雫 -SIZUKU- 最終特異少年戦記~序

ユキナ

文字の大きさ
上 下
8 / 99
第1章 邂逅

七話 特異点

しおりを挟む

「四死刀の一人、星霜剣のユキヤと謂われた者のな」


その瞬間、一同に緊張が走り、場の空気が一気に張り詰めていく。


それと同時にアミも、雷がその身に落ちたかの様な衝撃を受けていた。


長老の発した言葉。


そしてこの少年から聞いたその名を。


“ユキヤと呼びます”


その事実を受け止めて尚、アミには信じられなかった。目の前の少年の正体の事に。


まだその名は此処では言ってない。もし正直に明かせばその時は。


“有無を言わさず殺されかねない”


しかしどうしても疑問が残る。


どう見ても幼過ぎるのだ。余りに伝承とは賭け離れている事を。



――実は少年だった?



「およそ五十年前、天下分け目の関ヶ原……」


疑惑に思考するアミを尻目に、長老が口を開いていく。


かつてこの国で起こった事。


その歴史の裏の真実を。


“関ヶ原の戦い”


慶長五年九月十五日、美濃国関ヶ原で行われた天下分け目の決戦の事。


東軍と西軍の二つに別れて雌雄を決し、大阪夏の陣を経て今の泰平の世に至る。


「今でこそ徳川の天下となっているのじゃが……」


それが正しい史実のはず。


「今より七年前、僅か四人で幕府転覆を謀った者達がいた」


だが表舞台には記されない真実。記してはならない裏の事変。


その場に居る誰もが沈黙。そして痛感している。


その忌まわしき存在を。


「人在らざる者。人知を超越した存在“特異点”とされた奴等は、天下を手中にせんが為、幕府を敵に回し戦った。あの四人の前では、如何なる軍勢も無力じゃった……」


何処か遠い目で、まるで体験したかの様に語っていく。


“特異点”


それは人として生まれながら、人在らざる力を持った者の総称。


文献によると特異点は陰陽師、退魔師、妖術師といった類いとは、また異なる存在とされる。


それらは修行や契約によって霊力、妖力を得たのに対し、特異点とは生まれながらに持ち得る存在。


忌み子、妖怪とも云われ、人が別種と交配した時に生まれるとされるが、それらは半妖人として区別するべきだろう。


何の因果も無い、正常な男女間で突如生まれる事があるのが特異点だ。


遺伝原子とはまた異なる、霊的分子が関与してると思われるが、特異点出生のメカニズムについては、今尚解明されていない。


「死しか生み出さない四人の死神。奴等は畏怖を込めてこう謳われた……“四死刀”と」


それは名称。四本の死を誘う刀を振るう者達。


「奴等はその人知を超えた力で各国を次々と制し、あのままでは間違いなく天下は掌握されていたじゃろう……」


だが長老のそれは過去形。世を治めているのは徳川である事に相違無い。


「その四死刀の一人、星霜剣のユキヤと云われた者が持っていたとされるのが、この雪一文字という刀」


長老は再度その刀を黙り込んだ少年へと向け、その真意を問う。


「まさか四死刀の一人が、この様な幼子だったとは儂も信じられぬが、この刀が何よりの証し」


一堂の視線が少年へと向けられる。


ある者は信じ難く、ある者は恐怖を。


だがその全てが敵意へと集約されていた。


もしこれらが事実だとすると、この場に人の皮を被った死神が居る事になる。


「嘘……」


確かにこの少年は自らを“ユキヤ”と名乗った。


その名が忌まわしき者の名である事は、勿論アミも知っているが、それでも彼女は信じられなかった。


此処での掟。外敵排除の使命。


このままでは間違いなく殺される。


「中々鋭い考察ですね……」


それまで黙していた少年が、突如口を開いた。


『駄目!』


自らの正体を明かそうとしている。


だがそれを言ってはいけない。


アミの声は言葉に成らず、心に木霊し内に消える。


「だがそれだけでは落第点ですよ。人違いです」


だがユキヤと名乗る少年は、はっきりと否定を示したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...