寂な闇が訪れる。
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「夜というのが一番危ない。寝込みを襲われたらそれまでですからね……」
実に理が適っている。
敵が何時此処に侵入してくるかは分からない。
「でもそろそろ寝ないと、身体が持たないわよ……」
「心配はいりません。時が来れば休みます」
彼女はユキを強引に布団に連れて行こうと思ったが、多分テコでも動かないつもりだろう。
何よりアミの方も睡魔が限界に来ていた。
「ちゃんと休む事、いい?」
「はい……」
返事こそしたが、布団で休むつもりはないのだろう。
アミはそれでも最後に『おやすみ』と呟いて、布団の中に潜り込んでいた。
再び訪れる静寂。
ユキは眠るつもりがないのか、ただただ座り込んでいた。
「寝る……か」
呟く微笑。
それは寝る事に何の意味があるのか――
睡魔という生理的現象?
はたまた体力回復?
その全てに意味があって、実は無駄で無意味だという事に――
ユキはこれまでの事を思い返していた。
四死刀と共に戦場を駆け抜けた日々の事を。
何の因果かこの地へ流れ着き、四死刀の不倶載天の敵“狂座”と闘う事になった事。
彼に迷いや恐れは無かった。
それがその名を受け継いだ、否この世に生まれた時から定められた宿命(さだめ)。
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“私はこれまで多くの命を奪い、今を生きている。そしてこれからも――”
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殺される前に殺す。生きる為に奪う。
だからこそ、ユキは彼女の言葉の意味を理解する事が出来なかったのだ。
自分が死ぬ事に恐れは無かった。
むしろ、いつ死んでもいいと――
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