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第1章 邂逅

五話 審議

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「ユキ……ヤ?」


アミはユキヤと名乗った少年のそれを、引きつった表情でオウム返しに反芻する。


それはまるで聞き覚えがあるかの様な。しかし確信では無いし、記憶も定かでは無い事。


“ユキヤ”


しかし彼女の反応からして、その名は愉快な響きでは無さそうだ。


どちらかというと“忌み名”


禍々しき伝承。畏怖を以て伝えられた、その名を持つ者。


“いえ、きっと何かの間違い。何より――”


少女は目の前の少年を見据える。ユキヤと名乗り出たその少年を。


極めて感情を感じられないその深淵の瞳に、まるで雪の様に白い肌のこの少年は、明らかに雰囲気が一線を画してはいる。


“――まさか? でも……”


だが、この少年は余りにも幼過ぎていた。外見から判断で、まだ十をちょっと過ぎた位だろう。否、そうとしか見えない。


伝承とはあまりに賭け離れたその存在を。


「どうしましたか?」


暫く立ち竦む様に思考しているアミを、少年は不思議そうに見詰めている。


“これ以上は不審に思われるかも知れない”


「ううん、何でも無いの……」


アミはこれ以上深く考えるのを辞め、呼ばれたある場所へと歩を進めた。


そして少年もまた、黙ってアミの後ろを着いていく。


そんな姿に彼女は、このまま連れて行くべきか、少し不安になる。


そう。これはきっと何かの間違い。


“――この子はきっと偶然、森にさ迷ってしまっただけなのだろうから……”


ーー屋敷内を暫し進んでいき、アミはある部屋前で立ち、一呼吸置いて襖を開けて中に入り、少年もそれに続く。


「長老……」


そこは大広間の様で、周りには独特な白い民族衣装を纏う屈強な男達が十数名座っており、一斉に二人に目を向ける。


その視線の奥には、長老と呼ばれた人物が鎮座していた。


「連れて……参りました」


アミは皆にその主旨を伝え、広間の扉をそっと閉めた。


空気が重い。アミの表情まで沈んで見える。


大勢の視線は全てこの異質な少年に向けられており、その全てが殺気に近い敵意を込められていたからだ。


「御苦労じゃった」


長老らしき人物は奥で鎮座したままそう言い、男達は少年を囲む様に、長老の前に座らせた。


「……随分と重苦しい歓迎ですね。審議でも始まるのですか?」


このユキヤという少年は、この重苦しい雰囲気の中、少しも臆する素振りを見せない。


その表情は心無しか、クスリと笑っている様にも見える。


「まずはお主の目的を聞かせて貰おう」


長い白髭の齢七十を越えてそうな長老は、行儀良く正座している少年にそう問い掛けた。
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