雫 -SIZUKU- 最終特異少年戦記~序

ユキナ

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第4章 狂座

二話 当主直属部隊

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「師団では少し役不足だったか……。なら幾つか軍団を投入すれば早く片が付くんじゃないか?」


そう意見したのはアザミだ。


位階制である狂座。軍団は師団の一つ上の階級となっており、規模も戦力も違う。


各々に軍団を束ねているのは、軍団長と呼ばれる者達で、各々の実力は想像を絶する。


アザミの言う通り、軍団を投入すれば一国をも軽く落とせる程の――


「それがそう簡単な話じゃ無いみたいなんですよアザミ」


だがハルは厄介事を抱えた様な、何か気難しい声と共に溜め息を吐いた。


「夜摩一族と交戦したと思われるシオンは、その生体反応が消失する直前に、彼のサーモが裏コードに移行した形跡が記録されているのです」


ハルのその言葉に、直属達に一気に緊張が走る。


「なん……だと?」



“裏コード移行”


その言葉の持つ意味がどの様な事態なのか、その場に居る者達には深い程に理解していた。


「それって……臨界突破って事だよね?」


それまで無邪気だったユーリの表情が真顔になる。


「サーモの故障じゃないのか? 人間界にそんなの存在するはずが……」


そこまで言って、アザミはハッと気付く。


「まさか特異点が!? 四死刀は三年前に壊滅したはず?」


“特異点”


それは人で在って人で無き存在。


人知を超越した存在。


人として生まれながら、人には持ち得ない異能を生まれながら持っている存在。


彼等の間でも、そうした者を特異点と呼んでいる。


調査の段階で過去、現在と合わせても特異点の存在が判明したのは、現時点で四死刀と呼ばれた四人のみ。


「四死刀が現在、存在しないのは確かでしょう。しかし四死刀の一人“魂縛のキリト”が夜摩一族所縁の者という事を考えればもしや……。特異点の存在も有り得ない話ではありません」


ハルはその最も考えられる可能性を口にする。


だとすると――


「それが確かなら、無策に軍団を投入するのは得策では無いな……」


ルヅキが冷静を装いながらも苛々した口調で語る。


「四死刀との闘いで我々狂座は三人の直属に、二十二もの軍団及び六七もの師団を失っている。冥王様復活の前に、なるべくこれ以上の戦力減少は避けたい処だ……」


ルヅキが昔を思い出したのか、深い溜め息をつく。かつては7人の直属に、48の軍団と118の師団。それが現在は半壊しているという現実に。


「事の真意がはっきりするまで、念入りな調査が必要だな」


狂座の当初の目的は変わらないが、方向は大きく軌道修正する事になる。


『簡単に目的を達成出来るはずだったのに』


ルヅキは言い知れぬ苛立ちを感じていた。


「やっぱり楽しくなってきたね★」


ユーリがいつもの無邪気な笑顔に戻る。


「ユーリ、お前なぁ……」


ユーリの無邪気さにアザミは呆れ顔だ。


「だってボク達に匹敵、もしかしたらそれ以上かもしれない奴がいるって事だよ☆ ワクワクしてくるじゃん★ 退屈してたんだぁ☆」


ユーリの言葉の意味に、ルヅキはある想いに耽る。


『退屈か……』


それはかつて、冥王が常に言っていた言葉。


だからこそ狂座は、退屈凌ぎにこの世界を蹂躙する。


冥王の喜びこそが狂座の喜びでもあるからだ。


必ずや再び此所へ復活させんと――


ルヅキは深い決意を胸に、広間を後にしたのだった。
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