雫 -SIZUKU- 最終特異少年戦記~序

ユキナ

文字の大きさ
上 下
26 / 99
第5章 仮初めの日常

二話 食事の意味

しおりを挟む
――その日の夜。アミは料理を作る為に腕を振るっていた。


それはとても楽しそうに。


妹が修業の旅に出ているので、こうして誰かと食事を取るのは随分久しぶりだからだ。


何かもう一人の家族が出来たような、そんな風に感じていた。


アミが作ったのは、山の幸をふんだんに使った鍋料理だ。


そろそろ冬が訪れるこの季節に、温かい鍋は身体の芯まで暖まる。


それをユキは黙々と口に運ぶ。


あまりにも表情表現が乏しいので、旨いのかまずいのか、その表情から伺う事が出来ない。


「ユキ……美味しい?」


アミは恐る恐る聞いてみる。


やっぱりここは感想は聞きたい処。


まずいならハッキリと言ってくれた方が、次は美味しく出来る様、次への励みになるからだ。


“――あの子はいつも美味しい美味しいって言ってたなぁ……”


彼女はふと、その頃の事を思い返していた。


黙々と鍋を口に運んでいたユキは、そっと箸を置く。


「旨いとかまずいとか、そんな事どうでもいいではないですか?」


おかしな事を聞くものだと思った。


食事なんていうのは、口に入って腹を満たすだけの行為。


だからこそ、彼女が何故そんな事を聞くのか、彼には分からなかったのだ。


アミはそんな彼の返答に、少し悲しそうな表情をしたが、すぐに笑顔をユキに向ける。


「そんな悲しい事言わないの」


それは決して怒ってる訳でも、なだめてる訳でも無い。


「食事は楽しんで食べないと、どんな美味しい料理も美味しくないのよ」


美味しいでもまずいでもなく――


“どうでもいい”


それはつまり、食する事の楽しみを放棄しているという事。


それは余りにも普通とはかけ離れた考え方。


彼女は別段、料理の腕に自信がある訳ではなかったが、それでも彼にその楽しみを感じて貰いたかったからこその。


「口に入り腹を満たす。それでいいではないですか?」


ただそれだけの事。ごく自然な生理的現象を、どう楽しめと言うのだろう? それがユキの出した応え。


それでもアミは優しく語り掛ける。


「私達は生きてるものを食べていかなければ生きていけないの。食べるものは全て命があるのよ。私達は命を紡いで生きている。だからこそ命への感謝の気持ちを忘れては駄目」


彼女の言葉の意味が理解出来ないかの様に、ユキは「はぁ……」と溜め息を吐く様に受け流す。


“今度は命への感謝の気持ち?”


これには更に理解に苦しんだ。


“死んだ動物は只の蛋白質の塊なだけ”


それだけの事なのに、何故そこまで? という気持ちを――


「ユキ! ちゃんと聞いてる?」


「えっ!? ああ、はい……一応……」


“どうも調子が狂う――”


その後も彼女の優しくも厳しい説教は、しばらく続いていたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...