雫 -SIZUKU- 最終特異少年戦記~序

ユキナ

文字の大きさ
上 下
17 / 99
第2章 対峙

五話 少年の異質

しおりを挟む
「……アイスフルーレ」


シオンは氷で形成されたレイピアを、誇らしげに少年へと向ける。


「狂座に属する者は高い戦闘能力のみならず、高位の者は皆特殊な能力の遣い手。私は氷の力を自在に操れるのです」


シオンの余裕の意味はこれだった。


それにしても、狂座という恐るべき遣い手達に、誰もが震撼する。


国が滅亡の危機に陥ったの当然。狂座は皆が、人外の力を持った者の集まりなのだ。


“アミですら勝てぬ者に、この少年が勝てる訳が無い!”


「……それで? だから何ですか? つまらない力です」


それでも尚、この少年には微塵の動揺すら感じられない。


思えば審議の時から、その態度は一線を画していた。


「フフフ……よくもまあ、自分の分際も顧みず。少し可哀想になってきました」


シオンも不敵。少年の真の実力が分かっているからだ。


気をつけるのは日本刀による、奇跡のまぐれ当たり。


奇跡は二度起きないから奇跡というのだが、シオンは万全を期す。


「――っ!?」


“万が一の可能性さえ潰す”


突如少年の足下から、アミが捉えられているのと同様に、氷が彼の両足を固め始めた。


先程のアミの動きを止めたのは、シオンの氷の力に依るもの。


「私は用心深い。君がゴミ以下でもね」


シオンは更に、少年の持つ刀の唾元まで凍らせていた。


氷で固められて、これでは刀を抜く事すら出来ない。


避けるのも無理。迎え撃つのも無理。


「何? これで勝ったつもりですか?」


凍結している己の身体を、全く気にもしていない。


「知らないというのは、ある意味幸せなのかも知れないね……。じゃあ、さよなら!」


これ以上の焦らしは可哀想だと。


一瞬で楽にしてやるが情けというもの。


シオンは少年へ向けて突きを見舞う。


“――最速の刺突で……終わりだ!”


迫り来る氷の刃に、全く動く素振りすら見せない。


「――やめてぇぇっ!!」


アミの悲痛な叫びが木霊する頃には、その突きは既に少年の顔面に届いていた。


少年の額は貫かれ、貫通した頭部より血煙が舞う――


筈だった。


「……んなっ!?」


右手を突き出したまま、驚愕に目を見開いた怪訝そうなシオンの表情を。


氷のレイピアは少年を貫く処か、その直前で止まっていた。


“――ば……馬鹿なっ! コイツ……素手で掴みやがっただと!?”


少年は何事も無かったかの様に、そのか細い右手でその刀身を掴んでいた。


シオンが驚愕に戸惑うのも無理はない。


音速を超える己の刺突に反応、というより掴んで止められる代物ではないはず――その事実に。


摩擦と抵抗力を超える物理的な力。これはまぐれやタイミングでは有り得ない。


“それをこの只の少年が?”


刹那、シオンを更なる驚愕に陥れる事態が――


「馬鹿なっ!?」


梃子の原理かは分からない。


少年が軽く右手を捻ったかの様に見えた瞬間、その氷の刀身は脆くも脛元から折れていたのだ。


「ぐっ!!」


得体の知れぬ危機的本能を察知したのか、シオンは瞬間的に少年から大幅に距離を取る。


それに対し少年は折れた氷の刀身を、無造作に横に放り捨てていた。


地に墜ちた刀身は“パリン”と音を発てて、硝子細工が砕けた様に辺りに霧散する。


“――有り得ない……”


シオンは柄のみとなった、折れた刀身を見詰め思う。


これは只の氷では無い。異能によって固められた物。その強度は鉄製を上回る。


「……所詮アナタの力は後天性異能。こんな児戯にも等しい力で私は殺せない」


少年はさも当然とも云わんばかりに、戸惑うシオンへ向けて馬鹿にした様に言い放つ。


「なん……だと?」


言っている意味が分からない。もう一度サーモで確認するが――


やはり少年の侍レベルは『5%』で表示されたまま。


狂座の最新技術による、サーモの生体測定反応は正確無比。


「何故だっ!?」


やはり理解出来ない。侍レベル『5%』という数値は、武力を持たない常人にも等しい生体数値。


「そんな玩具に頼りきっているから、見えるものまで見えなくなってしまうんですよ」


見えるもの? 機械の数値が全て。生体に定められた不変の法。相克によって擬装は不可。


「そんな馬鹿なアナタにも分かりやすい“形”で教えなければ、分からないみたいですね。これでいくら馬鹿のアナタでも理解出来るでしょう」


少年が右手を翳した瞬間、それまでアミも含め、自身を縛っていた氷が一瞬で消える。


「氷が……消えた?」


彼女も何が起きたのか分からない。


だが、この少年に依る力で在る事は理解出来た。


「貴様! 何をした!?」


もはやシオンに余裕は無い。その紳士的な口調にまで綻びが生じている。


「まだ理解出来ないアナタは、はっきり言って二流以下の愚物。ああ……だからか――」


その侮辱にシオンのこめかみに血栓が浮かび上がる。


少年は薄笑いを浮かべながら止まらない。


「だからそんな陳腐な組織でも、師団長止まりなんですね」


これには切れた。図星、気にしていた事をあっさりと述べた少年に。


「こ……この餓鬼!」


“――殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!”


「――殺してやるよこの糞餓鬼がぁっ!!」


シオンは再び氷の剣を形成し、怒りに任せて少年へ突進。


最早そこに紳士の面影は何処にも無い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

ヒーローズエイト〜神に選ばれし8人の戦士達による新八犬伝最強救世主伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
「アークスレイヤー」という悪の組織が、次々と多くの次元を侵略し、滅ぼしていくという危機的な状況が発生。 全ての次元が彼らによって占拠される前に立ち向かうため、神々のリーダーであるカーンは8人の戦士を集める事を神々達に説明。彼等はそれぞれの選ばれし戦士達を探しに向かい出した。 そんな中、プロレスラーを目指すサラリーマンの東零夜は、夢の中で幼馴染のダンサーの春川ミミ、女優レスラーの藍原倫子、歌のお姉さんの国重ヒカリ、ワーウルフのエヴァ、エルフのアミリス、竜人のソニア、転生偉人のジャンヌ、そして女神メディアと出会う。彼等はアークスレイヤーに立ち向かい、次元を救うための壮大な冒険に旅立つのだった…… 南総里見八犬伝を元にしたハイファンタジーバトル。神に選ばれた8人の戦士達が、様々な力を駆使しながら、仲間達と共にアークスレイヤーとの壮絶な戦いに挑む。 果たして彼らはアークスレイヤーを倒し、次元を救うことができるのか?エキサイティングなファンタジーアドベンチャー、開幕! ※なろう、Nolaノベルでも作品を投稿しましたので、宜しくお願いします! 宣伝用Twitter https://twitter.com/@Souen_Gekka

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

処理中です...