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三の罪状

氷傀儡

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「てっ……んめぇぇぇっ!!」


ジュウベエが疾風の如き速さで、時雨へと目掛けて飛び掛かっていた。


「よくも幸人を! 殺してやるぅ!!」


主人が惨殺された事が許せないのだ。


“シャアッ”とその爪を時雨の喉元へ振りかざすが――


「うおっ! 危ね!」


しかし寸での処で避けられ、更には着地後、返す刀で再度飛び掛かるが――


「落ち着けって! アイツが弱いから仕方無いんだよ」


むんずと首根っこを掴まれてしまい、その爪は虚しく空を切る。


ジュウベエは尚も抗おうとするが、空中地団駄状態だ。


「それより俺んとこ来ないか? お前が気にいっちまったんだ」


時雨はニカっと笑顔を見せ、ジュウベエを懐柔の構えだ。


“コイツ……よくもいけいけしゃあしゃあと!”


勿論答えはNOに決まってる。


「ははは、そう嫌がんなって」


しかしこの状態では、抗おうにも抗えなかった。


『幸人……くそぉおぉぉぉっ!!』


彼は自分の無力さを呪った。言葉にならない慟哭が響く。


「今日は気分が良いぜ! なんたってあいつを――」


「茶番はそこまでにしとけ」


それは割り込む様に、不意に聴こえた二人以外の声。


「――っ!!」


時雨は反射的に振り返り、そして己が目を疑った。


「なっ……なんで?」


先程確かに身体の部位が無数に分断され、血の海に沈んだ筈の――


「ゆっ……幸人っ!?」


ジュウベエも思わず声を上げる。


主人の無事を喜ぶというより、それは怪訝そうな表情で。


夢が現か雫が変わらぬ姿で、斜に腕組みしながら時雨の背後に立ち誇っていた。


不可解な現象に反射的に距離を取った時雨だが、すぐに疑問が氷解する。


「久々で浮かれちまって、つい忘れてたよ……」


落ち着きはらった口調の時雨。


「え……えぇ……は?」


首根っこを掴まれていたジュウベエは、既にそっと離されており、彼は相変わらず唖然としてその場で固まっていた。


「そういやお前も使えるんだったっけ? 俺と同様、水傀儡ならぬ……氷傀儡を――」



“ゴーストゼロ・ファントムミラージュ ~鏡花水月:幻氷界”



それは写し鏡の如く、現象まで精巧に再現した氷の幻影。


地に散らばってる遺骸だった“モノ”は、既に血の海には無い。


それ処か血痕すら無い。部位大の氷の破片が散らばってるだけだった。


だが最初に刻まれた雫の無数の裂傷はそのままだ。


恐らくは時雨に五体を囚われた、あの寸前の瞬間に入れ替わっていたのだろう。


それはまるで、水面に映る月が決して掴めぬ様に――


「まあ死期が一瞬延びただけ。お前が俺に劣る事に変わりはねぇ。それにこれで終わりじゃ、余りに拍子抜けもいいとこだ」


「そうだそうだ! オレまで騙すなんて趣味悪ぃぞ幸人!」


時雨は再度、血の双鞭を発現させ、ジュウベエは主人に文句を垂れてはいるが、その口調は何処か安堵が感じられた。


それは無事だった事。時雨もまた同様に、再び続きが出来る事への悦びなのか。


「次は逃さねぇよ?」


忍び寄る紅き双鞭。


振り出しに戻った感はあれど、俄然時雨が有利な事に違いはない。


多数の裂傷を負った雫とは違い、彼は未だに無傷――


「……おめでたい奴だ。まだ気付いてないのか?」


腕組みしたまま臨戦態勢に入らない雫の、その突然の言葉の意味。


「あん? 何訳の分から――っ!!」


分からなかったが次の瞬間、時雨はすぐに理解する事となる。


その言葉の意味を――
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