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二の罪状
管理部門
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――――事件当日――――
************
「ふぅ、ごっそうさん」
事の終わった檜山は、チャックを閉めながら一息吐いた。
「血が汚ねぇな……。シャワーでも借りるか」
檜山はまるで何事もなく、汚れを落とすかの様に浴槽へ向かう。
その場に打ち捨てられた様に残された遺骸をそのままに。
家中に吐き気を催す鉄分の匂いが充満している。
床に伏せた少女の瞳からは涙の零れた跡が残っており、その開いた瞳孔が戻る事は、もう二度と無い。
よたよたと、夥しい血痕を垂れながら少女に近付く影。
彼は変わり果てた主人の涙の跡を舐め取ると、その場に暫し立ち尽くす。
『フンフーン』
近くからシャワーの音に混じって、陽気な鼻唄が聞こえてきた。
その刹那、突如近くの液晶テレビに電源が入る。
映し出されたのは、真っ赤な画像に狂座の二文字。
彼は死力を振り絞り、テレビ前まで歩いた。
“恨み晴らします”
彼は願った。この想いを。
だがこれにはお金が必要な事が理解出来た。
勿論持っている訳が無い。
“――この命、もう少しだけもってくれ……”
彼は思い出したかの様に二階へ上がる。
再び降りてきた時、彼の口には可愛らしいピンク色の、豚形貯金箱がくわえられていた。
“この想いは主人である少女と一緒に”
液晶画面には『受理されました』の文字。
それを確認した彼は少女の傍らまで行き、寄り添う様に瞳を綴じて、そのまま二度と動かなくなった。
それと同時に液晶の電源も落ちる。
けたたましいサイレンの音が聞こえてきたのは、それからすぐ後の事だった。
――――同時刻――――
※場所 ???
第一管理室(関係者以外立ち入り禁止)
“桔狂ノ間”
************
「参りましたね……」
そうパソコンの液晶画面を眺めながら、戸惑いがちに溜め息を漏らしていた。
どこぞの企業の管理室内だろうか?
消灯した室内に幾多ものパソコンが建ち並んでおり、それぞれに職員が向き合い職務にあたる。
時間は深夜帯。遅くまで残業御苦労様。
にしては、室内を消灯している意味が不明かつ不自然。
ディスプレイの燈だけが、薄暗い室内の目印となっている。
しかし誰も疑問を口にしない。
これが非日常の日常だからだ。
「花修院社長、先程の依頼の事……ですよね?」
一人の女性職員が、先程の戸惑いに声を向ける。
薄暗さで共に全貌は視覚困難だが、彼女の声と立ち位置からして先程の呟きの声の主は、この企業の上司というか社長のようだ。
「ええ……。と、此処では“コードネーム”で呼びなさいとあれ程……。他の者に示しがつかないでしょう?」
「あっ! 申し訳有りません『霸屡(ハル)』様、つい……」
上司が部下の失態を咎める様なやり取り。
「全く貴女は……」
しかし不思議と殺伐さは感じさせなかった。
この『霸屡』と、何の意図があるのか分からない暗号名で呼ばせた、彼女の上司もとい社長と思わしきその人物は、トレードマークの四角黒縁眼鏡を右指でクイッと上げる。
暗闇でも映える純白の企業用ロングコートを身に纏い、液晶の燈から照らし出されたそれは、青年実業家ともとれる若さの風貌だが、気苦労からか流しストレートの白髪混じり。
――否、違う。
白髪に見えるそれは、一際異彩を放つ深い灰色。
恐ろしく切れの長いその瞳までもが、幸人『雫』とはまた異なる、毛髪と呼応する異彩色だった。
“花修院 春樹(かじゅういん はるき)”
近年急速に拡大し、一大IT企業へとその名を馳せた。
“クレイティル”
その創始者、弱冠28才の若き社長。
その脅威の頭脳とセンスは、IT文明の革命児とも云われ、世界にその名を轟かせた。
だがその裏は消去代行請負組織“狂座”管理部門所属。
コードネーム『霸屡』
位階級:管理部門統括、その人であった。
表には出る事は無い、現在の科学力では不可能な現象物の多数を開発。
更には電脳と異能を融合させた、近未来型ネットワークを確立させており、狂座の中枢を担っている。
これにより、人の心と電脳世界を繋いでいるが、その核となる感情は――
“憎悪”
その一点のみである。
