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第1章 邂逅

九話 狂座

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「静かに!!」


長老の一言により、それまでざわめきだった流れが沈黙する。


「……ぎょ、御意」


それ程までに、此処での長老の言葉は絶対らしい。


その証拠に先程まで騒いでいた屈強なる者達全員が、腰を降ろし次なる言葉を待つ。


アミはこの場の、一先ずの収拾にほっと胸を撫で下ろした。


「まだ話は終わっておらぬ」


だが審議が終わった訳では無い。長老は今一度少年を見据え直した。


「お主が四死刀のユキヤとは人違いである事は分かった。じゃが、もう一つ重要な事がある」


確かに無理があるのは明らかだが、この少年がアミにだけはユキヤと名乗っている事に変わりは無い。


「ほう……それは?」


今度は少年にすぐの反応があった。むしろ本題としてそれを待っていたかの様に。


「先程言った様に、この国は四死刀が掌握していた事じゃろう……。だがっ!」


そう。現在は徳川の世が継続中。


では四死刀は何処へ? どうなったのか?


「四死刀の天下掌握が目前だった三年前。それ以上の、この世にとって未曾有の危機……」


この世にとって未曾有の危機。


しかしながら四死刀の存在も、この国にとって未曾有の危機の筈だ。


長老の語るそれは、三年前にそれ以上の何かが起きた事を意味する。


四死刀とも異なる脅威――


「……“狂座”についてじゃ」


その未曾有の危機なる存在の事を。


長老の発した狂座という聞き慣れぬ名称。


「三年前に突如とした現れた。この国の者とも違う、異国の者とも違う軍団が……」


誰もがその存在を知っている。痛感していた。


「何故この国に来たのか、目的も正体も分からぬ。じゃが四死刀の目的が天下取りとはっきりしていたのに対し、狂座はまるで違った……」


思い返す様に述べていく過去。


「狂座は訳も無く、この国で虐殺を始めたのじゃ。国全体がその犠牲となった。四死刀と同じく、その人知を超えた力を以て……な」


その力の前に、人々は無力だったのだろう。


長老の表情が悲痛に歪む。


「じゃが狂座が天下取りの邪魔となった四死刀は、ある境に狂座と真っ向から激突。天下を治めても、民が居ないのじゃ意味を成さないからな……」


つまりは四死刀と狂座が潰し合ったと。


「狂座の当主で冥王と呼ばれた者が四死刀に破れ、狂座は敗北。四死刀も全員が死亡したとされ、結果両者の共倒れで、この国に再び泰平の世が戻ったのじゃ」


それがこの国で起こった悲劇。そして真実。


ならば二つの脅威が同時に去って、現在の泰平の世、万々歳だろう。


なら何故、此処ではそこまでの危機を感じているのか?


この年場も無い少年にさえ。


「じゃが!」


その訳、重要な本題を語り始める。


「冥王は……狂座は決して滅んだ訳じゃないのじゃ」


そう。今の泰平の世は苟(かりそめ)だという事。


「そして我々は、冥王復活の鍵となる物を守り抜く一族。狂座の手からな……」


長老の言う事は事実。此処の者達は皆、常人とは異なる雰囲気を身に纏っていた。


「その為なら、あらゆる外敵を排除する。例外は無い」


とどのつまり、この少年を狂座の者と疑っている?


四死刀でも無いのなら、考えられる事は――


「お主は狂座の者……なのじゃろう?」


死亡したとされる四死刀のユキヤから、雪一文字の刀を奪った。


そう考えるのが妥当だろう。只の少年が持ち得る筈は無いからだ。


少年が肯定、否どちらにせよ処断は免れまい。外敵排除が此処の掟ならば。


長老の理に適った指摘に、場に暫し沈黙が訪れる。


誰もが少年の返答を静かに待つ。


場の空気が、抑えられた内なる殺気で痛くなる程の――


「……零点。余りの的外れさに、笑いを堪える此方の身にもなってください」


沈黙した空気を破る、少年の一言。それは、はっきりとした否定の顕れ。


我慢の限界にきたのか、少年はクスクスと笑みの声を漏らしていたのだった。
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