12 / 99
第1章 邂逅
十一話 会敵
しおりを挟む「私には……出来ません」
それは、はっきりとした拒否の顕れ。即ち掟に背くと同義。
「何を馬鹿な事を!」
当然の如く批難の声が上がった。
「私にはどうしてもこの子が狂座とも、此処に害成す者とも思えません! どうか今暫くの時間を頂けませんか?」
だがアミはしっかりと周りを見据えて、そう言い放つ。その決意は堅い。
ただ、この少年がユキヤという名である事は、敢えて言わなかった。
彼女はどうしても、この少年を助けたかったのだ。
可哀想でも、ましてや自分の手を汚したくなかったからでも無い。
どんな理由が有ろうとも、命とは尊いものである事。それを簡単に投げ出す様な考えが有って良いはずがないと。
「じゃが掟は掟じゃぞ。狂座の者では無いという証拠もあるまい」
「しかもあの刀といい、あの落ち着き具合といい、どう見ても普通じゃない」
しかし皆、鉄の戒めに縛られている。長老に続き、周りに居る男の一人もそう言い放つのは、疑っているのは勿論、狂座に関係無く外敵排除の一点、それのみか?
「結局どうするんです? 殺らないならそれも構いません。借りは別の形という事で……」
言い争いでは無いが、少年は面倒臭そうに口を挟む。
当事者にも関わらず、上の空なのか話を聞いていないのか、その口振りから心底どちらでも良いのだろう。
「貴様! 何を勝手な事を!」
少年の憮然とした態度に、周りから怒号の声が上がるが、そんな事は彼にとって知った事ではない。
「狂座の者を、というより外敵排除というアナタ方の方針は分かりました。とはいえ……」
周りの声等、まるで無視。
これにて審議は終了、とばかりに話を進めていく。このままでは埒があかない。
少年は思うーー
“それに、いい加減退屈していた処です。この茶番劇に――”
「先程から其処に居るんですが……。無関係という訳でも無さそうですし、折角ですので御登場して貰いましょう」
彼が向けた視線の先。
「突然何を!?」
在るのは木造の壁だけだ。
誰もが皆、“何を馬鹿な”と怪訝の表情を浮かべ、其処に視線を集めるが、やはり何も無い。
だが少年の視線は確かに、何も無い壁へと向けられている。
“何をいい加減な事を!”と口に出そうとした刹那――
「……気配は消していたのだがな」
確かに壁から聞こえた、突然の第一声。
「なっ!?」
「誰だ!?」
壁からの突然の声に、次々と威嚇の怒声が上がる。
そして確かに見た。
まるで木造をすり抜ける様に、壁が壁として機能していないかの様な、自然と違和感無く姿を現した者を。
それは、はっきりとした拒否の顕れ。即ち掟に背くと同義。
「何を馬鹿な事を!」
当然の如く批難の声が上がった。
「私にはどうしてもこの子が狂座とも、此処に害成す者とも思えません! どうか今暫くの時間を頂けませんか?」
だがアミはしっかりと周りを見据えて、そう言い放つ。その決意は堅い。
ただ、この少年がユキヤという名である事は、敢えて言わなかった。
彼女はどうしても、この少年を助けたかったのだ。
可哀想でも、ましてや自分の手を汚したくなかったからでも無い。
どんな理由が有ろうとも、命とは尊いものである事。それを簡単に投げ出す様な考えが有って良いはずがないと。
「じゃが掟は掟じゃぞ。狂座の者では無いという証拠もあるまい」
「しかもあの刀といい、あの落ち着き具合といい、どう見ても普通じゃない」
しかし皆、鉄の戒めに縛られている。長老に続き、周りに居る男の一人もそう言い放つのは、疑っているのは勿論、狂座に関係無く外敵排除の一点、それのみか?
「結局どうするんです? 殺らないならそれも構いません。借りは別の形という事で……」
言い争いでは無いが、少年は面倒臭そうに口を挟む。
当事者にも関わらず、上の空なのか話を聞いていないのか、その口振りから心底どちらでも良いのだろう。
「貴様! 何を勝手な事を!」
少年の憮然とした態度に、周りから怒号の声が上がるが、そんな事は彼にとって知った事ではない。
「狂座の者を、というより外敵排除というアナタ方の方針は分かりました。とはいえ……」
周りの声等、まるで無視。
これにて審議は終了、とばかりに話を進めていく。このままでは埒があかない。
少年は思うーー
“それに、いい加減退屈していた処です。この茶番劇に――”
「先程から其処に居るんですが……。無関係という訳でも無さそうですし、折角ですので御登場して貰いましょう」
彼が向けた視線の先。
「突然何を!?」
在るのは木造の壁だけだ。
誰もが皆、“何を馬鹿な”と怪訝の表情を浮かべ、其処に視線を集めるが、やはり何も無い。
だが少年の視線は確かに、何も無い壁へと向けられている。
“何をいい加減な事を!”と口に出そうとした刹那――
「……気配は消していたのだがな」
確かに壁から聞こえた、突然の第一声。
「なっ!?」
「誰だ!?」
壁からの突然の声に、次々と威嚇の怒声が上がる。
そして確かに見た。
まるで木造をすり抜ける様に、壁が壁として機能していないかの様な、自然と違和感無く姿を現した者を。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

Re;Birth
波多見錘
ファンタジー
交錯する二人の主人公の思い。それは約束のためにあるか、使命のためにあるか。
超能力を使えるようになるアプリを使用した悪事が横行する世界で2人の主人公は戦い続ける。誰かを守りたいという思いも、救いたいという思いもなかった。だが、彼らを囲む人たちが彼らの考えを変えていく。
ただの日常に浸食する影は、何気ない悪意から始まる。
なにも知らぬ者たちとすべてを知る者。主人公たちは、まだ夢を、願いを諦めることができなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる