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第5章 仮初めの日常

二話 食事の意味

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――その日の夜。アミは料理を作る為に腕を振るっていた。


それはとても楽しそうに。


妹が修業の旅に出ているので、こうして誰かと食事を取るのは随分久しぶりだからだ。


何かもう一人の家族が出来たような、そんな風に感じていた。


アミが作ったのは、山の幸をふんだんに使った鍋料理だ。


そろそろ冬が訪れるこの季節に、温かい鍋は身体の芯まで暖まる。


それをユキは黙々と口に運ぶ。


あまりにも表情表現が乏しいので、旨いのかまずいのか、その表情から伺う事が出来ない。


「ユキ……美味しい?」


アミは恐る恐る聞いてみる。


やっぱりここは感想は聞きたい処。


まずいならハッキリと言ってくれた方が、次は美味しく出来る様、次への励みになるからだ。


“――あの子はいつも美味しい美味しいって言ってたなぁ……”


彼女はふと、その頃の事を思い返していた。


黙々と鍋を口に運んでいたユキは、そっと箸を置く。


「旨いとかまずいとか、そんな事どうでもいいではないですか?」


おかしな事を聞くものだと思った。


食事なんていうのは、口に入って腹を満たすだけの行為。


だからこそ、彼女が何故そんな事を聞くのか、彼には分からなかったのだ。


アミはそんな彼の返答に、少し悲しそうな表情をしたが、すぐに笑顔をユキに向ける。


「そんな悲しい事言わないの」


それは決して怒ってる訳でも、なだめてる訳でも無い。


「食事は楽しんで食べないと、どんな美味しい料理も美味しくないのよ」


美味しいでもまずいでもなく――


“どうでもいい”


それはつまり、食する事の楽しみを放棄しているという事。


それは余りにも普通とはかけ離れた考え方。


彼女は別段、料理の腕に自信がある訳ではなかったが、それでも彼にその楽しみを感じて貰いたかったからこその。


「口に入り腹を満たす。それでいいではないですか?」


ただそれだけの事。ごく自然な生理的現象を、どう楽しめと言うのだろう? それがユキの出した応え。


それでもアミは優しく語り掛ける。


「私達は生きてるものを食べていかなければ生きていけないの。食べるものは全て命があるのよ。私達は命を紡いで生きている。だからこそ命への感謝の気持ちを忘れては駄目」


彼女の言葉の意味が理解出来ないかの様に、ユキは「はぁ……」と溜め息を吐く様に受け流す。


“今度は命への感謝の気持ち?”


これには更に理解に苦しんだ。


“死んだ動物は只の蛋白質の塊なだけ”


それだけの事なのに、何故そこまで? という気持ちを――


「ユキ! ちゃんと聞いてる?」


「えっ!? ああ、はい……一応……」


“どうも調子が狂う――”


その後も彼女の優しくも厳しい説教は、しばらく続いていたのは言うまでもない。
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