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「ふぅ、ごっそうさん」
事の終わった檜山は、チャックを閉めながら一息吐いた。
「血が汚ねぇな……。シャワーでも借りるか」
檜山はまるで何事もなく、汚れを落とすかの様に浴槽へ向かう。
その場に打ち捨てられた様に残された遺骸をそのままに。
家中に吐き気を催す鉄分の匂いが充満している。
床に伏せた少女の瞳からは涙の零れた跡が残っており、その開いた瞳孔が戻る事は、もう二度と無い。
よたよたと、夥しい血痕を垂れながら少女に近付く影。
彼は変わり果てた主人の涙の跡を舐め取ると、その場に暫し立ち尽くす。
『フンフーン』
近くからシャワーの音に混じって、陽気な鼻唄が聞こえてきた。
その刹那、突如近くの液晶テレビに電源が入る。
映し出されたのは、真っ赤な画像に狂座の二文字。
彼は死力を振り絞り、テレビ前まで歩いた。
“恨み晴らします”
彼は願った。この想いを。
だがこれにはお金が必要な事が理解出来た。
勿論持っている訳が無い。
“――この命、もう少しだけもってくれ……”
彼は思い出したかの様に二階へ上がる。
再び降りてきた時、彼の口には可愛らしいピンク色の、豚形貯金箱がくわえられていた。
“この想いは主人である少女と一緒に”
液晶画面には『受理されました』の文字。
それを確認した彼は少女の傍らまで行き、寄り添う様に瞳を綴じて、そのまま二度と動かなくなった。
それと同時に液晶の電源も落ちる。
けたたましいサイレンの音が聞こえてきたのは、それからすぐ後の事だった。
――――同時刻――――
※場所 ???
第一管理室(関係者以外立ち入り禁止)
“桔狂ノ間”
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「参りましたね……」
そうパソコンの液晶画面を眺めながら、戸惑いがちに溜め息を漏らしていた。
どこぞの企業の管理室内だろうか?
消灯した室内に幾多ものパソコンが建ち並んでおり、それぞれに職員が向き合い職務にあたる。
時間は深夜帯。遅くまで残業御苦労様。
にしては、室内を消灯している意味が不明かつ不自然。
ディスプレイの燈だけが、薄暗い室内の目印となっている。
しかし誰も疑問を口にしない。
これが非日常の日常だからだ。
「花修院社長、先程の依頼の事……ですよね?」
一人の女性職員が、先程の戸惑いに声を向ける。
薄暗さで共に全貌は視覚困難だが、彼女の声と立ち位置からして先程の呟きの声の主は、この企業の上司というか社長のようだ。
「ええ……。と、此処では“コードネーム”で呼びなさいとあれ程……。他の者に示しがつかないでしょう?」
「あっ! 申し訳有りません『霸屡(ハル)』様、つい……」
上司が部下の失態を咎める様なやり取り。
「全く貴女は……」
しかし不思議と殺伐さは感じさせなかった。
この『霸屡』と、何の意図があるのか分からない暗号名で呼ばせた、彼女の上司もとい社長と思わしきその人物は、トレードマークの四角黒縁眼鏡を右指でクイッと上げる。
暗闇でも映える純白の企業用ロングコートを身に纏い、液晶の燈から照らし出されたそれは、青年実業家ともとれる若さの風貌だが、気苦労からか流しストレートの白髪混じり。
――否、違う。
白髪に見えるそれは、一際異彩を放つ深い灰色。
恐ろしく切れの長いその瞳までもが、幸人『雫』とはまた異なる、毛髪と呼応する異彩色だった。
“花修院 春樹(かじゅういん はるき)”
近年急速に拡大し、一大IT企業へとその名を馳せた。
“クレイティル”
その創始者、弱冠28才の若き社長。
その脅威の頭脳とセンスは、IT文明の革命児とも云われ、世界にその名を轟かせた。
だがその裏は消去代行請負組織“狂座”管理部門所属。
コードネーム『霸屡』
位階級:管理部門統括、その人であった。
表には出る事は無い、現在の科学力では不可能な現象物の多数を開発。
更には電脳と異能を融合させた、近未来型ネットワークを確立させており、狂座の中枢を担っている。
これにより、人の心と電脳世界を繋いでいるが、その核となる感情は――
“憎悪”
その一点のみである。
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