雫 -SIZUKU- 最終特異少年戦記~序

ユキナ

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第2章 対峙

七話 異彩色魔眼の死神

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「そんな馬鹿なっ!!」


サーモに表示された数値を見て、シオンは悲鳴にも似た声を張り上げた。


これは絶対に有り得ない数値。


侍レベルとは生体数値の事。これは生体に定められた法によって、その絶対上限は『99.99%』までと定められている。


何人たりとも、この法を侵す事は出来ない。


もし有り得るなら――


法を超越した存在。


“臨界突破者”


それはレベル上限を超えた者の総称。


狂座に於いては冥王に次ぐ存在。


“当主直属部隊”


冥王不在に代わり、現在の狂座を仕切る方々――


「まさか……?」


そして――


狂座の不倶戴天の敵である、四死刀と呼ばれた特異点達。


シオンは今一度少年を見据え、確認する。


白銀色の髪と銀色の瞳。


特異点の特徴は“異彩色魔眼”とされる瞳と、それに呼応する毛髪がその証。


そしてレベル上限超えの事実から推測する、その答を――


“四死刀に生き残りがいた!?”


だが四死刀は三年前に、全員死亡したとされている。


これは報告書で知った事。シオンは当時、別任務に赴いていた為、四死刀の事は書類上の事でしか知らなかったのだ。


今、眼前に居る人物がそれだとすると――


“勝てる訳が無い!!”


シオンは背を向け駆け出す。


一刻も早くこの場より逃走せねばならない。そして本部へ、この事態を伝達。


レベルの開きはおよそ倍、と云った問題のレベルでは無い。


『99.99%』と臨界突破との間には、それ程までに越えられぬ壁が有る事を――


「良い判断です……」


駆け足で逃走していくシオンの背を、少年は見送るかの様に。


しかし集落の者にとっては、そうはいかない。


“このままでは逃げられてしまう!”


それは由々しき事態。次は集団でやってくるだろう。


だが、今更追い掛けても間に合わない。


「まあ……逃がすつもりはありませんけどね」


少年は左親指で手に持つ刀の鯉口を切り、右手を柄に添える。


今更刀を抜いた処で、どうしようというのか?


既にシオンと少年との距離は、十メートル以上も離れていた。


「……神露(かむろ) 蒼天星霜――」


刹那、切った鯉口の刀身の狭間より、蒼白い輝きが溢れ煌めく。


一瞬で空気が震撼。流星の如く煌めく光芒が幾多にも少年より放たれるのを見た。


しかし、抜いた瞬間は見えない。傍目には抜こうとした瞬間、蒼白い輝きが見えただけだ。


「――ひぃっ!?」


背を向けて駆けていたシオンは異常に気付き、振り向き様に情けない嗚咽を漏らした。


その瞳は恐怖の瞬間を映し出し――


『!!!!!!!』


そして、確かに見た。


大幅に離れている筈のシオンの五体が、一瞬で多数に分断されていたのを。


どうやってあの距離から斬ったのか分かる筈もないし、その現象は理解を超えていた。


そして幾多にも分離したシオンの躰だったモノは、即座に凍結し、氷の塵となって辺りに霧散していく。


「…………」


少年はその凄絶な末路を、柄に右手を添えたまま、銀色に輝くも冷めた瞳で見送っていた。


その姿に誰もが思う。声すら出せない。


其処に居るのは紛れもない、美しくも冷酷な死神の姿だと――
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