雫 -SIZUKU- 最終特異少年戦記~序

ユキナ

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第2章 対峙

三話 勧誘

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「素晴らしい数値だ……エクセレンッ!」


“ーーっ!?”


突然のシオンの感銘に、アミは戸惑いを隠せなかった。


それは攻撃に躊躇する程の。


「ああ失礼。貴女は素晴らしい強さをお持ちで。どうです? 狂座へ入隊してみませんか?」


と、いきなりの勧誘。


「なっ……何を?」


流石にこれには彼女も、冗談か真か探りあぐねているみたいだ。


「冗談と思っているみたいですが、狂座の規準は強さのみ。貴女には充分その資格が有ります」


これは先程の侍レベルとやらに関係があるのか?


狂座は敵の筈。だがこの勧誘紛いには、誰もが唖然とするしかない。


「いえね、三年前の四死刀との闘いで、狂座は慢性的な人手不足に陥ってしまいまして……。おかげで私は探索師団まで両任する事になってしまってね……」


シオンは過去を振り返り、今現在の狂座の現状を語り出す。


「給金は変わらないのにこの仕打ち……。これは労働基準法違反ですよ!」


己の所属する狂座への不満を、熱くぶちまけるシオン。だが聞き覚えの無い言葉の羅列に、皆は理解出来よう筈がなかった。


この間、彼は隙だらけなのだが、飄々としている割りには、一分の隙さえ見当たらない。


「そこで貴女には是非私の後釜を! 貴女程のレベルなら、私も自信を持って師団長への推薦が出来ます。本部からもすぐ許可が下りるでしょう」


理論的な事を語っている様に見えるが、とどのつまり、面倒事の押し付けとさえ云えた。


「冗談じゃないわ! 誰が狂座なんかに!!」


彼女の応えは勿論、痛烈な否定だ。


三年前にこの国で殺戮の限りを尽くした、この狂座という筆舌し難い組織の事を、アミのみならず誰もが忘れられぬ筈がない。


「……それは残念。では仕方無い。お相手しましょうか」


どちらでも良かったのだろう。アミが受け入れるならそれで良し。断るなら殺すのみ。


即座に切り替えたシオンは、腰から剣を抜き放ち、切っ先を水平に向けて斜に構える。それはこの国では見ない、独特の構えだった。


アミも懐剣を逆手に構える。


それにしても、細長い剣だった。


シオンの持つ得物は日本刀とは違い、反りの無い直刀。


およそ“斬る”には不自由な――


「これはレイピアという武器でしてね。見ての通り、斬るには向きませんが、反りの無い直刃は絶大な貫通力を生み出します」


“レイピア?”


やはり聞いた事の無い武器だった。


得体が知れない以上、正面からは危険と。


「参考までに。貴女の侍レベルは約六十八。これは本当に素晴らしい数値ですよ。歴代に名を列ねる、剣豪と呼ばれた者達に比肩するのですから……」


そう言われても、やはりピンと来ない。


だがアミの強さは誰もが知る処だ。今この場で狂座に対抗出来ようなのは、彼女以外居ないであろう事も。


「ちなみに私の侍レベルは約七十八です。その差は少ないと思いでしょう?」


それは一縷の希望とも言える数値だった。


自分からネタばらししたのは好都合。


確かにシオンの方が、恐らくアミより強いであろう事は、誰もが薄々ながらに感じ取ってはいた。


だが決して“勝てない相手”では無い事を――


「だがその差がどれ程重いのかを、貴女は身を以て思い知る事になる……。そして狂座の持つ、本当の恐ろしさを――」


その一言を最後に、場の空気と間合いが張り詰めていく。


「…………」


そして、それが一気に切り裂かれた。


『――っ!?』


瞬時に間を詰めたアミは、シオンの前方位からではなく、左側面より回り込み刃を振るう。


レイピアという武器の特性上、攻撃は突きに重点を置かれている。


ならば側面への攻撃、及び側面からの攻撃には弱い――


刹那、金属と金属がぶつかり合った衝撃音が響き渡る。


「ちいっ!!」


狙い通り。シオンの反撃は無い。レイピアを縦に、アミの横薙ぎを止めるので精一杯だった。


続けざま追撃。瞬時の両側面からの斬撃に防戦一方。


その流麗の如き剣舞、正に電光石火。


その勇ましくも華麗な姿に、思わず魅入られてしまう程の――


『まさか、これ程とは!』


その横の動きについていけないが、全てを捌くシオンも流石だ。


だが避けきれなかったのか、遂に左頬に刃を受けた。


一筋の赤が線となり、雫が溢れ落ちる。


目が追い付かない攻防だが、アミが押しているのは誰の目からも明らかだ。


“勝てる!”


彼女が全身のバネを駆使した、全霊の逆袈裟がシオンを捉え、その固めた防御ごと後方まで弾き飛ばした。


「――うおぁっ!!」


その衝撃は居間内の襖を、本人ごと外まで突き抜ける程の――


「強い……」


その攻防の一部始終を黙視していた少年の呟きは、闘いの喧騒に紛れ、誰にも聞こえるよしはなかった。
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