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第3章 似て非なる者

六話 もう一人の特異点

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「な、何……今の?」


アミは悲鳴が飛び交う中、その惨劇に吐き気を堪える様、口を掌で抑える。その現状に今一つ考えが纏まらない。


一つだけ確かな事は、今まで奇跡的に出なかった“遂に犠牲者が出てしまった”という事。


「今のは……過度の血液膨張による、体積の限界破裂です」


横でその現状を、ユキは何時もの冷静さを欠いた口調で解説する。


アミはそれが如何なる事かを想像し、思わず身震いをした。


「全く最悪ですね。狂座より厄介な事になるかもしれません……」


ユキの横顔を見て、アミは思わず目を疑った。


“――ユキがそこまで言うなんて……”


彼の額からは、一筋の冷汗が流れ落ちていたのだから。


彼女は少なくとも、ここまで焦るユキをそうそう見た事は無い。


思い起こせば、それはアザミとの闘い以来の事。


アミにとっても、あの蒼髪の人物がとてつもなく危険で在ろう事は、一見しただけで理解出来た。


“――でも、さっきユキの言ってた“狂座より厄介゛な事って?”


そう、間違いなくこの二人は、お互いがお互いを知っている。アミがそう考えあぐねていた時、突如ユキが声を張り上げた。


「死にたくなければ全員、今すぐ此処から離れてください!!」


それは何時もの冷静な彼とは思えない程の、焦りにも似た叫び声だった。


それでも腰を抜かしている者、恐れ怯える者多数で中々その場は収まらない。


「ミオ! 何をしているんです!?  早く其処から離れるんです!!」


ユキは急ぎミオへ発破を掛ける。とはいえ、ミオも恐怖と目の前で起きた惨劇により、腰を抜かして身体が思う様に動かせない。


そんなユキの言葉を嘲笑うかの様に、蒼髪の男はミオの肩へと手を伸ばす。


「やめてぇ!!」


訪れようとする惨劇。響き渡るアミの悲鳴。


だがーー


「ご苦労だったね、お嬢ちゃん。さあ向こうに戻りな」


蒼髪の男はミオの肩を掴んで立たせ、彼等の下へ戻るよう促す。


「アミ! 今です!」


ユキの言葉にアミは瞬時にミオの下へ駆け寄り、妹を抱き寄せたまま即座にその場から離れる。


その間、蒼髪の男は特に二人に手出しする素振りも無く、ただユキのみを見据えていた。


「姉様……ユキ……」


二人の下に戻ったミオは、アミの胸の中で小刻みに震え続け、その表情は恐怖の余り蒼白に引きつっていた。


「ミオ……良かった」


アミは無事だったミオを、きつく抱きしめ安堵する。


「ユキ、あの人は一体何者なの? 狂座……じゃないよね? それにあの力……」


血液を意図的に膨張させるなんて、ただ事では無い。一つだけ分かるのは、それはとてもおぞましく、恐るべき力だという事。


アミの疑問にユキは蒼髪の男を見据えたまま、そっと口を開く。


「奴は狂座の者ではありませんよ。それにあの力は、奴の能力のほんの一部に過ぎません……」


相手の血液を膨張させるだけでも、恐るべき力であろう。それでも恐るべきはそれだけではないと言わんばかりに、彼は衝撃の事実を口にする。


「奴は血液は疎か、あらゆる水分を意のままに操る特異能ーー“獄水”を持つ特異点が一人……」


「特異能? 特異点! じゃあ、あの人は……ユキと同じ?」


アミも言われて気付いた。ユキと何処か雰囲気が似ている事に。


「久しいなぁ、ユキヤよ」


蒼髪の男が感慨深そうに、ユキへ向けて口を開く。


「久し振りですね。二度と会いたくないと思っていましたが、何しに来たんですか?」


ユキも前に歩みながら、蒼髪の男へ向けて口を開いた。


場の雰囲気は凍りつき、空気が張り詰めていく。


「ーー特異点。“血痕゛のシグレ……」
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