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三の罪状

コカイントラスト

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不意に鳴らされる手拍子の音。


「はい皆さん。お集まりになられたみたいですので……」


琉月だった。皆の注目が集まる。


「これよりランクS依頼、内容説明を開始致します」


相変わらず口調とは裏腹の不気味な仮面。


その手には沢山の資料、書類が掲げられている。


そのまま黙して動かないそれは、各々取りに来いという意味だ。


「…………」


各々のエリミネーターが琉月の下へ赴き、その手から資料を受け取っていく。


幸人も一応受け取ったが、興味が無いのか最初からか、部屋の隅に背もたれ、片手だけでやる気無さそうに資料を眺めている。


資料を眺める各々が、今回の内容に思わず目を見張っていたにも拘わらず。


「コカイントラスト……麻薬密売請負人、及び組織の消去殲滅か」


幸人に代り、その左肩から資料を覗いていたジュウベエが、今回の依頼の概要を代弁。


仲介所内はその依頼内容に、武者震いに近い空気が張り詰めていく。


“コカイントラスト(麻薬密売請負人)”


社会の闇に巣食う、世界の癌とも云えるこれらの組織は、人を狂わす麻薬密売のみならず、組織によっては殺人請負、人身売買、銃器取引、臓器密輸等を生業とする裏の住人達。


今回の依頼はまさしく“裏 対 裏”の構図。


各々が内容に対する武者震いや、ランクSなのも当然。


裏に位置する彼等は、各々がその道のエキスパートだからだ。


「今回の依頼は御覧の通り、コカイントラストの消去及び、組織の殲滅――」


琉月は事もなげに話を進めていく。


資料にはその組織名と、其処の中心人物の情報が網羅されていた。


背広にネクタイ。にこやかな笑みを浮かべている、薄い白髪混じりで中年肥りの男性は、ニュースでよく報道されそうな汚職政治家風。


彼等に共通する、“裏の顔有ります”雰囲気丸出し。


「今回の最重要ターゲット、世良 芳文(せらよしふみ)53歳。国内でも有数なコカイントラストの一人であり、麻薬密売組織“diva(ディ-バ)”を束ねる裏世界の重鎮ですね」


“麻薬密売請負組織 diva”


日本国内を拠点にした、世界でも名の知れたコカイントラスト、世良 芳文が率いる麻薬密売組織。


divaは麻薬密売のみならず、人身売買や臓器密輸を手掛ける二足のわらじ。


国内での行方不明者の半数が、divaが関与しているのでは? と囁かれる程。


構成員69名。その全員が世良のボディーガードを勤めると共に、営利誘拐や殺人を得意とする、裏世界一流のプロである。


「…………」


“これは骨が折れそうだ”


誰もが資料から推測する、依頼難度の高さに神妙な面持ち。


しかし旨味もそれに伴う事は間違いない。


そして琉月からの朗報が――


「日本国政府はdivaを、最重要危険分子と判断。超法規的依頼により、狂座への依頼金額、18億5000万円で消去依頼通達を承っております」


これに皆が反応、むしろ待ってました。


それが一番の重要項目。


完遂した暁には、手元に入るのは二桁近い億。


俄に室内がざわつき始める。


“その金額が果たして割に合うかどうか?”


世良のみならず、組織自体の消去殲滅が完遂条件となっている。


つまりそれを“高い”と見るか“安い”と見るか、各々が様々な思惑で資料との睨めっこだ。


「さあ……請ける方はいらっしゃいますか? 立候補が多い場合、公平を期す為“ジャンケン”という形になります」


それが果たして公平なのか定かではないが、琉月は本気の陽気だ。


「割に合わないな……」


「危険過ぎる」


「私は今回はパスだ」


何人かのエリミネーターから、次々と辞退の声が上がっていた。


「俺は立候補しよう。この様なチャンス、またと無い」


その内一人が立候補する。


「確かに難易度は高いが……殺り甲斐は有りそうだ」


それに続く立候補。S級の熾震だ。


これで二名。後は難色を示している。


「お前は行かないのか幸人?」


ジュウベエが幸人の耳許で囁き、権利を促す。


「どうだかな……」


しかし腕組みしたまま、彼は動く素振りすら見せない。


誰も請けないのなら、自分が動くつもりだったのだろう。


だが今は二名が立候補している。


今立候補しているA級の彼では、今回の完遂率は10%にも満たないだろう。


だがS級であり、熾震の力ならその確率は50%以上に引き上げられるだろうと判断。


A級とS級の間には、それ程までに越えられない壁が有る。


熾震が本決まりになりさえすれば、結果自分がわざわざ出張る必要は無い事を。


「この二名で宜しいので?」


最終決断。琉月の声が木霊する。


それは幸人に対する期待も、もしかしたらあったのかも知れない。


「では……」


二人のどちらかに決めようとした矢先の事。


「――っ!?」


突如室内の扉が勢いよく開かれた。


瞬間、全員の視線が其処に集まる。
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